表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫三國史  作者: 桜惡夢
916/920

曹奏四季日々 46


 関羽side──


──一月三十一日。


私を含む第一陣が妊娠して半年。

個人差は有るが、随分と御腹も大きく膨らんだ。

少し前までは妊娠した影響から更に一回りは大きくなった胸の方が目立っていたというのに。

今では御腹の方が大きいのだから不思議なものだ。


──が、その中でも一番変化が大きいのは月だろう。

初めて会ったばかりの頃から考えれば、背も伸び、綺麗に成ったのは確かなのだが。

“薄幸の美少女”という印象が強かった。

他人の事は言えないが、色々と有ったからな。


それが今では落ち着きの有る女性に。

普段は気品有る淑女だが、雷華様の前では妖艶な魔女に。

……まあ、雷華様が相手では私達は貪られる側なのだが。


……やはり、アレだな。

旧友達との再会が一つの区切りとなったのだろうな。

私は…………まあ、気になるのは張飛の事だが。

元気にしているという事は判っている。

それだけで十分だ。


──等と、現実逃避をする様な事を考えてしまうのには、そうさせる理由──要因が有るからだ。



「子供は絶対に自分の母乳で育てるべきよ!」



そう卓の向こう側から身を乗り出して言うのは桂花。

真剣な表情だが、目の奥が笑っている。

そう、この桂花こそが、その要因。

つい、「何をしている?」と言いたくなる。


まあ、そんな事を言う理由は判っている。

妊娠して胸が大きくなるのは授乳の為だ。

そして、母乳を与える期間が長くなると、元の大きさより小さくなるという事が有る。

だから(・・・)、桂花が力説している訳だ。

私だけにではない。

第一陣・第二陣の殆んどの者にだ。

知られ過ぎて、相手にされていないぞ?



「知ってるわよ!」



いや、私に逆ギレされてもなぁ……

──と言うか、昔の事を思えば桂花も大きくなっただろ?



「それはそれ、これはこれよ

得られても人の欲は尽きないのよ

更なる高み、更なる成長を求めるわ!」



……なあ、桂花、判っているのか?

言っている事は立派な様には聞こえるが、遣っている事は最低な事だぞ?



「手段を選んでなんていられないわ!」



いや、其処は選ぶべきではないのか?

そろそろ、華琳様の御耳にも入ると思うが?



