第25話 質疑応答(1)
その後、やはりアンジェに案内して貰って、宿へと向かう。
しかしその途中で、とんでもないことが決まってしまった。
これはアンジェが歩きながら、こんな事を言ったのがきっかけだ。
「希望通りの宿なら快適亭ですが、そこそこお高いのです。一人部屋でも確か、1泊正銀貨1枚以上するはずなのです。なので私はお安いところに泊まって、明日朝来るのです」
いや、それは個人的に好きな考え方じゃない。
「お試し期間とはいえ同じパーティなんだから、同じ宿でいいだろう。何なら俺が一人部屋なんだから、全員一人部屋でも問題ない」
今日はそれなりに魔物を倒しまくった上、例のパーティの死亡報告の分もあって、合計正銀貨4枚と小銀貨6枚、正銅貨3枚程稼いだ。
だから1人1部屋でも問題ない。
そう思ったところで、今度はクリスがこんなことを言う。
「私とシャルは同じ部屋でいいです。ですので一人部屋2つと二人部屋1つでいいでしょう」
「それは申し訳ないのですよ。それなら私は、安い宿に泊まって、翌朝こっちに来るのです」
そんな感じで話が揉めたところで。
「なら全員で一部屋なら、平等で問題ない」
シャルのそんな意見が、通ってしまったのである。
「男女一緒の部屋はまずいだろう。何なら俺は追加料金を払うから」
俺はすぐに、そう抵抗した。
しかしシャルに、すぐに言い返された。
「冒険者なら、同じ天幕で野宿は普通。それを思えば問題ない」
そしてクリスとアンジェが、頷いてしまったのだ。
「確かにその方が、宿代の節約になりますね。話もしやすいでしょう」
「それは確かなのです」
本当にいいのだろうか、それで。
3人とも、改めて見てみると、それなりに可愛かったり綺麗だったりするのに。
アンジェもクリスの洗浄魔法で、今はさっぱりした美少女という感じになっているし。
ただこれ以上抵抗すると、逆に変な思いを抱いているようにとられてしまうかもしれない。
ここは潔く諦めた方がいいだろう。
なんとしてでも、次は個室を確保しよう。
というのはまあ、置いておいて。
ただ幸い、宿には四人部屋はなかった。
「五人部屋を4人で使うか、一人部屋、二人部屋、三人部屋のどれかを組み合わせて使う形になります。お値段はそれぞれ……」
これで無事、俺は一人部屋になれるだろうか。
一瞬そう期待したのだ。
しかしお値段がそれぞれ、こんな感じだ。
○ 一人部屋 1泊正銀貨2枚
3泊で正銀貨5枚
○ 二人部屋 1泊正銀貨2枚と小銀貨4枚
3泊で正銀貨6枚
○ 三人部屋 1泊正銀貨2枚と小銀貨7枚
3泊で正銀貨6枚と小銀貨7枚
○ 五人部屋 1泊正銀貨3枚と小銀貨1枚
3泊で正銀貨7枚と小銀貨7枚
それでも一応、一人部屋を推して見る。
「四人部屋は無いし、やっぱり一人部屋4つにしないか?」
「一人部屋を1つでも、思っていたのの倍額だったのです。そんな高い部屋を4部屋も取るなんで、神も恐れない行為だと思うのです」
「この値段なら、やっぱり五人部屋」
「そうですね。五人部屋を1部屋がいいでしょう」
ということで、あっさり五人部屋に決定。
俺の希望は、儚く潰えた。
ただ案内して貰った部屋を見て、少しだけ気分が軽くなった。
5台のベッドが並んではいるけれど、ベッドとベッドの間に人が歩ける位の空間があって、かつベッドごとにカーテンで仕切れる様になっていたのだ。
つまりカーテンで囲ってしまえば、一応は個室もどきになる。
なおこの部屋、他には6人くらいで囲める、簡単な応接セットと、2人分の机があるというつくりだ。
俺の日本人的な感覚では、そう豪華には見えない・
ただそれでもお値段が高い理由は、攻略Webにあった解説を読んで知っている。
この程度でもお値段がそこそこ高めなのは、
① 街の中心近くの安全な場所にあって
② 部屋の鍵がしっかりしていて
③ トイレが室内にあること
が理由。
つまり全ては、安全対策みたいなものだ。
トイレが安全対策というのは、共同トイレに出た場合、トイレや廊下などの共用部分で襲われる可能性があるから。
このクラスの宿はそんな事がない様に、一応は館内専用の警備員がいるそうだけれど。
なんというか、日本では考えられない治安だなと感じる。
さて、俺は部屋に入って室内を確認した後、問答無用で端のベッドを確保。
「悪い。今日は少し疲れたから、休ませてもらう。夕食は勝手に食べに行くから、明日の朝まで気にせず放置していてくれ」
そう宣言して自分のベッドの周囲のカーテンを引っ張って個室状態にして、服や装備を含めて全てに洗浄魔法をかけた後。
下着以外のものを全て収納に入れて、ベッドに横になったのだった。
いや実際、疲れていたのだ。
他人と会話なんていう、慣れない作業をやりまくったから。
魔法も何気にガンガン使ったし、疲れているのは当然だろう。
ということで、おやすみなさい……
◇◇◇
早く寝ると、早く目が覚める。
ということで、目が覚めたら真っ暗だった。
何時かはわからないが、まだ夜中の様だ。
この世界は常夜灯なんて便利なものは、一般の宿にはついていない。
透明な窓ガラスなんてものも、この世界では一般的じゃない。
窓についているのは、木製の雨戸っぽいものだけ。
昼間は明かり取りと通風のため、この雨戸は開けてある。
しかし夜間は安全のため、この雨戸を閉めているのが普通。
だから真っ暗なのは仕方ない。
俺は暗視魔法は、まだ使えない。
灯火魔法は使えるけれど、他の3人が寝ているのを起こしたら申し訳ない。
というか3人とも寝ているのだろうか。
横になったまま、3人の魔力を確認。
すぐ横、その隣、その隣に魔力を確認。
せっかく5人部屋で5台ベッドがあるのだから、男女で間を開けて欲しかった。
夜でベッドで隣に女子が寝ているなんて、もうエロい妄想しない方がおかしい。
なんて考えた次の瞬間、俺は気づいた。
すぐ隣のベッドのクリスの魔力、これは起きている時の魔力だと。
このまま寝たふりをした方がいいだろうか。
そう思ったところで、クリスの声が聞こえた。
「フォルティさん、起きましたでしょうか?」
気づかれた。
クリスは元々魔法を使えたし、魔力をみて起きているかどうかくらいわかるだろう。
ごまかしはきかない。
ということで、俺は仕方なく返答する。
「ああ。早く寝たからな」
「まずは質問です。フォルティさんは自分が何者なのか、明らかにしたくない。そう考えていいでしょうか」
いきなり厳しい質問がきた。
でも既にクリスやシャルには、普通の冒険者と違う魔法や知識を、これでもかという位に見せてしまっている。
そして会ってすぐの頃、かなり怪しい説明をした記憶もある。
だから今の質問を否定するのは難しい。
ということで、ここは素直にこう返答。
「ああ。その通りだ」




