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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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曹奏四季日々 48


 孫権side──


──二月六日。


自室で御茶を飲みながら、専用台に立てられている翼槍を静かに見詰める。

贔屓ではないのだけれど……素晴らしいわよね。


雷華様を介して受け継いだ御母様の形見だった翼槍。

その由来を知れば、御父様にも繋がっていて。

ある意味では、血と共に受け継いだと今は言える。


そして、それ以上に。

私にとっては、雷華様との歩みの切っ掛け。

始まりが、このコの存在だった。

勿論、翼槍の存在が無くても私は雷華様に出逢った瞬間、惹かれていったでしょうけれど。


だけど、有るのと無いのとでは大違い。

雷華様との深い繋がり、特別な思い出が出来るから。

皆と同じ様に賜った愛器だけれど。

過去を持つ分だけ、深みが増すから。



「……本当にね、困る位に深いわ……」



そう呟き、翼槍を見詰めながら苦笑する。

何しろ、あの日の事を知る唯一の目撃者。

他言したりは出来無いけれど……知られている。

そう思うと、多少の恥ずかしさが込み上げてくる。

こればっかりは、どんなに慣れても消えないのよね。


でも、だからこそ懐かしむ様に話し掛ける事も出来る。

私達しか知らない大切な思い出を。

誰にも語りたくはない嬉し恥ずかしな馴れ初めを。

こんな風に、穏やかな一時の中で。


さて、そんな私達の愛器なのだけれど。

私達の死後、このコ達は眠りに就く。

壊れたり、消滅したり、死ぬという訳ではない。

再び、その力が必要となり、相応しい者が現れるまで。

だから、後の世の事を思えば、目覚めない方が良い。


それ故に、永遠とも言える長い永い眠りとなる。

だから、もしかしたら。

その目覚めは私達が生まれ変わって、出会った時になるのかもしれない。

そんな風に考えてしまう。


──しまうのだけれど……

そうなると、また私達は戦いに身を投じるという事。

どんな戦いになるのかは定かではないけれど。

この国が、世界が乱れる様に事態となる。

それは看過し難い事だわ。


このコ達との再会は嬉しいのだけれど……

そうなっている事は私達にとっては不満でもある。

……ああでも、民の、国の外に原因が有る可能性も。

それは流石に不可抗力よね。



「…………遠い遠い、遥か未来の世界、ねぇ……」



雷華様達が生まれ育った世界は、その可能性の一つ。

ただ、私達の在る、この世界の未来ではない。

それは酷似した歴史を持っていても、全く別の世界。

だから、歴史的な知識を持っていても天下は取れない。


まあ、雷華様が相手という時点で、抑が無理な話よね。

華琳様が「雷華を敵に回して天下は取れないわよ」と。

苦笑されていた位だもの。

当然、私達も誰一人として出来るとは思わないわ。

雷華様との勝負は別にしてね。




部屋を出て、私邸から城内に移動する。

これと言って仕事等は無いのだけれど、引き籠っていては運動不足になってしまう。

だから、こうして適当に散歩をしている。

私だけではなく、皆も、華琳様も。

外出するとなると、必ず誰かが同行する。

華琳様は当然だとしても、私達もだ。

「ちょっと其処まで……」が許されない。

「何か有ったら、どうするんですかっ?!」と。

過剰な位に反応される。

華琳様の時に私達が言っていた事だから何も言えない。

華琳様が「自分に反ってきたでしょう?」と。

揶揄う様に、意地悪な笑顔をされていたのが印象的だった事は記憶に新しいわ。


だから、少し窮屈だけれど、自由に動ける城内で我慢。

同行する者達も仕事なのだから、仕方が無い。

鬱陶しい・煩わしいとは思わないわ。

心配してくれている気持ちは素直に嬉しいもの。


まあ、雷華様が私達の精神状態を見て、距離感等の調整を細かくしてくれている為、苛々もしない。

妊娠・出産経験の有る女性達の話を聞くと、その殆んどで同じ様に「夫の言動に苛々した」と出る。

勿論、程度差は有るのだけれど。

そういった話を聞くと、私達は恵まれていると判る。

夫が雷華様だもの、当然よね。


──と、視線の先、通路の奥を誰かが走り抜けた。



「──灯璃?」


「──っえ? ああ、蓮華

どうかした?」



私の声を聞き、急停止から一歩で通路の真ん中まで跳んで戻ってきて顔を見せたのは灯璃。

特に何かを持ってもいないし、急ぐ予定も無かった筈。

……つい、「珀花ではないものね」と。

逃げている可能性を考え、即座に否定。

脳裏の珀花が煩いけれど無視する。



「それは此方等の台詞よ

慌てているけれど、何か有ったの?」


「あー……ほら、例の海賊討伐」


「予定通りに昨日、行われたのよね

もしかして、別動隊や離脱した一団が居たの?」


「ううん、そういうんじゃないよ

海賊の方は問題無く殲滅したって」


「そう……」



まあ、そうよね。

その程度の事は問題にも成らないわよね。

藤菜達は乱世での実戦経験こそ僅かだけれど優秀。

他所に行けば筆頭が務まる程度には実力が有るもの。

ちょっとした事なら雷華様達を頼らずとも解決出来る。


……その雷華様達も一緒に居るのに?

