第十一話「空き巣犯vs変人」
キャアァァァッ!!
鳴り響く悲鳴とちりりんと夜風に揺れる風鈴の音――。
「う、うるせぇ!叫ぶな!殺すぞ!」
大きな黒い影の正体は、明白だった。
そう、最近近辺を騒がせていた空き巣犯。
黒いパーカーとズボンで身を包み、闇夜に紛れる格好をしている。
手にはナイフのような刃物を持っており、その刃先を先ほど叫んだ出来の方へと向けられていた。
「ひっ....」
出来と佐圓は言葉に詰まっていた。
先ほどまでの楽しい時間は無く、目の前には武器を持った空き巣犯...。
そんな絶望的な状況に声も出なかった。
「おい!次叫んだら殺すからなッ!」
犯人も本人達が帰って来るとは思っていなかったのか、少し慌てていた様子だった。
「と、とりあえず、お前らは部屋の持ち主だな!?黙って俺の言うことを聞いてくれたら見逃してやる!いいな!?」
出来と佐圓はお互いの顔を見合わせてからこくりと頷く。
「よ、よし。じゃ、じゃあ、金品とか金になるものを集めろ!ある程度いいもの持ってんだろ...?」
そう言われた佐圓は冷静に辺りを見渡す。
「せ、先輩!は、早く持ってきてください!私達の命が助かるなら安いもんですよ!!」
出来は真っ当な言葉で佐圓へと語りかける。
だが...佐圓は....。
「出来ない....」
ボソッとそう言った。
「なな!?何を言ってるんですか!?命が惜しくないんですか!?私達殺されちゃいますよ!!」
出来は冷や汗を全身に流しながら佐圓を説得する。
「おい!出来ないってなんだよ!い、命が惜しくねぇのか!?」
犯人も"出来ない"その一言に動揺を隠せなかった。
そして、佐圓は固唾を音を鳴らして飲み込むと再度発言をした。
「出来ない.....だって....」
その場にいた出来が、犯人もその溜めに固唾を飲む。
「だって....私の部屋じゃないから!!」
思いもよらない回答に全員の動きが止まる。
ちりりん....と風鈴の音も今までより大きく聞こえた。
「せ、先輩!!そんな嘘言っても通じるわけないじゃないですか!?何言ってるんです!?」
「そ、そうだ!俺がそんなにバカだと思ったのならマジで殺してやるからな!!」
困惑のあまり、犯人も出来に同調する。
「う、噓じゃない!ってか私も私自身を疑いたいぐらいだよ!!出来ちゃんは今朝私の部屋に来たのが初めてだから覚えてないだろうけど、流石にこのレイアウト見たらわかるよ!!」
あまりにもチンケな出来事に犯人が困惑する。
「じ、じゃぁ!なんでお前はこの部屋に入ったんだよ!!」
佐圓は痛いところを突かれたという顔をしてから言い訳をする。
「だって!今日疲れてたし!仕事して帰ってきてまた出掛けるって!体力持たないよ!!」
それを聞いて犯人も出来も呆れた顔をする。
「でね...出来ちゃん...ごめんね...私、思い返したらやっぱり....。家の鍵ちゃんと閉めてたわ....」
そう、佐圓はずっと鍵が開いて事に不信感をもってその不信感の答え合わせを行っていたのだった...。
「そ、そんなのどうでもいいですよ!!何ですか!?じゃぁ、間違えて入ったお家に空き巣犯が居て、その空き巣犯に殺されましたってなるんですか!?ガチでダサいですよ!!死にたくないです!!」
出来は心の内に思っていることをその場で吐いた。
「いやさ、でも、連れ出したのは出来ちゃんだし...。」
そのまま口論は喧嘩へとデットヒートしていく。
「はーッ!?私が悪いっていうんですか!?子供達に教える雑学の考案を手伝ってあげてるんですから感謝の一つでもしたらどうなんですかーッ!?」
「でも、私が頼んだわけじゃ....。」
「あー!!言っちゃいましたね!それ‼一番言っちゃいけないんですよーッ!?」
空き巣犯が蚊帳の外となり...。
「お、おい!お前ら黙れ!!!」
痺れを切らす。
その怒鳴り声を聞いて2人の喧嘩はピタッと止まる。
「お前の部屋とかそうじゃないとかどうでもいい!とにかく殺されたくなければ俺を手伝え!!家主が帰ってくる前に全部取って逃げんだよ!!」
共犯を強要され、佐圓も出来も心が痛む。
「空き巣犯くん....。」
佐圓はいきなり下を俯いて空き巣犯へと問いかける。
「君は...この部屋に侵入してからどれだけ経過した?この部屋に侵入するのにどれだけ掛かった?」
その唐突過ぎる問いに犯人は困惑せざるを得なかった。
「こんな話を知っているかね...?"空き巣は侵入に手間取り、5分かかると侵入者の約7割はあきらめ、10分以上かかると侵入者のほとんどはあきらめる"という話を....」
何を考えたのか、佐圓はここでも雑学を話し始めたのだった。
「空き巣というのは最も時間を掛けてはいけない犯罪...。2分以内で 約17%があきらめ、2分超〜5分以内で約51%があきらめ、しまいには、10分以上で約9割以上が諦めてしまうそうだ...。理由は明白、家主が帰ってくるかもしれない、他の住人に見られてしまうかもしれないという意識が働くからだ....。だが、君は今の犯行に幾ら時間をかけている?私達に構っている時間は無いのではないかな?ましてはここは○○マンションの5階....。逃げてる間にも人に見られる可能性は充分に高くなる...。さっさと好きなものを取って逃げるのが一番良いのでは無いかな?」
佐圓は余裕そうな笑みを浮かべる...が足はがくがくと震えていた。
「う、うるせぇ!マジで殺してやるからな!!!」
