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審判魔法は偽らない  作者: 於田縫紀
第4章 迷宮突入

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第21話 状況終了

「それでは麻痺を解除し、意識を戻します」


 クリスの言葉が終わるのとほぼ同時に、あの冒険者女子が目を開ける。

 ゆっくり状況を把握するのを待つのがきっと正しいのだろうが、魔物の集団が気になる。

 だから悪いが、ここは急がせてもらおう。

 例によってゲームの主人公的な感じに、状況説明開始だ。


「悲鳴が聞こえたので、遠視魔法で確認して、ここへ転移させた。怪我はこっちが治療魔法の専門家なので、治療した。少し麻痺状態になってもらったが、これは治療が激痛を伴うものだったからだ。そこは了解しておいてくれ」


 ここまで名乗ったり、クリスやシャルの名前も呼ばないのは、彼女がどういう人間か、わからないからだ。

 被害者が善人とは限らない。

 これは日本時代、割と実感した覚えがあるから。


「……はい、わかったのです」


 まだ半分わかっていない様だが、出来れば急ぎたい。

 あの囮箱をやろうとしたパーティは既に全員死亡しているけれど、魔物が散る前にたどり着いて攻撃を仕掛けたいから。


「それじゃ済まないが、緊急事態だ。近くに第一階層なのに魔物の集団が発生した。被害が出る前に、出来る限り早く片付けたい。こっちは全員が攻撃魔法を使えるから、危険はない。申し訳ないが、同行を頼む」


 もし彼女が奪われた装備があるなら、一緒に行った方がいい。

 ということで、問答無用オーラを出すことを意識しつつ、彼女にそう説明。


「了解なのです」


「それじゃ移動する。正面に魔物の集団が来るように移動するから、2人ともすぐ攻撃魔法を撃てる様、意識しておいてくれ」


「わかりました」


 クリスの返事の他、シャルが頷いたのも確認して、俺は転移魔法を発動する。

 もう何度も体感した浮遊感の後、草地と林という景色の場所へ移動。

 正面方向は、ゴブリン4匹と角ウサギ5匹。

 他に緑スライムも5匹、近づきつつある。


 そしてゴブリンと角ウサギは、人間の死骸に群がっている様だ。

 正直直視したくない状態だが、このままではクリスもシャルも攻撃しにくいだろう。

 魔力がなくて、もう死んでいるとわかっていても。

 ならばだ。


「もう死んでいる様だ。死体と装備類はこっちに転送させる。2人は魔法で攻撃を頼む」


 死体や物は、転送魔法で移動が可能だ。

 転移魔法との違いは、生きた動物や魔物を移動可能かどうか。

 つまり転送魔法なら、生きた魔物を移動させずに死体や装備類だけを移動させるのは簡単。


 ただ転送魔法だろうと転移魔法だろうと、移動させるものを目で見てしっかり把握する必要がある。

 正直意識したくない代物けれど、しかたない。


 転送魔法を発動。

 俺達の右手10mのところに、無事移動させたところで、クリスとシャルに告げる。


「それじゃ、遠慮なく魔法を撃ってくれ」


「わかりました。氷弾魔法!」


「風刃魔法!」


 これで問題はないだろう。

 ということで遠見魔法の応用、上空からここを中心に周囲を見て、魔物の接近に注意しながら、移動させた死体と装備類を確認。


 死体は一応、頭も四肢もくっついている。

 しかし穴が空いたり切り裂かれたりして、もうぐちゃぐちゃ状態。

 薄着の魔法使いの腹からは、内臓が見えていたりもする。

 そして死体の臭いというか、モツっぽい臭いも。


 ああ、これは完全に死んでいるし、魔法でも生き返らせるのは無理だ。

 さっきの彼女から奪った武器や装備類はないだろうか。

 そう思ったけれど、現状ではよくわからない。


 なんて冷静に観察していて、ふと気づいた。

 こんな状態の人間の死体を観察していても、割と平気だなと。


 もともとの俺は、グロは苦手だ。

 ネットでそういった写真を見るだけで、気持ち悪くなるくらいだ。

 だから医学部は早々に志望先から排除した、なんてのはまあ置いておいて。


 きっとこれも、勇者として転生した際、平気になったのだろう。

 ということで、とりあえず冒険者ギルド規約に沿った取り扱いをしておこう。

 人間や魔物の死体は、動けない人間同様、魔物を惹きつける。

 だから冒険者ギルドの規約では、次のように取り扱う様、指示されている。


『人間の死体を発見した場合は、余裕がある場合は装備類を取り外して、余裕がない場合はそのまま焼き払うか埋めるかして、死体に魔物が群がらない様に措置すること。その際、身元がわかるような物品があれば、確保するのが望ましい。また人間の死体を発見した場合は、措置したしないに関わらず、冒険者ギルド等の公的機関に速やかに報告すること』


 そう、この死体は、このままではさらなる魔物を寄せてしまう。

 なので規定どおり処分するとしよう。

 でもその前に、俺の横にいる先程の彼女に確認。


「この連中か。君に怪我をさせて、魔物のエサ代わりに放置したのは」


「……多分そうなのです。顔はもう判別がつかないのですけれど、装備は同じなのです。あと、その革鎧の戦士が背中につけている安っぽい槍は、私のものなのです」


 これで確認も出来た。

 あとは冒険者ギルドで処理すればいい。


「わかった。後は迷宮(ダンジョン)入口の事務所に届け出て、簡易審判をしてもらうことにする。囮箱なんてことをする奴らのことだ。素行の悪さや怪しい行動なんてのは、ギルドの方も把握しているだろう。

 もちろん俺も証言するし、何なら簡易審判の証言くらいはしてやる。だから心配はいらない。あと槍についても、他の装備と一緒に一時的に俺が預かる。冒険者ギルドで審判が終われば、返してくれるはずだ」


 こんな感じだろうか。

 俺は本来口下手で、話すべき言葉が出てこない方だ。

 しかし『この状況でゲームのキャラクターが喋りそうな台詞』と思えば、割と簡単に思いつくし、こうやって説明することだって可能。


 考えてみれば、ゲームのキャラクターの台詞は、短い文章で必要な内容を伝える様になっている。

 そういう意味では、合理的な話し方なのかもしれない。


「わかったのです」


 彼女が頷いたので、次の作業、死体の処分だ。

 俺は死体の装備をそれぞれ別の場所に転送した後、死体に向け、火炎魔法を発動。


 死体は衣服ごと燃えた後、骨と難燃性の革鎧、金属製でやはり難燃性の冒険者証が残った。

 証拠ということで、あえて洗浄魔法をかけず、俺はひととおりを収納する。


 そんなことをやっている間に、クリスとシャルの方は魔物を片付けていた。

 これだけ魔法で戦えるようになったのは、初日にしては十分な成果だ。

 冒険者ギルドで簡易審判もあるだろうし、今日はこれで帰るとしよう。

 ということで、俺はクリスとシャルに告げる。


「お疲れ。こっちの方も片付いた。今日はこれで十分だろう。この人の簡易審判で証言する必要もある。だから、倒した魔物の魔石を取り出した後、迷宮(ダンジョン)の出口に向かおう」

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