…………何かしら?



「周辺から無国の人達(・・・・・)が流入したんだって」


「ああ、そういう事……」



「それじゃ、私は行くから」と手を上げて立ち去る灯璃の背中を見送りながら考える。

灯璃が呼ばれたのは、必要な追加の人員と資材を運ぶ為。

本当に緊急であれば、雷華様が動かれる。

思春は駄目としても、藤菜達も動ける。

そうではなく、正規の手順で(・・・・・・)の追加。

つまり、緊急性は低い、という事ね。

まあ、治療等は雷華様が行われているでしょうけれど。


灯璃が指名されたのは……泉里が居るからね。

──という事は数日は現地に留まるのでしょうね。

…………雷華様も一緒に?

──くっ、ちょっとした小旅行みたいで羨ましいわ。

仕事なのだから文句は言えないけれど。


以前の──乱世の頃と比べると城内も変わっている。

曹家の城や建物に侵入出来る者なんていなかったけれど。

無警戒という訳ではなかったもの。

まあ、曹家に限って言えば、侍女達が最終防衛戦力。

彼女達の出番が無かった事こそが、私達の自慢の一つ。

もしも、そうなっていたら…………っ、いえ、考えるのは止めましょう。

思わず身震いしてしまったわ。

現実ではないのに想像しただけで嫌な汗が……

心にも身体にも子供にも悪いわ。




気分転換にと西園──城の西側の庭に足を運んだ。

まだ昼前という事で少し肌寒さを感じるけれど、冬だけど今日は陽射しも暖かい。

歩いて火照った身体には程好い位ね。



「──蓮華?」


「──あら、愛紗

貴女も散歩?」


「ええ、私邸の方に居ると動かないので肩が凝って……」



そう言いながら右手で左肩を軽く揉み解す愛紗。

……桂花が居たら、絶対に噛み付いているわね。

「そう、それなら私が凝りの元を無くしてあげるわ」と。

笑っていない笑顔でね。


私も小さくはないけれど……愛紗の身長で、あの大きさは狡いと思うもの。

まあ、そんな事を言い出せば、皆各々に……

止めましょう、誰も幸せになれない話題だわ。


愛紗を誘い、東屋の椅子に腰を下ろす。

私達の様に妊娠後も仕事を続ける女性が居る事も有って、彼方等此方等に専用の座布団が収納されている。

冬場は膝掛けも追加されている。

取り出して敷けば御尻も脚も冷えない。

ちょっとした、だけど嬉しい気遣い。

考案者は言わずもがな、雷華様。

だから、雷華様の女性支持は非常に強い。

勿論、男性からの支持もね。


私達が来たのを見て、側に有る詰め所に居た侍女が御茶を持って来てくれる。

庭に近い詰め所だから彼女達も休憩に利用し易い。

それは私達との交流にも繋がり、距離感の調整に繋がる。

結果、意思疎通や情報・認識の共有が出来るので御互いに無駄や手間を省ける。

こういった小さな事が実は地味に大きいのよね。

毎日の生活に関わる事だから。


そんな侍女の詰め所なのだけれど、こういう場所に置く事というのは、有りそうで無かったのよね。

だから、雷華様の発案で実際に設置して効果が判ったら、城内に限らず真似する家が増えたのよね。

一般家庭には関係の薄い事なのだけれど。


顔見知りの彼女達とは他愛無い話もする。

時には、市井の噂や情報を彼女達から得る事も有る。

この辺りは女性ならではの感覚よね。

それを上手く活用される雷華様が特別なだけでね。



「もう直ぐ華琳様の御出産ですね」


「そうね、御懐妊を知らされた時は驚いたけれど……

あっと言う間だった様に思うわ」


「今では御二人も同じ訳ですからね」


「ふふっ、ええ、本当にね」



御茶を御菓子を置き、世間話をする様に言う侍女。

その言葉に私達は自然と笑む。

半年前は祝福しながらも複雑な気持ちだったのだけれど、気付けば私達自身も同じ立場になっている。

正直、あの時、今の状況は想像してはいなかった。

願望(妄想)なら、出来ていたのだけれど。

だから……ええ、本当に幸せだわ。


会釈し、笑顔で立ち去る侍女。

愛紗と一緒に温かい御茶を口に運ぶ。


一口飲み、ほぅ……と息を吐けば、白く染まる。

気持ちや体感以上に気温は低い、という事でしょうね。



「……華琳様は勿論だけれど、私達も親になるのね」


「ええ……」



嬉しい事は嬉しいのだけれど、喜びだけではない。

