第10話 規制線
出たのは2階建ての建物に挟まれた裏路地。
2人がいることを確認して、小声で声をかける。
「こっちだ」
出たのは2階建て以上の石造りの建物が並ぶ、そこそこ賑やかなはずの大通り。
トラルテスコの商業的な中心で、本来なら行き交う人や荷車で賑わっているはずの場所だ。
今も賑わってはいるが、理由は別だ。
50mほど離れた場所で兵士による規制線が敷かれ、その前で商人やその護衛、一般人らしき人々が騒いでいる。
「店はあの向こうです。ですが何かあったのでしょうか。サタナテスの襲撃程度では衛士隊は動きません」
「王都の中心で犯罪組織が店を襲撃しても、衛士は動かないのか。治安が終わっているな」
「衛士隊も給与未払いが多くて、隊員が逃げ出している状態ですから」
どうやらマルド王国、勇者が敗れる以前に国として終わった状態だった様だ。
なんて思いながら、ゆっくりと規制線の人だかりの方へと向かう。
「よく見ると衛士隊ではなく、騎士団です。徴発以外で王宮から出てこないのに、何故ここで規制なんてしているのでしょうか」
俺は答えを知っている。
でも、あえて答えない。
2人以外の付近の人々は、きっと答えを聞いて知っているのだろう。
ただこの2人は気絶していたので、あの処分内容を聞いていないのだ。
つまり、この先は……
「あ、レムさん」
クリスティナが知り合いを見つけたようだ。
革フードを着用した二十代半ばくらいの、冒険者風の女性に声をかける。
「あ、良かった。クリスもシャルも無事だったんだ」
「ええ。それでこれは、何があったんですか?」
レムさんは怪訝そうな表情になる。
「クリスは聞かなかったの? さっき響いた、国王がこの辺の住民千人あまりを殺害したって話を」
「えっ!?」
クリスティナは一瞬驚いた後、レムさんという女性に尋ねる。
「どんな内容だったんですか?」
「国王が贅沢するために魔国を攻めようってんで、大司教と組んで勇者を召喚しようとした。その際、勇者召喚の魔力を集めるため、付近の町人や衛士合計1,024人を王命で無理矢理集めて、魔力を吸収して殺害。でも神の勇者に目的を見破られて、罰として大司教ともども魔物に姿を変えられたって話」
クリスティナ、そしてシャルロットの表情が、明らかに変わる。
「それって、誰かが見ていたんですか?」
「1時間くらい前、魔法音声でそんな内容が流れたのよ。それでたまたま冒険者ギルドにいた私が、調査に駆り出されたって訳」
「それで誰が犠牲になったか、わかりますか?」
「わからないわ。調べようにも、近づけない状態だから。徴発や徴用のときしか仕事をしない騎士団が出ているって時点で、あの向こうに何かあると言っているようなものだけれど。ただ騎士団を力で排除するのは、冒険者ギルドの方からも許可が下りないだろうから、とりあえずギルドに戻って報告するつもり。シャルの家もあの先だよね」
「ええ。ただ私とシャルはヴェンツァの街へ出ていて、ヴァルテ家を離れていました。ですので今、どうなっているかはわかりません」
ヴェンツァの街はトラルテスコの南にある、農作物の集散地だ。
おそらくそこへ行く途中か帰る途中に、サタナテスに襲われたのだろう。
なお襲った中には、それなりに強力な魔法使いもいたはずだ。
そうでなければ、時間停止の魔法なんてかけられないだろうから。
ただそのおかげで、クリスティナとシャルロットは助かったとも言える。
時間停止の魔法をかけられた対象は、石化状態と似たような感じで動かせない。
人相手にかけた場合、着衣すら動かせない状態になる。
だからあのアジトにいたならず者っぽい奴らも、2人をどうかするなんてことが出来なかったわけだ。
ただこの後、2人はどうすればいいのだろう。
身寄りはないことが、既に確定している。
その上で無事引き取ってくれる場所はあるだろうか。
ただこれ以上は、2人に聞いてみないとわからない。
となると、まずはこの先にあるらしい、シャルロットの家を確認するのが先だ。
俺は攻撃魔法を使えない。
でも転移魔法で、邪魔者を遠くへ追いやるのは可能だ。
魔法使いでなければ魔法抵抗力はほとんどないから、転移魔法を使用するのは難しくないだろう。
しかし犯罪者ではなく、ただ任務で出ている奴を排除するのは、ちょっと気が引ける。
なら……
「わかった。とりあえず私は、今のこの状況を冒険者ギルドに報告してくる。クリスもシャルも、今は無理しないでね」
「わかりました」
レムさんと別れて離れたところで、クリスティナに声をかける。
「転移魔法を使えば、規制を無視して直接乗り込める。必要なら、わかるように家を教えて貰えないだろうか」
「わかりました。この通りをまっすぐ行って、あの規制線の先、2ブロック先の左側に路地がある、その手前の店です。入口右側に『ヴァルテ魔道具店』という看板があります」
遠視魔法で確認する。
あっさり店は見つかった。
内部を確認。誰もいない様だ。
ただ若干、中が不快な状況だ。
何者かによって、明らかに荒らされている。
荒らした犯人の想像はつくけれど。
「確認した。店の中に移動可能だが、どうする? 店内には誰もいないが、荒らされた跡がある」
クリスティナが意向を確認するかのようにシャルを見る。
シャルロットが頷いた。
クリスティナは頷き返して、そして俺の方を見る。
「行きましょう。どうなっているのか確かめないと」




