第29話 薬草の処理
装備を整えた後、俺とアンジェは近接武器で、クリスとシャルは攻撃魔法で戦う練習をしながら、採れる場所では更に薬草を採取して。
もういいだろうと思ったので、俺は宣言する。
「ここで出て来る魔物は一通り倒せるようになったし、そろそろ第一階層は終わらせていいだろう。第二階層まで行って終わりにしよう」
第一階層の中央付近を縦断する道に入り、中央にある第二階層への階段を目指す。
森の中を通っている、幅が3mくらいの石畳の道を300mくらい歩いたところで、第二階層への階段がある石造りの建物に着いた。
中へ入って階段を降りると、第二階層の入口。
出口の他に、階層移動用の魔法陣が設置された小部屋がある。
「帰って外に出るぞ。そろそろ疲れた」
「確かに疲れたのです。魔物を倒しただけではなく、これでもかというくらいの薬草採取もしたのです」
「そうですね。それに一度休憩して、魔力をある程度回復させた方がいいでしょう」
このクリスの言葉は、シャルの魔力が残り4分の1を切っていることに気づいているからだろう。
なおクリスはまだ半分以上魔力が残っているし、俺に至っては魔力の2割を使ったかどうかだけれども。
実はここで外に出て休憩するのには、他にも理由がある。
明日終わりまでにアンジェがポーションを作れる様になるためには、ここでやっておくべき事があるのだ。
階層移動用の魔法陣を使って、出口受付のすぐ横の小部屋に出て。
受付に冒険者証と角ウサギの死体やスライム、ゴブリンの魔石、ゴブリンの装備等を出して。
報奨金の金額計算の間に、クリスたちと打ち合わせ。
「まだ昼食には早いから、少し買い物してから帰るつもりだ。買いたいものは薬品調製用のガラス器具一式なんだが、良さそうな店はわかるか?」
アンジェが薬品を作れる様になるためには、錬金窯だけでなく。調合したり保存したりするガラス器具が必要になる。
これは消耗品扱いだから、先程のミミックからは出てこなかった。
だから自分で購入するしかないわけだ。
ゲームの場合は、クエストでそこそこの数が手に入るから、すぐに買う必要はないのだけれど。
この通称『薬品作りマスタークエスト』は、具体的にはこんな流れで進行する。
① ある薬屋に行くと、幾つかの薬草が不足で困っているという話を聞く
② 必要な薬草を採取して、持って行く
③ 店主を手伝って薬草を処理することでスキルポイントが上がって、初級以上の薬品を作れるようになる
④ 店主から必要なガラス器具などを貰って、以降は自分一人でもポーションが作れる様になる
しかし薬屋が材料不足で困っているなんてことは、そうあることではないだろう。
そんなことでは、あっという間に商品不足で潰れてしまうだろうから。
そもそもこの材料不足は、マルド王国が滅亡して流通体制が崩壊しているのが原因だったはずだ。
そしてマルド王国は、国王は死んだが今のところ滅亡はしていない模様。
だから今回、アンジェに薬品作りを覚えさせるのは、次の手順で行うつもりだ。
① 俺があのクエストを思い出しながら物を揃えて
② 必要な薬草は迷宮でたっぷりと採取して
② アンジェに薬草の加工を大量にさせてスキルポイントを稼ぎ
③ ポーションを作れるようにする
ゲーム『パルティカ』と全く同じ方法ではない。
だから、どこの店でポーション作製に必要なガラス器具を買うかは、俺にはわからない。
それで、アンジェやクリスたちに聞いてみたのだけれど……
「私はシルケンゾーの店を、ほとんど知らないのです。すみません」
まずクリスが『わからない』宣言。
シャルも頷く。
一方でアンジェは、心当たりがある様だ。
「なら私が、いつも薬草を納めている店に聞いてみるのですよ。一次処理した後に持って行けば、冒険者ギルドの5割増しで買い取ってくれる、いい店なのです。割と親切なので、きっと教えてくれると思うのです」
なら、アンジェに任せるのがいいだろう。
「わかった。それじゃ薬草の一次処理までやってから、その店に持ち込もう」
まだ昼まで2時間はある。
だから薬草の処理をして、店に行って、それから昼食でも問題はないだろう。
「それじゃ一度宿に戻って、採取した薬草を処理してから行くのです。室内の方が処理はやりやすいのですよ」
ということで、報奨金を受け取って迷宮を出た後、宿に戻る。
更に部屋に並んでいるベッドを全部魔法で収納し、代わりに収納内に入っていた大きいテーブルと適当な椅子を出した。
「これで作業はしやすいだろう」
「確かにそうなのです。ありがたく使わせて貰うのです」
「クリスは、適当に換気を頼む。あと魔法で水を出す際は、シャルも手伝ってくれ。バケツが必要ならこれとこれ」
何せサタナテスで、何でもかんでも収納している。
だから雑多な道具類も、そこそこ豊富だ。
「ありがとうございます。これなら大量に採取した薬草も、処理しまくれるのです」
「薬草をどうやって処理するか、見ていてもいいですか」
「勿論なのですよ。なら解説をしながら作業するのです。まずは切り傷擦り傷からちょい大きな裂傷まで、傷薬系に欠かせない薬草のクロフェルから作業を開始するのです。フォルティさん、つる性で葉っぱが手のひらよりやや小さく、ハート型をしていて臭い奴を出して欲しいのです」
「わかった」
作業が始まる。
◇◇◇
そして1時間後。
「ここまで万全のバックアップ体制があると、処理がはかどるのですよ。いつもはこの半分の処理に、倍近い時間がかかるのです」
「でもアンジェの作業は見事でした、切って大きさを揃えたり乾燥させたり、粉末にしたり。薬草の種類と処理方法、それに処理用の魔法を使いこなしていないと出来ない作業です」
「5年くらい毎日やっていれば、ゴブリンだってこの程度は覚えるのですよ。ということで、納入ついでにガラス器具のことを聞きに行かないですか」
まだ昼食には少し早めの時間だ。
だから昼食より、用件をさっさと済ませておきたい。
「ああ、それじゃ皆で行くとしよう」
強いて言えば、今回は誤算が1つある。
アンジェがポーションに使用する薬草は、残しておきたかった。
このままでは、処理済みの薬草を全部なじみの薬屋に売ってしまいそうだ。
しかし午前中の薬草採取の状況を考えると、迷宮で1時間もすれば、必要量は充分確保出来るだろう。
それなら昼食を食べてから迷宮に行けばいい。
シャルも魔力は回復した様だし、問題はないだろう。