雷華様が、華琳様が、皆が居るとは言え、不安は有る。

こればっかりは完全には無くせない。

華琳様でさえも、時折、華奈様達に話されている事。

私達も今暫くの猶予は有るけれど、他人事ではない。

準備というのも少し可笑しな話なのだけれど。

遣れる事は遣って置きたいと思うもの。

……まあ、私や愛紗は気負い過ぎるから自重が大事。

悪い方に傾いてしまい勝ちだから。


──という事を考えて、茶杯の水面に映った自分の表情を見詰めた後、視線を上げる。

愛紗と目が合い──苦笑し合う。

何を考えていたのか。

似た所が有る者同士だから判るもの。



「生まれると言えば、もう子供の性別は判るのよね?

貴女は雷華様に訊いたの?」


「いいえ、私は生まれるまでの楽しみにしています

そう言う蓮華はどうなのですか?」


「私も同じよ

判った方が準備はし易いのだけれど……ねぇ?」


「……そうですね、私達は特に危ういですよね」



期待して、違っていたら、という事は無いのだけれど。

判っていると、準備し過ぎて子供の可能性を狭めてしまう自分の姿が想像出来るのよね。

準備していて良かった。

その成功体験が有ると、後々にも準備し勝ちになる。

そうなると、子供の先回りをしてしまう。

子供だから、その方が上手く行き易い事も有る。

そうした良い形が重なっていくと、止められなくなる。

準備をしない事、しなかった時の失敗が恐くなって。


勿論、現時点では子供達の性格等は判らない。

だから、それでも大丈夫なのかもしれないけれど。

「自分に似てしまったら……」と考えると。

そうしない方が良い様に思う。


まあ、実際には難しい事なのだけれど。

私達自身、本当の意味では親としては初心者。

失敗も含めて、何事も経験、という事。

──なのだけれど……それが難しいのよね。



「自分の事なら、失敗しても構わないのだけれど……」


「子供の事となると、ですよね……」



雷華様が居るから大丈夫でしょうけれど。

判っている失敗は避けるべきなのよね。

ただ、それが本当に良い事なのかも……判断が難しい。


子供が出来る前は、こんな風には悩まなかったのにね。

人生というのは、楽しくは歩めるけれど。

楽には歩めないものなのよね。

だからこそ、輝かしい特別な価値が生まれる。

自分だけの物語という人生を綴りながら。



「……ねえ、愛紗

子供達はどんな人生を歩むのかしら」


「……乱世ではなく、治世に生まれ育つ訳ですからね

私達とは違う、という事しか言えませんね……」


「そうよね……

もしも、私達が治世の時代に生まれ育っていたら……

どんな人生を歩んでいたと思う?」


「……武の強さは求められないのであれば……

無難に、夫を立てる良妻賢母を目指す、でしょうか」


「生真面目な私達には向いているわね」


「ええ、そうですね」



誰と比べて、という訳ではないのだけれど。

そういう人生を歩む自分は想像し易い。

……し易いのだけれど……それはそれで悩みそうだわ。



「血筋や家柄が有ると大変ですね」



そう苦笑しながら言う愛紗。

きっと、愛紗にも何だかんだで苦悩はしている私の姿等が想像出来たのでしょうね。

自分の事だけれど……愛想の良い自分は想像し難いわ。


平民出身の愛紗の方が人生としては歩み易いかしら。



「ただ、そうなると雷華様とは出逢えませんね」


「それは困るわね」



治世では、婚姻の持つ政治的な意味が強くなる。

けれど、複数の妻を持つ理由や意味や必要性は薄い。

しかも、華琳様と結婚すれば婿入り。

今の様に妾──側室は必要無くなる。

つまり、私達は雷華様と出逢えない。

そんな人生は、今では考えられないわ。


まあ、“たられば”の話なのだけれど。

私達は乱世に生まれて良かったと思う。

そう思える現在(いま)が有るからなのだけれど。

色々と有った苦悩も辛かった事も。

物語の一部の様に思えるから。

この生に感謝し、歩み、繋いで行こうと思う。

私の死が、私の物語を締め括る、その時まで。

私が、私達が紡ぐ、新たな生命(いのち)の物語と共に。



──side out



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