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第二話「天国と地獄」

 学校が終わり、子供達が遊び始める夕方.....。

 今日も今日とてこの女――佐圓乃子(さえんないこ)は公園へ足を運んでいた。


「さぁ、少年達...。今日も面白い"話"を持って来たぞ....。」


 佐圓は自信満々に公園ベンチに堂々と座り込んだ。


 ――しかし。


「ボールそっち行ったぞ~!!」

「わ~!!鬼になりたくない~!!」


 わーきゃーと騒ぐ子供達は一向に集まる気配がなかった。


『え....?昨日まであんなに興味深々にいっぱい駆け寄って来たのになんで!?』


 佐圓は子供達の反応に理解できなかった。

 だが、答えは"シンプル"なのだ。


「えっと....。しょ、少年達よ...。今回の"話"は本当に別格だぞ...?き、聞かないで良いのか?」


 少々ひきつった顔で少し大きめな声を張り少年少女に呼びかける。


「あ、おねーさんだ~!」

「今日はいいかな~ボール遊び楽しいし」

「昨日のよくわからなかったからな~」

「ね~」


 子供は純粋で残忍。

 そして、飽きっぽいのだ。


 ここの所ほぼ毎日"話"を聞いていたことによって、そして昨日の"よくわからない太陽の話"のせいで子供達に飽きが来てしまったのだ。


『え、えぇ~!?昨日あんなに評判良かったのに!? いや、私の勘違いだった!?』


 突然突き付けられた現実に佐圓は困惑していた。


『どうしよう、このままだと私の"唯一の楽しみ"が無くなってしまうッ! ここは、ここ最近で一番面白かった雑学を出すしか....。』


 そう考えた佐圓は公園にあった少し小さめな滑り台へとおもむろに登り始める。

 頂上へ登り切ったところで、佐圓のその唐突な行動に子供達が「なんだ、なんだ?」と注目し始める。


 そうして、ひとしきりの沈黙と視線が集まり、気持ちいい春風が吹いたと同時に口を開いた。


「少年少女よ....。トウモロコシの粒の数を一粒ずつしっかりと数えたことはあるかね?」


 子供たちが口々に「な~い」と言い始める。

 

「フフフ...あの粒の数。実は、"絶対に偶数"だと決まっているんだ!!奇数で生まれてくるトウモロコシは存在しないのだよッ!!」


 ひゅぅぅぅぅ――。

 ここで子供達の頭にはてなが浮かび上がる。


「ぐうすうってなに~?」

「きすうって?」


 だが、佐圓は待っていましたと言わんばかりに胸を張り、両手を大空へと掲げた。


「そんなことも知らないのかね?ならば説明してやろう! まずは偶数。 全員手のひらをパーの形にして「いただきます」のポーズをしてくれたまえ。」


 ――ぱちぱちぱち

 そう言うと、子供達は全員手のひらを合わせ合唱をした。


「そうしたら、今君たちの指は全部合わさってペアが組めているというのはわかるかね? 左手の親指は右手の親指と、左手の人差し指は右手の人差し指と....。そう!!それが偶数! それぞれのペアが必ず出来る状態を偶数と呼ぶのだよ。」


 ここで子供達の目は一気に輝き始めていた。


「そして、お次は奇数だ。 今この状態からもし、左手の人差し指が無くなってしまったらそれぞれのペアはどうなる? 左手は四本、右手は五本だ。」


 その問いを聞いた一人の少年が「一人あまっちゃう」と佐圓が最も欲しかったであろう回答が飛んできた。


「そう!!そうなのだよ少年!一人余ってしまうのだ、これが奇数ッ!!つまりはだ....。」


 少年少女は手を合わせたまま息をのんだ。

 そして、佐圓は滑り台の頂上の縁に足をかけ合唱したまま手を再度高々と掲げる。


「必ずトウモロコシの数を数えても偶数になり、2の倍数になっていると言う訳だッ!!家に帰ったらお母さんとトウモロコシの粒の数を数えてみるが良いッ!」


 わあああぁぁぁ!!!

 言い切ったと同時に子供達から歓声が上がる。


「まじか!家帰ったら母ちゃんにトウモロコシ買ってもらお~!」

「すげぇぇ!!」

「なんでそうなるの~!?」


 「なぜそうなるのか」という疑問を拾い、再度話始める。


「理由は簡単だよ。」


 そう言って双子の姉妹をビシッと指差す。


「君たちのようにトウモロコシの種は絶対に双子として生まれてくるからなのだッ!」


 ドヤァァァ――。


「そういうことか~!!」

「二倍ってわかんね~けどなんとなくわかった!!」

「とりあえず絶対に一粒あまらないってことだよね~!」


 昨日とは違う今まで通りの、否、今まででも大きい反響を受けて今までにないほどの高揚感に駆られる。

 佐圓はその高揚感で目頭が熱くなり、湧き出るものを抑えようと変なポーズをしたまま上を見上げていた。


『きたきたきたぁぁ~!!これよこれぇ!!これを待っていたのよ!! あぁ~^^最ッ高~^^』


 佐圓も子供達も各々が至極高揚していた。

 そこは、公園だったはずが、ひとしきり音楽ライブが終わって歓声の絶えないライブハウスのようだった。


 だが、その時、彼女の身に悲劇が起きていた。

 

 ――ピキィッ。

 御年27歳、特に運動もやっていなければほとんどずっと座り仕事の事務作業の人間が、いきなり足を高いところに置き手を高く掲げて上を向いた状態を維持するとどうなるか――――。

 そう――。ギックリ腰である。


『あ、ヤバいこれダメ。ダメなやつだ、動いたら――"死"』


 皆さんはなったことがあるだろうかギックリ腰...。

 "死"を連想される程の激痛と脳が「これ以上動かすな」という信号を送り付けその場から動けなくなるのだ。


「あの人です、あそこに上って子供たちに"トウモロコシ"がどうとか言いながら変なポーズをしてて....。」


 そう、その異様な光景を目にした近所の主婦が警察に通報したのである――。


「えっと...。君、今すぐ降りて来られるかい?ちょっと事情聴取をしたいんだけど....。」


 幸い、子供達はその異様な光景よりも警察車両に目移りしていた。


「あっちに警察車ある~!!」

「乗ってみた~い」


 佐圓は顔を赤らめながらその警察の男に言い放った。


「すみません、助けてください....。」


 果たして、27歳独身の佐圓乃子は運命や如何に――。


運命や如何に....。

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