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審判魔法は偽らない  作者: 於田縫紀
プロローグ 勇者召喚

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第1話 転生

 後頭部、背中、尻、足に固い床の感触。

 身体だけでなく手も指も下についているようなので、極力手を動かさないようにして感触を確かめる。

 固い。つまり、実体がある床だ。


 先ほど聞いた通り、新たな身体に転生したということだろう。

 なら次の段階だ。

 俺は目を開け、身体を起こす。


 石造りっぽい、ホール状の室内。

 倒れ伏す様々な格好の人々。

 そして、服装だけは豪華な、醜悪なデブ2人。


「勇者が目覚めたか」


 まずは白に金色の刺繍と金ピカの飾りがついた服装で、やはり白いコックくらい縦に長い帽子を着た脂ギッシュな爺が、俺にそう語りかける。

 これで俺が、この国の言葉を聞いて理解できることが確認できた。

 次は俺の言葉が通じるかどうかを確認しよう。

 ということで、こう聞いてみる。


「ああ。それで此処は何処だ。何故神の勇者を召喚した」


「此処はマルド王国の王都トラルテスコ、テオトゥラ正教会マルド中央教会。私はテオトゥラ正教会マルド王国支部の責任者、大司教アドラナセル。そしてこちらにおられるのが、マルド国王のイングゼル六世陛下であらせられる」


 この言葉の使い方が日本と同じだとすれば、神の勇者である俺より国王の方が遙かに格上らしい。

 少なくともこの大司教にとっては、そのようだ。

 というのはともかくとして、俺の言葉が相手に伝わることもわかった。


 ただ出てきた固有名詞は、聞き覚えがある。

 間違いなく『パルティカ』で出てきたものだ。

 やはりこの世界は……

 そう思ったところで、今度は国王と言われた方が口を開いた。


「勇者よ。よくぞ我がマルド王国に来た」


 はやり『自分が格上であり、相手が格下である』という認識の下にあるようだ。


「このマルド王国、そしてこの世界そのものが危機に瀕している。故に我はこの世界を救うため、我らは神の勇者である其方を召喚した。さあ、我が手を取って、ともに戦おう」


 俺の目には、国王と称する男が差し出した右手を中心に、濃い紫色の煙のようなものが広がっているのが見える。

 これは魔力で、魔法が発動する兆候だ。

 手を握った時に、何かの魔法が発動するのだろう。

 俺に命令を強制するような魔法が。


 間違いない。

 俺は今のこの状況を、知っている。

 もちろん自分の経験とかではなく、文章で読んだだけだけれど。


 だから俺はすぐには手を取らず、倒れ伏している人々に視線を移して、俺が知っている状況と同じなのかを尋ねる。


「あの者達はどうしたのだ。死んでいるようだが」


 今の俺は、魔力や体力を見ることが可能だ。

 神の勇者としての能力ではなく、この世界の魔法を使える者全てが使用可能な一般的な能力だけれど。

 そして倒れている連中からは、魔力も体力も感じない。

 これはつまり、死んでいるということだ。


「この世界の危機を救う勇者を召喚するため、自らの命と魔力を捧げた者だ。あの者達の遺志を無駄にせぬためにも、勇者よ、国王の手を取って、ともに戦うことを誓え」


 大司教がそう告げるとともに、国王の手が更に近づいてきた。

 もういい、十分だ。

 先ほど神から聞いた話でも、俺の知識でも、この場の状況は明らかだ。


 ここはレクチャーされた魔法を使用するとしよう。

『パルティカ』で知っている状況からは、変わってしまうだろう。

 しかし下らない王の私欲のためにこき使われ、死ぬだなんてのはごめんだ。

 だから俺はあえて声に出して、魔法を起動する。


「審査魔法、対象は目の前の2人、国王と称する男と、大司教と称する男」


 2人の動きが止まった。

 それとともに、審査を行うのに必要な情報が、俺の視界に字幕のように表示される。


『イングゼル六世:勇者召喚を行った理由は、世界を救うためではない。神の名を騙って他国を侵略し領地を増やすとともに、その戦果と勇者の存在をもって同盟国4カ国における主導権を握るため。また今回の召喚に必要な魔力を得るため、付近の町人や衛士合計1,024人を命令で強制してこの聖堂に集めた後、魔力吸収で殺害した。なお国王の手に発動している魔法は『肯定の返答をして手を握った者を支配下に置き、自分の言葉に強制的に従わせる』という効果がある』


 1,024人を殺害した上、俺を支配下に置くつもりだった様だ。

 やはり俺の知識の通りだった。


 正直なところ、これだけで有罪、死刑と言いたくなる。

 でも一応これは現実だし、違いがあるかもしれない。

 だから背景も一応確認しておこう。

 そう思ったところで、また審査魔法により、自動的に情報が表示される。


『国王としての執政能力は無きに等しく、国の運営に必要な政治的判断のほとんどは部下が行っている。これまでに政治的判断として行ったのは、自分の贅沢のために国税を上げた(5回)、他国への侵略を命じた(2回)で、いずれも国力にはマイナスの影響しか与えていない。これらの悪政で国力が衰え、今までのような贅沢が行えなくなったことが、勇者召喚を行った原因のひとつである』


 俺が知っているのと同様、わかりやすく駄目で救いがない。

 でも念のため、大司教とやらの方も確認しておこう。


『国王からの多額の直接個人献金により、勇者召喚によって地位向上を図る案を提案。1,024人を殺害して勇者を召喚するという具体策を教示し、魔力吸収魔法でその命と魔力を奪い、勇者を召喚した張本人。なお今回の件に対する国王の献金により、自分用の性奴隷を24人から5人増やした』


 これも知っているとおりで、駄目駄目だ。

 けれど一応、本件以外の状況も聞いておこう。


『アドラナセル・ドゥタ・ハボロネ:主神テオトゥラを善神として崇めるテオトゥラ教の総本山である、ハボロネ聖公国の国主であり教主であるクユニールの長男。ただし素行が悪いことから次期教主候補から外され、マルド王国におけるテオトゥラ教の最高責任者として派遣された。魔力は高いが、性格的にも知力的にも責任者としての能力は無く、教会の運営はほぼ全て部下に任せ、自身は性奴隷との情交にふけっている。性奴隷が相手なのは、テオトゥラ教の聖職者は教主以外は妻帯を許されていないため』


 やっぱり知っているとおり、救い様がない状態だ。

 それでも判決魔法を発動する前に、最後の確認をしておく。


『2名とも、消えても平民の生活に悪影響はない』


 審査魔法はあっさり、そう表示した。

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