第30話 クエスト?
「商店街ではなく、迷宮と北門の間のちょっと奥まったところにあるのです」
そう言いながら、アンジェは勝手知ったるという感じで歩いていく。
こっち方向の店と言うと、攻略Webにあった場所のような気がする。
念の為、俺はアンジェに確認というか、それとない感じで聞いてみた。
「よくそんな場所にある店を知っているな」
「冒険者ギルドで紹介されたのですよ。薬草をここまで下処理出来るのなら、直接売った方が儲かるって言われて。冒険者ギルドの売店に薬を卸している信用できる人だから、大丈夫だって言っていたのです」
疑惑は深まった!
確かあの『薬品作りマスタークエスト』は、そんなきっかけで始まるのだ。
店を紹介してもらう条件は、『薬草を3種類以上、品質A水準で下処理済みの状態で、冒険者ギルドに納めること』。
そして店でポーション作りを教えてもらう条件は、『レベル5以上になっていて、店で頼まれた薬草を採取し、品質A水準で下処理済みの状態で納入すること』
なら現時点でも、クエストが発生するかもしれない。
現に薬屋を紹介してもらうところまでは、進んでいるようだし。
その先に進んでいないのは、アンジェのレベルが足りなかったからだろう。
いや、待て。
いくらなんでも、そこまでゲームのと同一ということはないだろう。
それはご都合主義というものだ。
そう思いつつ、適当な雑談をしながらたどり着いたのは……
間違いなく、あの薬屋だった。
攻略Webの画像で何回も見ているから、間違いない。
とりあえず俺は動揺を表に出さないようにしつつ、アンジェに全てを任せる。
「こんにちは、アンジェです。今日も薬草を何種類か採ってきたのですが、大丈夫なのですか?」
出てきたのも、攻略Webで何度も見た小柄な中年女性。
名前は確か、ファルマさんだったと思う。
「アンジェちゃんなら大歓迎だよ。この街じゃ薬草は常に不足しているからねえ。ところでアンジェちゃん、パーティを組んだのかい?」
ゲームのクエストとは違う台詞だ。
でもここで安心してはいけない。
何か起こりそうな予感がする。
「そうなのですよ。おかげで迷宮内に入って、思う存分採取できたのです。まだ第一階層だけですけれど、今回はいつもの5倍以上採れたのです。ということでフォルティさん、遠慮せずこの台の上に全部出して欲しいのです」
アンジェがそう言うなら、そのとおりにしておこう。
俺はアンジェが下処理した薬草を、全部台の上に出す。
「なるほど、確かに迷宮で採ってきた様だね。ならアンジェちゃんも、そろそろ採取だけでなく、次の知識を覚えてもいい頃だね」
こう来たか!
流れも、理由も、ゲームとは全く違う。
それでもこれは間違いなく、薬品作りを教えるよという意味だろう。
「どういうこと、なのですか?」
アンジェは何が起こっているか、わかっていない様だ。
でもここは、同じパーティの一員として、頭を下げておこう。
「お願いします。必要なものがあったら用意しますし、買うべきものがあったら支払います」
お店のおばさん、おそらくファルマさんは、にやりと笑みを浮かべた。
「こっちのお兄さんは、わかっている様だね。大丈夫、アンジェちゃんには、今まで品質のいい薬草を納入してもらっているからね、サービスさ。それじゃ夕方までアンジェちゃんを借りるけれど、それでいいかい?」
やっぱり『薬品作りマスタークエスト』が、始まってしまった様だ。
なら初級より上の、一般薬品が作れるようになる可能性が高い。
こちらとしては大変にありがたい、のだけれど……
「もちろんです。なんでしたら、昼食を買ってまいりましょうか」
昼食前という、非常に間の悪い時間だ。
なので念の為、そう聞いてみた。
「こっちは大丈夫さ。食べて確認することも、薬品つくりには必要だからね。そっちはそっちでしっかり昼を食べて、それから少し鍛えておきな。あんたなら忠告しなくても大丈夫そうだけれどね」
何か引っかかる。
ここは思い切って聞いてみた方がいいかもしれない。
そう思ったところで。
「ひょっとして、薬品作りを教えてもらえるのですか?」
やっとアンジェ、気づいたようだ。
「ああ、そういうことさ。もちろん半日ちょいで私が教えられることなんて、限りがある。それでも初級薬品なら確実に、上手くいけばもっと上級の薬品まで覚えられると思うよ」
「ありがとうございます」
もう一度俺は、彼女に頭を下げる。
「それじゃ細かい話は後ということで。17時ころ、ここへ戻っておいで」
「わかりました。それでは昼食を食べたら迷宮を少し回って、それから戻ってこようと思います。それではアンジェを、よろしくおねがいします」
俺はもう一度、頭を下げた。




