第2話 判決
ここで長々と考える時間はない。
審査魔法でいつまでも行動を止めていられるわけではない。
早めに判決魔法を発動した方がいいだろう。
こいつらを許す気はない。
『悪党であっても処分せず更生させさせるべきだ』という考え方は、俺は嫌いだ。
悪党が改心して更生したとされる者が美談として語られ、それまでに被害に遭った者を無視する論理を、俺は認めない。
今までに幾多の者を殺し、あるいは苦しめたのなら、それ以上他人を苦しめたりする前に処分すべきだろう。
それ以上に余分なコストを使用することなく。
だから俺は、魔法の発動を宣言する。
「判決魔法、被告はイングゼル六世とアドラナセル・ドゥタ・ハボロネ」
俺の脳裏に選択肢が思い浮かぶ。
俺なり判断基準に従った上で、この世界の事情を反映させて作られた、これらの者にふさわしい処分が、3種類。
『イングゼル六世にふさわしい処分を、決定してください。
1 死刑とし、王都中央広場にさらし首にする
2 五感を全て遮断の上、直接的、間接的を問わず今まで苦しめた者全ての苦悶を夢で体験し続ける
3 記憶や知識を保持したまま、魔物に変化させる』
俺は3を選ぶ。
俺のものでもこの2名のものでもない中性的な声が、周囲に響きわたった。
『被告イングゼル六世は、記憶や意識を保持したまま、下水スライムに変化させるものとする。なお国王であることを鑑み、審査結果および判決については、国民及び国内にいる者全てに神の御力をもって周知する』
魔法で魔物へ変化させる刑は、テオトゥラ教における最高刑らしい。
神の恩寵から離れ、今後二度と救われることがないことを意味しているから。
なお実際にテオトゥラという善神が実在するかどうかは別の問題。
存在していないことを、俺は知っているけれども。
宣言と同時に、国王と称した男の身体が崩れ始める。
わずかに響く悲鳴も、身体の変化によって発せなくなった。
それを見届けた後、アドラナセルに対する処分の選択肢が、先程と同様、脳裏に浮かび上がる。
俺が決定した後、再び先程の声が周囲へと響おた。
『被告アドラナセル・ドゥタ・ハボロネ。この者についても同様に、記憶や意識を保持したまま、下水スライムに変化させるものとする。なおこちらの審査結果及び判決は、国民及び国内にいる者、及びテオトゥラ教の教徒とされる全ての者に、神の御力をもって周知する』
更に追加の選択肢が出てきた。
『この処分が神によってなされたことを、判決を知った者に対して伝達しますか?』
肯定したところで、また周囲に声が流れた。
『更に今の2名への判決を知らされた者全てに対して、以降の文言を伝達する。『神の名の下に私欲を行使しようとした愚か者は、今後、真なる神の御力にて裁かれることになるだろう。神は何処へなりとも名を告げずに現れる。神を畏れよ』
こんなところだろう。
そう思ったところで、脳裏にメッセージが浮かぶ。
『以上で判決とそれに伴う処分は決定しました。判決魔法を終了します』
どうやらこれで終了の様だ。
さて、俺は召喚されて、この世界に来たばかり。
しかし神の勇者として、少しばかりの魔法が使用可能だ。
更にある程度はこの世界について知ってはいる。
この世界にVRMMORPG『パルティカ』の知識を流用できるなら、だけれども。
しかし現在着用しているシンプルな服の他に、金も武器も何も持っていない。
味方なんてのもいないし、召喚した輩2名は今の判決魔法でスライムと化してしまった。
とりあえずこの世界で生きていく為には、何とかして生活手段を確保しなければならない。
さしあたっては金とか、この世界で不審ではない服装とか。
見るとスライムと化した二人の、豪華な衣服や装備類はそのまま残っている。
あれについた宝石や貴金属は、金になりそうだ。
スライムに溶かされる前に回収しておこう。
『魔法収納!』
認識したものを異空間に収納して持ち歩ける、空属性の魔法だ。
俺は神の勇者として使用可能な審判魔法、つまり審査魔法と判決魔法の他は、空属性魔法の一部と、あとは生活魔法の類しか使用できない。
こういった今の俺の状況については、神と称する存在に少しだけ聞いてはいる。
しかし時間の余裕が無かったから、今後どうすべきかはまだ考えていない。
今の俺がどれくらい空属性の魔法を使用可能で、どれくらいこの魔法が役に立つか。
まだ正確にはわからない状態だ。
まずは落ち着いて考えられる場所を探そう。
遠見魔法を起動して、この教会の周囲を上空から見下ろす視点で確認する。
南西に少し離れたあたりに、明らかに寂れた感じの区画が見えた。
いわゆるスラム街という奴だ。
魔力反応を確認して、人の居場所を確認。
それなりに選べば、人がいない区画もあるようだ。
そこで落ち着いて、善後策を練るとしよう。
ということでざっと見てみて、人がほとんどいない一角を強く意識した上で。
「転移魔法」
魔法が発動するとともに、俺の視界は変化した。