「誰がチクるのっ?!」



いや、そんな事を私に訊かれても困るが……

違う、そういう事ではない。

いい加減、止めておけ、という事だ。

御前が説教されようが、罰せられようが構わないが。



「構いなさいよっ!」


「そう思うのなら、素直に止めておけ」






やれやれ……桂花の執着にも困ったものだ。

……しかし、何だかんだと桂花と絡む事は多い。

私から、というよりは桂花からだ。

桂花が懐い…………いや、気を許してくれている。

そういう事なのだろうが。

まあ、その内容がなぁ……

何処まで本気なのかが判らない時が有り、困る。

因みに今回の件は本気だが、「ちょっとでも効果が有れば嬉しいわね」という感じだろうな。

ああは言っているが、昔の様な執着心は見えない。

……まあ、未だに私達を目の敵にはしているがな。

いや、正確には私達の胸を(・・・・・)だが。

真面目に考える事も馬鹿馬鹿しいが……

「有る者に、無い者の渇望は判らないわよっ!!」と。

そう言われてしまうと反論はし難い。

内容は違っても、その気持ちは理解が出来るからな。

……いや、同じ扱いにはされたくはないな。



「──あ、愛紗さん」


「──ん? ああ、鈴萌か

この時間に私邸(此方等)に居るなんて珍しな」



言外に「何か遇ったのか?」と訊けば、苦笑が返る。

手に持っていた書類の束を見せているので忘れ物か。

……鈴萌にしては珍しいな。



「急遽、午後からの会議が入ったので」


「ああ、そういう事か」



忘れ物ではなく、予定外に必要になった為。

それなら仕方が無いし、納得だ。

珀花や翠や灯璃ではないのだからな。

……頭の中で文句を言う三人だが、黙らせる。

そう思われるのは御前達自身に問題が有るからだ。

まあ、珀花に比べたら二人はマシだがな。



「愛紗さんは今、御帰りに?」


「ああ、さっきまで桂花に捕まっていたのでな」



そう言うと、「済みません」と言う鈴萌。

「何故、鈴萌が?」──と思ったが、思い出した。

鈴萌は元々は荀家に奉公していた身。

雷華様に見初められて引き抜かれた。

勿論、鈴萌自身は雷華様を愛し、華琳様を尊敬している。

それは間違い無い。

だが、荀家に対する感謝の念は今も変わらずに有る。

優先順位としては一つ下がるが。

それでも鈴萌自身にとっては上位なのは確かだ。


だから、という訳ではないが。

桂花とは姉妹の様に仲が良い。

……見た目には鈴萌の方が姉らしいがな。

それを言うと桂花が不機嫌になるので言わないが。

正直、桂花が年上というのは知っていても信じ難い。

まあ、本人の性格も有るだろうがな。

…………ふむ。



「……? 愛紗さん?」


「ああ、いや、何でも無い──訳ではないか

ふと、思っただけだ

今でこそ桂花とは仲が良いが、当初は御互いに遠慮勝ちで微妙な距離感だったと聞いたな、と」


「あー……そうでしたね」



困らせるつもりではないない事は鈴萌も判っている。

私は当時の事は知らない。

後から聞いた話だからな。

だから、深掘りした事も無い。

過去よりも現在、そして未来が大事だからだ。


ただ、興味が有るというのは否定出来無い事だ。

まあ、話題が話題なだけに、少々困り顔に。

別に無理に広げる必要は無いぞ?



「いえ、そこまでの事では有りませんから

確かに私は荀家に御世話になっていましたが、その当時は桂花さんとは入れ違いでしたから

表面上は繋がりが有りますが、御互いに初対面でしたから周囲が思っている以上に戸惑っては居ましたね」


「時間が解決したのか?

それとも何かしらの切っ掛けが有ったのか?」


「それこそ、雷華様と華琳様の御陰です

私達が躊躇している所に入って下さって、御二人を介した話を通じて御互いを知る事で話し易くなりましたから

時間が解決するのを待っていたら、今とは違う関係だったかもしれません」


「例えば、どんな風にだ?」


「雷華様の妻、将師としては同じだとは思いますが……

先程、愛紗さんが思われた様な姉妹に近い感じの関係には成ってはいないと思います

仲が悪い訳では有りませんが……」


「今の様な近い距離感ではなかった、か」


「はい、そう成った可能性が高いと思います

家族という意味では同じでは有りますが、私の方が今より荀家とは距離を置いていたでしょうね」



そう言って瞑目する鈴萌。

確かに、聞いた感じだと色々と複雑な関係だった様だ。


桂花と、母親である明花さんの関係。

その明花さんと鈴萌の関係。

それを踏まえた桂花と鈴萌の関係。


何れもが今でこそ良い方向に影響し合ってはいるが。

当初は悪い方に絡まっていた。


それを解き、整え、強く編み直したのは雷華様だ。

雷華様は「それは三人の意思によるものだ」と仰有る。

確認などしなくても判る。

鈴萌も「雷華様ですからね」と笑顔を浮かべている。

そういう方だからな。




鈴萌を見送り、私邸の庭に向かう──が、誰も居ない。

誰かしらは居るのに……珍しいな。


──と思っていたら、長椅子の背凭れから、特徴的な髪が此方等に反応した様に姿を見せた。

そして、背凭れに顔を半分隠したまま、子供が様子を窺うかの様に此方等を見る。



「恋、一人か?」


「……ん、皆、今日は忙しいみたい」


「そうか」



そう言いながらも、構って欲しそうな眼差しには抗えず、恋の傍へと行く。

別に私が特別甘いという訳ではない。


私が長椅子に腰を下ろせば、直ぐに匍匐前進で──いや、芋虫の様に器用な動きで近寄る恋。

……そんな事、誰に教わった?


「……珀花」



彼奴は……冥琳に言って置かなくてはな。

「そんなっ!? 愛紗の鬼っ!」等と頭の中で抗議をするが厳しく突き放す。

恋に変な事を教えた御前が悪いのだからな。

まあ、本当なら私が説教したい所だが……

私達が注意した所で効果は期待薄だからな。

冥琳(専任担当)に託すしかない。

文句を言うのなら、自分を鑑みて反省しろ。

冥琳ではないが、幾らでも小言は言えるぞ?


