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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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曹奏四季日々 47


 甘寧side──


──二月三日。


雷華様との子を授かった。

子作りをしているのだから当然の事なのだが……

雷華様の想定を越えた早さで、だ。

これには私自身も吃驚だ。

まあ、第二陣の中では一番最初となる。

それは素直に嬉しい。

誇らしくも有るし、若干の優越感も有る。

流石に自慢したりはしないが。

同じ第二陣の皆とは半月は差が有るだろうな。


ただ、慶事の筈だが……同時に少々恥ずかしくもある。

何故だっ!?



「御目出度う、思春」



そう言ってくれるのは嬉しいが……紫苑、笑っているぞ?

クスクス笑う位なら堂々と笑ってくれ。



「御免なさい、そういうつもりではないのよ

ただ、戸惑っている貴女が可愛らしくてね

つい、初めて出逢った頃を思い出したの」



……あの頃の私か。

確かに私自身が客観的に見ても可笑しくは思う。

私は心身共に雷華様によって女にされた。

そう言い切れるからな。

まあ、当時の事は今では良いネタであり、思い出だ。

恥ずかしさは有るが、それに付随する雷華様との思い出も色々と有るからな。

ああ、決して悪くはない。



「まあ、女らしさの欠片も無かったからな

そういう意味では、女らしい魅力の有った紫苑の事を私は尊敬していたぞ」


「あら、そうだったの?」


「ああ、雷華様もだが、色々と教わったからな」



特に下着──服装の件では世話になった。

……人形遊びの人形にされている気もしたがな。

それも今では懐かしい話だ。


今は私自身も御洒落が判る様になった。

なったが──つい、安売りの品が有ると、それで構わないという思考に向き易い。

こればっかりは染み付いたものだろうな。

華琳様や秋蘭等からは厳しく注意される。


それと、紫苑を始め、年長組は両取りだ。

普段着や雷華様の目に入る可能性が有る様な時には品質も意匠も確かな物を身に付けるが、汚れてしまう様な仕事の場合には安い物を身に付け、使い捨てている。

その辺りは割り切りなのだろうな。

華琳様達も指摘はしないので。


因みに、昔の私の同類は灯璃・螢・恋だ。

灯璃と恋は言わずもがな。

螢は意外だが、以前の境遇を考えればなぁ……


尚、珀花が此方等ではない事には若干の不満が有る。

しかし、珀花は御洒落だ。

アレだけ普段は面倒臭がったりしているのにだ。


珀花ではないが、泉里は以前は似たり寄ったりだった。

事情を聞けば……まあ、身体に合う大きさ等でだ。

特注になるし、以前は気にもしていた。

特に異性の視線や意識をな。

雷華様に出逢ってからは他は気にもならなくなった。

兎に角、雷華様を気を引きたかったからな。

私や紫苑も通った道だから判る。


……ああ、その道を華琳様も通られている。

華琳様の場合は雷華様の嗜好を探る為だが。

その御助言には大変助けて頂きました。


方向は違うが、色々と拗らせた斗詩も酷かったな。

桂花達が最初は悪乗りしていたが、直ぐに笑えなくなり、謝っていたからな。

アレは珍しい光景だったな。




暫し、紫苑と昔話で盛り上がってしまった。


だが、一人になると改めて考えてしまう。

雷華様が失敗したとは考え難いのだが……

不思議な事に──と言うか、「待ってました!」と言わんばかりに、だからな。

運命めいたものを感じずには居られない。

まあ、雷華様も「待ち切れなかったか?」と。

私の御腹に触れながら苦笑されていた。

悪い意味ではなくだ。


ただ、ふと思う。

乙鳥羽は燕の生まれ変わりだ。

来年には私達と同様に雷華様の妻となる。

勿論、乙鳥羽は乙鳥羽。

私の知る燕ではない。

それは判っているが……やはり、嬉しく思う。

同じ(ひと)を愛し、共に生きられる事を。


だから、もしも。

御腹の(この)子が凌操の生まれ変わりだとしたら。

また、私達は共に過ごせる。

姿形は変わろうとも、過去(紡いだ絆)は失われはしない。

未来(繋ぐ絆)は絶たれはしない。


…………となると、凌操の愛した女性。

乙鳥羽の母親もまた、何処かに生まれ変わっているのか?

