第28話 説明、あるいは弁解
「錬金釜は、とりあえず俺が収納しておこう。あと革鎧とマントは、おそらく今着ているものより質は上の筈だ。ここで装着しておいた方がいい」
アンジェが着ている革鎧は、革部分も金具もボロボロだ。
修理する価値はないけれど、着ていないよりは防御力があるから、武器屋等で捨て値で売っている類いだろう。
「わかったのです。」
アンジェはそう言って、着替え始める。
「それにしても何か都合が良すぎて、怪しい気がするのです。この宝箱も、さっきの討伐場所も」
確かにアンジェの言う通りだろう。
何せゲームのチュートリアル用そのままの場所だ。
現実だとは思えない。
しかし俺は、攻略Webサイトを読み込んでいる。
その中にはこの『都合が良すぎる』に対する言い訳というか、公式の説明なんてのも載っていたのだ。
だから説明も難しくない。
「迷宮の中を隅々まで調べれば、便利な場所は幾つか発見出来るだろう。今回ここまで辿ったのは、先人が発見した、そういった便利な場所を把握して、初心者に便利な様につなぎあわせたコースだ。都合が良すぎるコースが、最初からあったわけじゃない」
「確かにそう言われると、納得は出来るのです。ただその便利なコースをフォルティだけが知っていて、他の人が活用していないのが不思議なのです」
実はその理由というか言い訳も、攻略サイトに載っていた。
「実は冒険者ギルドも、今たどったコースは知っている。ただ初心者装備が出てくる宝箱なんて、広まったら武器屋や鍛冶師にとっては大問題だろう。一番売れるのは、初心者用クラスの安価な装備類だからな」
クリスとシャルは、うんうんと頷いて聞いている。
しかしアンジェは、まだ疑問がある様だ。
「ならこの宝箱については、納得するのです。それでもあの安全に魔物を倒せる場所は、公開してもいいと思うのです」
もちろんそっちの言い訳も、俺は知っている。
「理由は大きくわけて三つだ。
まず一つめ。あそこで慣れると、迷宮なんて簡単だと、なめ腐った冒険者が増えかねない。そうでなくとも、自分の実力以上のところに安易に踏み込んで怪我をしたり、死んだりする冒険者は多いんだ。
だから魔物がそれほど強くない、C級クラスの冒険者なら問題なく冒険者の救出や、最悪死体や遺品の捜索が出来る階層で、厳しさを理解して貰う。駄目な冒険者が犯罪に走る場合でも、まずは熟練冒険者なら調査活動が可能な階層で起こさせる。そのためには、簡単に魔物を倒せるような場所は教えない方がいい」
アンジェだけでなく、クリスもシャルも聞いて理解できてそうなのを確認して、更に次の説明へ。
「二つ目の理由は、魔物素材の価格維持と、迷宮内の問題行動の未然防止だ。さっきの場所が明らかになると、あそこにとどまって魔物狩りをする冒険者が増えるだろう。そうすれば角ウサギ素材やゴブリンの使用していた武器などの素材の価格が、大幅に下がってしまう可能性が高い。更にはあそこの場所を確保するため、冒険者どうしで争いが起こる可能性も否定出来ない」
我ながらよく覚えているなとは思う。
ゲームが出来ない分、攻略Webを熟読した結果だけれど。
「三つ目の理由は、『迷宮は、入る人全体の強さによって、魔物の強さや罠の難易度が変わるのではないか』という学説があるからだ。この説が正しい場合、このコースが一般的になって迷宮を攻略する冒険者全体の強さが底上げされる可能性が高い。結果、全部の迷宮が一気に難しくなるおそれがあるわけだ。
以上の理由で、冒険者ギルドは把握していても、公開していない。初心者講習で一部だけ教えたりはするけれどな。第一階層で危険を感じたら、東側の壁近く目指して走れとか」
更にダメ押しで、証拠を追加しておこう。
「昨日この迷宮に入る際、俺が『迷宮のお試しで、東側を外壁に沿って行って、薬草の採取に行くつもり』と説明したら、あっさり通してくれただろう。装備なしのE級冒険者3人でも。これは冒険者ギルド職員が、そのコースが安全だと知っていたからだ。そしてそのコースを知っている者なら、武器や防具が無くとも安全に帰ってこれるだろうと判断した。そういうことだ」
クリスとシャルが頷いたのを確認。
それでは最後に、こう言ってまとめておこう。
「今後も、魔物討伐に慣れたり技術を身につけたりするために、こういった便利な場所を使うつもりだ。ただこういった場所は、さっき言ったような理由で一般に情報公開されていない。それは覚えておいてくれ」
さて、アンジェは会話しながらも、装備を身につけたようだ。
脱いだ革鎧を魔法で収納して、そして俺は3人に告げる。
「さて、それでは次は、薬草が多い場所を経由して第二階層を目指す。アンジェは薬草を採取する際、クリスやシャルに色々教えてやってくれ。どんな場所に生えていて、見分け方はどうで、採取部位はどこで、注意するべき点は何かとか。ここからは魔物も普通に出るが、俺が索敵をするから心配しなくていい」
もちろんこれは、俺自身を含む全員のスキルアップのためだ。
「わかったのです。既にここまでで、かなりお世話になっているのです。出来ることなら何でもするのです」
その『出来ることなら何でもする』で、昨日のクリスとの会話を思い出してしまったのは内緒だ。
更には『アンジェはクリスほど胸はないけれど、これはこれで……』なんて思ってしまったのも。
態度には出なかったと思うから、問題ない。
そう、多分、きっと。