──という軽く苛立った気持ちを恋の頭を撫でて宥める。

嗚呼、恋は癒しだなぁ……

犬猫の様に甘える恋。

全く……本当に可愛いな、御前は。

誰かと比べて、とは言わないがな。

言えば、それは私自身にも返る刃となる。

……まあ、こんな私でも雷華様は可愛いと仰有ってくれるのだがな。


撫でられながら、恋は私の御腹に耳を当てる。

この仕草は最初は華琳様に見せていたものだ。

私達──第一陣の面子が妊娠してからは、私達にもだ。


雷華様が仰有るには、恋自身の抱く潜在的な家族への憧憬がそうさせるのだろう、との事。

御腹の子供の鼓動や、その存在を感じながら。

甘える様にしている恋は子供の姉の様に思える。

実際には私達と同じ様に産む側なのだが。

これも恋自身が母になる為の準備だと。

雷華様も華琳様も好きにさせている。

勿論、私達もだ。

何か、害を為す訳ではないしな。


…………変わったというと、恋もそうだな。

螢もそうだが、特段、よく喋る様になった訳ではない。

その辺りは寧ろ、私達の方が慣れて判る様になったな。

最初から、その二人と何の問題無く意志疎通の出来ていた雷華様が凄いだけなのは言うまでも無い。

華琳様でも最初は苦労されていたからな。

……その点に関しては颯は優れていたな。

まあ、アレだけの個性的な面子を束ねていたのだから。

将師では……雪那と結様が抜けていたか。

他は似たり寄ったりだったな。

はっきりと言うし、言われたい者ばかりだからな。

察するという事の先は難しかった。

……いや、今もまだ十全ではないがな。


ただ、螢にしろ、恋にしろ、自我を出してくれる様になり私達も判り易くなった。

御互いが変わったからだ。


勿論、それは“成長”という意味でだ。

悪い意味でではない。

寧ろ、其方等の意味では小言を言いたくなるからな。

誰とは言わないが。

脳裏で下手な口笛を吹いて外方を向く数名。

全く……──っと、また心が乱れ掛けたな。


まあ、変わる事の全てが良いという訳ではない。

久し振りに会ったら変わっていて嫌になる事も有る。

変わろうとして自分を見失う事も有る。


変わらない事が良いとされる事も有る。

変わらない事が悪いと感じる事も有る。

結局の所、それは個人個人の価値観次第だ。

絶対の正解というのは少ない。

全く無い訳ではないが。

それさえも、世の中が変われば変わる事も有るだろう。

広く大きく変わる事は影響も相応となるのだから。


私達は雷華様に出逢い、変わった。

その歩みも、人生も、運命でさえも。

それは良い意味であり、成長でもある。

後悔する事など何一つとして有りはしない。


ただ、以前の事には多々思う事が有る。

それは変えられはしないし、消せないし、遣り直せない。

どんなに、そうしたいと思ってもだ。


しかし、それらは無意味でも無駄でも無い。

今だから判る。

それらは必要な事だったのだと。


勿論、そう思える様になるまでは汚点であり大失態。

「何故、私は……」「どうして私は……」と。

考える度に悔やむ事しか無かった。

考えたくもなかった事だったしな。


だが、それさえも変わる。

変えられる。

変わらない事など無いのだから。


しかし、人は自ら変わる事は至難だ。

自分の事しか考えず、気にもしないなら。

変わる必要性など全く無いからな。

成長という意味でも最低限でしかない。

自分が楽な在り方で満足していれば何の問題も無い。


だから、人が変わる為には理由が必要となる。


そうする必要に迫られる状況になるとか。

他者の存在が比較や障害となったりとか。

その形は様々だろうが。


変わる必要が有る。

そう自分自身が思わなくては始まらない。


勿論、決して簡単な事ではない。

私達には雷華様や華琳様が居らっしゃるから違ったが。

そうでなければ大変な事だろう。

それは想像しようにも難しい程だ。

……雷華様の居ない状況が既に考えられないからな。


だから、今は過去を受け入れられる。

過去と向き合える。

色々と思う事は有るのは仕方が無いが。

今の自分が在るからこそ。

本当の意味で、過去に出来たのだと言える。


まあ、それもこれも未来を見られるからだろう。

過去しか見ていない者には未来は愚か、現在(いま)も見えない。

それでは、変わりたくても変われない。

変わった自分を見る事が出来無いのだから当然だ。


だが、そう成りたい、そう在りたい。

そう思うだけでは人は変われない。

そうしようとする強い意志と覚悟が無ければ。

変わる事など出来はしない。

それだけ難しい事なのだから。


そういう意味でも、改めて思う。

私達は恵まれていると。

何しろ、雷華様と出逢えたのだから。

これ以上の幸運は先ず思い浮かばない。

それだけの事なのだから。



──side out


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