犯人はナイフを大きく振りかざす。
「待った!!落ち着くんだ...ここで殺しても君の得にはならない...。殺そうとしたら私達二人係で君に抵抗する。確かに女二人だ...殺せはするだろう...が。怪我なしで行けるかどうか。そうなると今のDNA鑑定の技術なら特定は容易となる。ここは私達を生かして味方にする事で"この日とは無関係"と擁護してくれる人が増えるわけだ....。これは人狼ゲームなのだよ。私達は部屋の場所も割れている...。話そうものなら君に報復を喰らうのも解っているからね...。下手に口にすることは無いさ...。さぁ、どうする??」
犯人はその振りかざしたナイフをゆっくりと下した。
理由は話が長くて、腕が痛かったから。
「あぁ!もう!いい!!絶対に誰にも言うなよ!!誰かにばらしでもしてみろ!?殺しに来るからな!?」
そう言うとそそくさとタンスや棚を物色し始める。
「せ、先輩!何てことしてるんですか!?マジ殺されるかと思いましたよ!!」
犯人には聞こえないぐらいのボリュームでこそこそと話しをする。
「ま...マジで焦ったぁ...。けど、恐らくこれで大丈夫なはず....ととりあえず、作戦があるからもう少し犯人の気を逸らして!」
「き、気を逸らすって何ですか!?作戦って!?意味がわからないんですけど!?」
焦る出来に対して、「まぁまぁ...」と佐圓は少し落ち着いた様子だった。
出来は何もわからないままに佐圓の考えに従うことにした。
「あ、あのぉ~...こんなのとか金目になるんじゃあないですかね~...」
と出来は恐る恐る身の回りの金目になるものを犯人に伺い立てる。
「これも...どうですかねぇ...。」
と何度も何度も話しかけてくる出来に対して犯人はじわじわとストレスが溜まっていく。
「あぁ!うるせぇ!金目のものがあったらそこに集めろ!!いちいち俺に聞くな!!殺すぞ!!!」
出来は「ごべんなさいぃぃ!!」と言いながら手際よくものを集めていく。
一方、佐圓はというと...。
「空き巣くん....。その漁り方は手際が良くないのではないのかね...?タンスなどはこうやって...下から開けていくと探しやすいのだよ。あとは、こういうタンスには物がいっぱい入ってたり....。」
どかどかどか!!!
タンスにぎゅうぎゅうに詰め込まれた布団などの物で雪崩が起きた。
「ぐ..ぇ...おもだい...」
佐圓は下敷きとなっていた。
「あぁ!!お前ら本当にうるせぇし邪魔だ!!もうじっとしてろ!!」
あたふたと邪魔ばかりする2人にしびれを切らして座っていることを強要したのだった。
そうして、数分が過ぎる――。
「あぁ!くそ!そろそろ切り上げるか、よしお前らはなにも見なかった!いいな!?俺はもう逃げるからな!?」
座らされた2人はこくこくと頷く。
「へへへ....これで数日は盗まなくてもいいぐらいには儲かりそうだ...」
そういいながら犯人は玄関を出ようとする。
が....。
ドガッ!!
突然開いた扉に犯人が激突して倒れこんだのだ。
「警察だ!!って...倒れて...る...?....16時25分空き巣犯を現行犯逮捕ッ!!!」
数人の警察が倒れ込んだ犯人に手錠をかける。
扉に変な当たり方でもしたのか、それとも逃げることを諦めたのか....犯人はぐでんと力が入っていないようだった。
まるで、"あの時"の佐圓のように....。
「さ、佐圓さんですよね!?無事で良かった...。」
出来は起きていることに理解できずにいた。
「どうして警察がここに...ってか先輩と知り合いなんですか??」
疑問が疑問を呼ぶ展開に佐圓の知り合いであろう警察が口を開いた。
「あぁ、申し遅れました、○×交番の塚間です!恐らく佐圓さんと思わしき電話から交番へ変な電話があったもので...。」
そう、あの時、佐圓が下を向いて犯人に雑学を披露し始めた時...あの時交番へと電話を繋げていたのだった...。
「電話でどこかで聞いた声で空き巣と○○マンションの5階というキーワードが話されていて...最初は佐圓さんがまた変なことをしているものだと思ったのですが、その後に聞えて来た男性の「殺すぞ」という怒号で疑念を持ち、念のため空き巣犯に遭遇していることを想定して警察数人で突入に至ったという感じです。いやぁ~佐圓さんよくやりましたね~。」
塚間が佐圓を褒める。
「ってことは私はそのことを知らずにびくびくしてたってことですか!?!?先輩!それならそうと言って下さいよ~!!」
佐圓は内心『なんか言って安心したら調子に乗りそうだった』と思ったが、あえて心の内に留めておくことにした。
「まぁ、今回はずっと追っていた犯人を捕まえることが出来ましたし、一件落着ですが...この現状...始末書と家主からの苦情が大変そうだなぁ....。」
塚間は部屋の有様を見て嘆く。
「あと、お2人とも、良ければ署まで同行して、どういう状況だったのか説明などしていただけると助かるんですが...大丈夫ですか?」
2人は目を合わせて、こくりと頷くと「はい」と返事をした。
その後...。
2人はウキウキで起こったことを警察に話して、犯人逮捕の貢献をしたとして不法侵入と共犯未遂についてはお咎めなしとなった。
そうして、ようやっと家に帰った2人はお隣さんの部屋の片づけを手伝い、晩酌をして夜を明かしたという――。
良かった...。
次回!最終回!!!




