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審判魔法は偽らない  作者: 於田縫紀
プロローグ 勇者召喚

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3/4

第3話 経緯

 移動したのは、石造りの建物の2階の中。

 天井が崩れ空が見えるのは、出来るだけ人の反応から外れた場所を選んだ結果だ。


 人がいないのは、周囲の建物の中でも特にボロだから。

 実際ボロすぎて、俺がいる部屋の床もいつ落ちるか心配なくらい。

 落ちそうになったら、転移魔法で移動すればいいだけだ。

 長居をするつもりはないので問題ない。


 さて、俺はこの世界でどうやって生き抜くかを考えるとしよう。

 まずは状況の整理からだ。

 俺はこの世界に移動した経緯を、もう一度頭の中で思い出す。


 ◇◇◇


 俺が進藤(しんどう)颯人(はやと)だった最後の記憶は、大学入学を控えた4月。

 契約したばかりのアパートの自室で、パソコンゲームをやっていたというもの。

 

 実家が厳しすぎた結果、ゲームが一切禁止されていた。

 スマホもゲームが出来ない様、高校生になっても最低限の機能しかないキッズケータイを持たされていたくらいだ。


 それでも授業で使うタブレットで、ネットの文字や画像情報くらいは検索できる。

 ゲームが出来ないので、攻略サイトなどをそうやって読んで、せめてゲームをやったつもりになっていた。


 中でも一番よく読んだのは、『パルティカ』の攻略ページだ。

『パルティカ』は、異世界にあるバルティカ大陸の6カ国のどれかに転移して、自分のスキルや魔法を使って生きていくというフリーシナリオ型のバーチャル(V)リアリティ(R)大規模多人数(M)同時参加型(M)オンライン(O)ロールプレイング(RP)ゲーム(G)

 世界設定が緻密で、単なる植物すら進化過程とか適した環境とか、設定が細かく無理がないところが気に入っていた。


 だから家からは絶対に通えない遠方の名門大学を第一志望にして、見事現役で合格。

 大学に入学するため、アパートを借りて引っ越した後。


 パソコンに『パルティカ』をインストールして、リモートの授業を受講するのに必要と言い張って購入したVRヘッドセットをつけて。

 さっそくゲームをはじめたというわけだ。


 VRMMOゲームの常として最初に行うのは、自分の分身であるプレイヤーキャラクターの作成。

 今までの攻略ページを読んだ知識から『パルティカ』的に最強なプレイヤーキャラを作りあげた直後。


 俺は異常な空間に飛ばされた。

 引っ越したばかりのアパートではない、ゲームの攻略ページにも載っていない、未知の場所に。


 床も壁も天井もない、ひたすら白い空間だった。

 そして眼の前に気配としか言い様がない、圧倒的な力を感じる。

 姿そのものは見えないけれど、感じるのだ。


「時間がないので手短に伝えます。あなたは神の勇者を召喚する魔法で、パルティカ大陸に召喚されようとしています」

 

 えっ!? 何だ、これは。

『パルティカ』の攻略情報は一通り頭に入っている。

 しかしゲームに、こんな場面はなかった筈だ。


「これは仮想現実のゲームではありません。今のあなたにとっての現実です。下界の愚か者によって、あなたは勇者として召喚されようとしています。ですがこのことは、この世界の神である私の本意ではありません。この勇者召喚は、召喚を計画した者と行った者、それぞれの私利私欲によって行われました。その結果、あなたの魂は元の世界から引き離され、この世界の勇者の身体をまとって転生しようとしています」


 つまりこの声は、この世界の神の声という設定か。

 ゲームとしたら微妙にメタな発言だな。

 そう思いつつも、何かがおかしいという気がしてきた。


「繰り返しますが、これはゲームではありません。現実感がないのは状況的に理解できます。ですがそれでは話が進まないので、まずは私の話を聞いてください。

 詳しく説明する時間はありません。あなたの能力を簡単に説明します。あなたは勇者で勇者にふさわしい身体能力を持っていますが、今のままでは経験も知識も足りません。たとえば剣術等は初心者レベル、魔法もこれから言及するもののほかは、日常魔法程度しか使えません」


 ゲームの初期キャラと同じような能力だと思えばいいだろう。

 そう俺は理解する。


「ただし異世界から時空を超えて召喚されたという経緯によって、ある程度の空属性魔法を最初から使用可能です。具体的には近距離の遠見魔法、転移魔法、そして収納魔法などが使用出来ます」


 なかなか便利な魔法が最初から使える様だ。

 ただ攻撃魔法ではないから、戦闘はあれこれ考える必要がありそうと感じる。


「他に神の勇者として審査魔法と判決魔法を使用できます。審査魔法は相手が有罪であるかどうかを審判する魔法で、判決魔法は審判魔法で明らかになった罪状をもとに、処分を決定する魔法です。あわせて審判魔法、神の代理として審判を下すための魔法となります」


 なるほど、この世界の勇者とは、神の審判を代行する者なのか。

 ただその場合、神の信仰を扱う宗教団体とかはどういう扱いになるのだろう。


「現在のあの世界には、正しい形で正しい神を信仰する宗教団体はありません。全ては神である私と関係なく、人間の論理で構築されたものです。神の名も存在も、そのあり様も」


 今のは俺の思考に対する回答だろう。

 とすると、少なくともこの存在は、俺の思考を読むことが出来る様だ。

 ゲームではありえない気がする。


「私はこの世界の神ですから、その程度のことは可能です。さて、話をもとに戻します。審判魔法は、あなたの善悪観念を基準にします。人間界の国の法律が基準ではありません。なぜなら神には、人間の善悪基準は通用しないからです。ですので審判魔法も、国の法ではなく、神の勇者であるあなたの基準で裁かれます」


 神だから人の法や論理は通用しない。

 故に判断も、人の国や宗教などが作った法や戒律ではなく、神の代行者たる勇者、つまり俺が基準になるということか。


「そのとおりです。なお審判魔法を有効に発動させるため、審査魔法を発動した直後から判決魔法が終了するまでの必要な時間、具体的には10分程度、邪魔が入らない措置が自動的に発動します。具体的には被告は行動停止状態となるほか、あなたが必要と認識した空間が、他から遮断状態になります。それ以上については、使用すればわかる様にしておきます」


 つまり審査して判決を下すべきと判断した場合は、邪魔を気にしないでいいということだろうか。


「そのとおりです。それではまもなく、あなたは勇者の身体で召喚されます。しかしあなたは確かに神の勇者ですが、使命は特にありません。この召喚は神の意志ではなく、下界の愚か者の私欲によるものですから。ですからあなたはあなたの意思で、この世界で生き抜いてください」


 ここで一度、意識が途切れる。

 そして次に意識がもどったのは、あの教会の床の上というわけだ。

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