そうだとすれば…………



「探すのは止めておけ」


「──っ!?、雷華様…………ぁ……」



不意に声を掛けられ、驚くが誰かは察した。

振り向けば、やはり、雷華様が其処に。


ただ、不思議に思った。

如何に雷華様でも会話の流れが有った訳ではない状況で、私の思考を読んだかの様な的確な一言だったのだから。


まあ、その理由は直ぐに判った。

雷華様の視線を辿れば私の御腹に。

其処に当てられた自分の手に。

あとは……雷華様ですから。

きっと、私の表情や雰囲気から察したのでしょう。

抑、私が妊娠した事は御存知な訳ですから。



「気持ちは判るが、その出逢い──巡り合わせも大事だ

二人の絆が死を経ても尚、繋がっているのであれば、必ず御互いに引き寄せ合う

それが絆を更に強くする」


「その機会を奪ってはならない、という訳ですか……」



そう言って、御腹に視線を落とす。

母親として、家族として──妹として。

色々と思う事は有るけれど。

……もどかしくも思う。

いや、判ってはいるのだがな。

私自身、雷華様との出逢いが有ればこそ、今が在る。

それは誰かに用意されたものではない。

そうではないからこそ、特別なのだから。

判っているが…………靄々する。



「愛情は大切だが、構い過ぎるなよ?

過保護な事は御互いの為には成らないからな」



そう仰有って頭を撫でて下さる。

自然と目蓋を閉じ、その胸に寄り掛かってしまう。

仕方が無い事だ。

私達は夫婦であり、夫婦とは支え合うものなのだから。




──だが、時と場所は選ぶべきだな。

決して悪い事ではないのだが。

“人目に付く”事を失念していた。

いや、雷華様に夢中になると視野狭窄に陥るからな。

仕方が無いと言いたい。

言いたいが……恥ずかしくはある。


しかも、見られた相手が乙鳥羽だと尚更にだ。

…………乙鳥羽、無言なのは止めてくれないか?

どうしようもなく恥ずかしくなってしまう。



「気持ちは判りますが、難しいと思いますよ?」



そう苦笑しているのは対面に座る泉里。

乙鳥羽()と一緒だった。

そう、見たのは乙鳥羽だけではなかった。

だから、余計に恥ずかしくなる。

あと──凪、何故、御前まで照れる?

御前は此方等側だろう?



