第六話「もう1人の傍聴人」
現在時刻は、8:53。
会社の始業時間は9:00。
全員が席に着き、今から仕事をするモードとなっている所へと申し訳なさそうに出社する女がいた....。
「おはようございます....。」
その名も佐圓乃子。
今日も今日とて新しい一日が始まろうとしていた。
「あ、先輩。今日は"いつにも増して"顔色が悪いですけど、どうしましたか?」
出社一番に話したのは会社での後輩、出来詩子だった。
昨日の出来事で佐圓とは仲が深まった(?)様で、いつもより距離感が近かった。
『昨日あんな雰囲気だったのになんか、気まづいってぇぇ!出来さんはなんでそんな普通の顔できるのぉ!?』
と佐圓は理解に苦しんでいた。
「お、おはよう。出来さん...。」
「ささ、先輩!仕事頑張りましょ~」
その明るさと昨日までの違いに恐怖を感じていたが、そのまま席へ着き仕事を始めた。
その後、着々と進めていき、時刻は12:00。
キーンコーンカンコーン――。
お昼の時間である。
「佐圓先輩!お昼!食べに行きませんか?」
作業を切り上げ、そろそろ食堂へと考えていた時に横から声をかけてきたのは出来であった。
「あ、え...うん...。良いけど...。」
佐圓は困惑の中流されるままに出来と共に食堂へと向かった――。
「先輩は何を頼んだんですか~?」
それぞれ好きなものを頼んで席へと着く。
「えっと...。おにぎりとお味噌汁のセット...かな」
「へ~いいですね~!私はお腹が空きすぎてラーメンにしちゃいましたよ~」
と何気ない会話をするが、何処か居心地の悪さを感じていた。
「えっと...。出来さん...ちょっといいかな?」
佐圓はその居心地の悪さに耐えかねて口火を切る。
「はい?なんですか?」
「えっと...なんて言うか...。なんか気まずいというか....出来さん昨日となんかだいぶ違くない....かな...?」
佐圓は『言ってやった!!初めて意見できた!!けど、この後の関係悪化するかも!終わった!』と独りでに感情を揺さぶっていた。
「え....私またやらかしてました...?すみません...。」
出来は思ってもみなかった反応を示した。
"すみません"その一言に佐圓は疑問と申し訳なさを抱いた。
「あ、えっと...。嫌だってわけじゃなくて、なんて言うか、アレっていうか....。なんていえばいいのかな...えっと...。」
そんな慌てふためく佐圓を見て出来は自身の事を語り始めた。
「その...私、昔から人との距離感とかつかめなくて...。嫌いな人は嫌い!好きな人は好き!ってハッキリしすぎてるっていうか...。昨日の話で先輩が尊敬できる人だってわかったので、つい...。」
『え...私、昨日まで尊敬されてなかったの?』とツッコミたかったが、どうにか喉の奥に押し込んだ。
「なので、嫌だったら言って下さい。先輩の嫌なところ探して少し距離を取るようにしますから...。」
佐圓は出来のそのひと言ひと言にツッコんでやりたかったが、そんなことは出来なかった。
後々に、『関西人は凄いなぁ』と語ったと言う...。
「え、えっと。だ、大丈夫だよ...。私も嫌なわけじゃないし、何なら嬉しいというか....。」
それを聞いた出来は目を輝かせて言った。
「いいんですか!?じゃ、じゃあ、終業後もついていきますね!!!」
!?!?
その急な展開に何を言われたのかわからなかった。
キーンコーンカンコーン――。
ようやっとツッコミを入れようと「ぅ...」と声を振り絞ったところで、昼休憩の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
「せ、先輩!!始まっちゃいますよ!!急ぎましょ!先に行ってますね~!!」
とすごい勢いで去っていった。
佐圓は思考を止めてその場から立つことが出来なかった――。
「みんな~!集まって~!お姉さんが"お話"してくれるって~!」
あれから時刻は飛び、現在17:18。
仕事も終わり、いつもの公園へと足を運んだ佐圓だが....。
いつもとはまた違う光景が目の前に広がっていた。
そこには、子供達に混ざって大きな成人女性一人がちょこんと座っていた。
皆さんお気づきの通り、そこに座っているのは出来だった――。
出来は子供たちの間に挟まって、子供たち同様に目を輝かせて"話"を待っていた。
「で、出来さん??なんでここまでついてくるの??子供たちに混ざってるし....。」と小声で出来に問いかけた。
それに対して、純粋に不思議そうな顔をして答えた。
「先輩の事をもっと知ろうと思いまして!なら先輩の"日課"にお邪魔するのが一番かなと!」
その純粋たる眼に佐圓は何も返す言葉が無かった。
「おねーさんまだー?」
「今日はすぐに実験できるような話がいい~!」
と子供たちも少しづつしびれを切らしていた。
「こ、コホン...。い、良いだろう。今日もとっておきの面白い話をしてやる....。」
そうすると、空気が少し変わる。
その空気は冷たいような、生暖かいような。
何とも言い難い空気感だった。
「今日は"頼み事の際は右耳に話しかけると良い"という大人から子供まで使える"話"をしようじゃないか....。」
それを聞いていた子供も、そして出来も前のめりになる。
「これでおかあさんにゲーム買ってもらえるかな」
「これで部長にも承諾が.....?」
「明日のご飯たのんでみよ~」
「おこづかいも増える~?」
全員が口々にその"話"に可能性を見出す。
「しかも、だ。この話にはしっかりと理論があって、信憑性も高いのだよ....。」
佐圓はスゥ~っと新鮮な空気を吸い込む。
「右耳で聞いた情報というのは、論理や言語を司っている左脳で処理されるために、相手が何を話しているのか、どういった意図があるのかというのが理解しやすいというのがあるのだよ。逆に左耳から話しかけた時の右脳では直感的なもの、イメージや直感というものが処理されているため、理解しにくいというのもある。よって、右耳から話しかけた方が理解されやすいという意味で承諾されやすいのだよ。」
胸を張り、顎を上げ、眉を片方ひそめ、口角を上げた。
それはそれは、誰から見てもすごく楽しそうで、嬉しそうにも見える"ドヤ顔"だった。
それを聞いた出来が真っ先に高揚する。
「普通に革命じゃあないですか!?皆さんもそう思いますよね!?だって!右耳から話しかければ、今まで通らなかった承諾も通る確率が少しでも上がるっていうことですよ!?マジでやばいですよ!!」
故意的にと言う訳ではなかったが、その純粋さで周りの子供たちへの伝達のサポートとなる。
「へ~!今日おかあさんに早速ためそう!」
「明日、先生にお願いあるから使ってみる~」
「私も明日部長に使ってみよ~」
タンタララ~♪
時刻は17:30頃...。
帰宅を促す"防災行政無線チャイム"が流れ出す....。
「わ~もうこんな時間か~!帰らなきゃ~」
「私も~!おかあさんに怒られちゃう~!」
「また明日ね~」
そう言って、子供たちはぞろぞろとその場を解散し始める。
佐圓はそれに気付いていないようだった――。
ヒュオォォー。
周りも少しづつ暗くなっており、少し肌寒いような風が吹く。
「先輩...。もうみんな帰っちゃいましたよ....?」
こうして、仲間に加わった出来。
これからどうなっていくのやら....。
まだまだ佐圓乃子のドヤ顔ライフは続いていく.....。
出来さんも変人なのでは...?