「い、いえ、それはそうなのですが……

つい、何と言いますか……雰囲気で……」



平然としていた──いや、「何をしているのですか?」と呆れている態度を見せている泉里とは違う。

……本心では羨ましく思っているだろうがな。

それは「立場が逆なら……」と考えれば判る事だ。

だから、御互い様なのだが。


凪の反応には私も困る。

つい、引っ張られて(・・・・・・)しまうからな。

原因である以上、強くは言えないが。


因みに、泉里達は雷華様と待ち合わせていただけ。

其処に偶々、私が居合わせた形になる。

雷華様は別件を片付けてからの合流だったので。


そんな流れのまま私も一緒に移動し、茶屋に入った。

私と泉里が奥に座り、通路側には雷華様。

その雷華様は猫塗れになっている。

まあ、だから、通路側なのだが。

相変わらずの人気振りだ。

私達の所にも居るが……いや、比較する事ではないな。


話を振って切り替えるか。



「この面子、という事は例の海賊の件か?」


「そうです

貴女の妊娠は予想外でしたが、予定通りに行います

大事を取って……という気は有りませんよね」


「ああ、まだ大丈夫だと雷華様も仰有っているからな

私も予定通りに参加する」



そう答えれば、泉里は小さく溜め息を吐く。

初めから決まっていた事だから文句も言い難いしな。

「判っているのであれば大人しく引いて下さい」と言外に抗議される。

済まないな、引く気は無い。


明後日、決行される例の海賊掃討戦。

それに参加したがった将師は少なくはない。

如何に、大決戦の後は子作りと、次代への引き継ぎの為の準備が主だったとは言え、常在戦場が染み付いた身。

暴れた──ゴホンッ、腕や勘を鈍らせたくはない。

そう思う者は多い。

第一陣組で、既に御腹が大きくてもだ。

寧ろ、氣も安定したから動けるからな。

今は妊娠したばかりの私の方が危ういだろう。

……まあ、雷華様がいらっしゃるから大丈夫なのだが。

それも参加したがる理由でもある。

見せて、魅せて、誉められたいから。

動き回るのが駄目なら、弓矢による遠距離攻撃での参加をという提案していた位だからな。

勿論、却下されたが。

気持ちは判る。



「事後、高句麗の平定も予定通りに?」


「ええ、彼方等は既に崩壊していますから

余計な手間も掛からないので今月中には片付く予定です」



大陸──旧・漢王朝の領土が分割されたとは言え、平定。

特に東側の沿岸部の状況は大きく変わった。

その結果、海賊達の殆んどは高句麗へ。


南下した者達も少なくはないが……沈んでいる。

理由は様々だが……大陸での乱れが南に影響した結果だと雷華様は仰有っている。

一時の事とは言え、自分達にまで事が及ぶ事を危惧すれば南の者達も神経質になる。

その結果、貿易相手は限られ、厳重化する事は必然。

逃げ出した海賊達が突け入れる訳が無い。


──という事は、海賊達の間で直ぐに広まった。

……まあ、広めた(・・・)と言う方が正しいのだが。

そう遣って海賊共(ゴミ)高句麗(ゴミ箱)に。

どうせ片付けてしまうのだから、纏めた方が効率的だ。


抑、高句麗に同情する余地も無い。

無辜の民は兎も角としてだ。

敗者である海賊達に敗れる様な状態だったからな。

曹魏との関係を巡っては対立し、割れていた。

放って置いても内乱で自滅しただろうが……

後々の事を考えれば、民が受け入れ易い理由が有った方が事後処理が楽になるからな。

廃棄される海賊共(不要品)の再利用。

雷華様が得意とされている事だ。

天の国(彼方等)では確か……環境配慮(エコ)というのだったか。

良い考え方だと感心する。


因みに、高句麗の最後の王族は鏖殺され、潰えている。

だが、その前の王族の血は生きている。

皮肉な話だが、二十年前に起きた政変──反乱で交代し、処刑された筈の王族だったが、生き延びた子が居た。

その子は復権や再興は考えず、静かに生きる事を選択。

本人は妻と共に賊徒に殺されたが、一人娘は生き延びて、何の因果か雷華様の下に。

現在は壬津鬼の一員として活躍し、暮らしている。

年齢的な理由も有り第三陣にはなっているがな。

その血は未来に続く事が約束されている訳だ。


まあ、本人は高句麗に未練も何も無い。

だから、高句麗関連の事には携わってはいない。

それよりも氣の技術の研究の方が面白いそうだ。


雷華様は勿論、華琳様も私達も何も言いはしない。

誰も血筋を理由に責任を押し付けはしない。

責任とは、自らが覚悟を持って背負うものだと。

それを知っているからだ。

知っているから、無責任な事は言わない。

知っていれば、無責任な事は言えないからだ。


だから、高句麗の領土は曹魏の一部にはなるが、私達の中から治める者は出ない。

将来的な事を言えば、雷華様の子供の誰かが関わる事にはなるのだろうが。

それも自主性を重んじての事。

最初から決め付ける事は無い。


尤も、各家の後継ぎだけは別なのだがな。

こればかりは仕方が無い事だ。



「ああ、妊娠と言えば貴女の所の女性達が相次いで産休に入る事になったそうですね」



少し揶揄う様に言う泉里。

実際、“幸せ弄り”をしているのだろう。

嬉し恥ずかしな事だけに私も反応がし難い。



「その事か……私も含めて慶事なのだがな

こういう風に固まってしまうと少々困るな」


「それも見越しての男性中心の再編成ですからね」



そう、何処の部隊も女性が妊娠・出産、育児がし易い様に大規模な再編成が行われた。

勿論、職場復帰も可能な形では有るし、男性達にしても、家庭を蔑ろにする様な形ではない。

その辺りは雷華様が厳しく考えられるている。

家庭を第一とされているが故にだ。



「それも乱世の時代が終わったという証でしょうね」


「そうだな……」



そう言って、泉里と二人、窓の外を眺める。

通りを歩く人々の姿を見ていれば判る。

活気が有る事は勿論だが、子供の姿、老人の姿が多い。

それはつまり、それだけ安心して居られるという証拠だ。


勿論、見回りをする巡士隊や、国境で出入国者達を厳しく取り締まる関士隊の日々の人力の賜物だが。

この日常を掴み取る事が如何に大変な事だったのか。

それは、あの乱世の時代を生き抜いた者にしか判らない。


ふと、考える事が有る。

生きて今を迎えられた者と、亡くなった者。

その差は何だったのか、と。


単純な個々の差を言えば、生き抜く強さになるのだろう。

だが、それだけでは生き抜けはしなかった。

現に、劉備の下では多くの死者が出たのだから。


そういった意味で言えば。

雷華様と華琳様との関わりなのだろうな。

曹家の民であれば、犠牲者には為らずに済んだ。

極論を言えば、そういう事になるのだから。


だが、この日常は、この先も安泰という訳ではない。

何時、どの様な理由で脅かされるか判らない。

それが必ずしも人災ばかりだとは限らないのだから。


だから、まだ私達の戦いは続いているし、終わりは無い。

紡ぎ、繋ぎ、託し、継いで──遥かな未来へと。

この他愛無い日常が途絶えぬ事を願って。



──side out



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