第77話 公都に出発 02
しばらくの間このペースでの投稿になります。
すみません。
『父上~! 母上~!』
赤い髪に黒いスーツ姿、右手には大きな鎌を携えた少年が、四人の仲間を従えてブイヨン子爵とアクア夫人の元へ駆け寄ってきた。
『おはよう、パッツアちゃん♡ よく眠れたかしら?♡』
『母上! いつまでも子ども扱いはやめてください!』
そう答えた少年は、まだあどけなさの残る美少年だった。
背丈はケンより少し低い程度で、年齢よりも若く見える。
そんなパッツアと呼ばれた少年に、ブイヨン子爵が続けて話しかけた。
『ははは、パッツアは今日も元気だねぇ。
こっちにいるお兄さんはケン。A級冒険者だよ。僕たちと一緒に公都へS級試験を受けに行くんだ。
ケンさん、こちらはB級冒険者パーティー【銀翼の旅団】のリーダーで、僕たちの息子のパッツアだ。幼く見えるかもしれないけど十八歳になるんだよ』
『子爵様のご子息なんですね。おはようございます。
俺はケンと言います。本職は魔道具師をしています。よろしくお願いいたします』
ブイヨン子爵の紹介を受け、ケンは丁寧に自己紹介をした。
しかしパッツアは、斜に構えたような態度で左手を額へ当て、決めポーズを取る。
その左腕には怪我でもしているのか、包帯が巻かれていた。
『フハハハ!
我の名は死神・パッツア・ブイヨン!
魔王ヴァンドレッドの弟子にして、世界を救う者の名だ!
覚えておくがいい!』
辺りは一瞬にして静まり返る。
そんな中、ブイヨン子爵とアクア夫人だけが嬉しそうに拍手を送っていた。
唖然としているケンの後ろへ、ブイヨン子爵がそっと近付き、小声で耳打ちする。
『すまないケンさん。前にヴァンドレッドさんへ弟子入りしてから、すっかり影響されてしまってね……。
根は真面目ないい子だから、合わせてくれないかな?』
頼まれたケンは笑いを堪えながら、一歩前へ出る。
右手を上げて貴族風の礼をすると、恭しく頭を下げた。
『ハハッ!
かの有名なヴァンドレッド様のお弟子様、ラパルカ・パッツア様ですね。
私の方こそ、お見知りおきを』
『違う!
ラパルカじゃない! ラ・パルカだ!』
『す、すいません!
ラ・パルカ・パッツア様ですね』
ケンは吹き出しそうになるのを必死に堪えながら返事をした。
後からブイヨン子爵に聞いた話では、公都の冒険者ギルドで活躍する【銀翼の旅団】は、
騎士のパッツアをリーダーに、
ドワーフの重戦士ボリス、
エルフの弓使いミリー、
魔族の魔導士シオン、
人族の聖職者アン、
以上五人で構成されたB級冒険者パーティーなのだという。
ケンはパッツアの後ろにいた他のパーティーメンバーにも挨拶を済ませ、自分の出発準備へ戻った。
馬車は全部で四台。
一台はブイヨン子爵、アクア夫人、バルガスが乗る豪華な貴族用馬車。
もう一台は従者たちが乗る馬車。
残る二台は荷馬車だった。
荷馬車の一台へ荷物を積み込んでいると、後ろから元気な声が聞こえてくる。
『パパ~!
ママがお弁当持って行くようにって言ったから持ってきたよ~!』
振り向くと、リナが抱えきれないほど大量のお弁当を持って走って来ていた。
『あぁ~、重かった~!
ママも作り過ぎだよね!』
『リナ、マジックバッグは?』
『あ……いや、あれだよ!
そう、筋トレ!
ママがいっぱい作ったから、いい筋トレになるかなぁ~と思って……』
『そうか……筋トレ……大事だよな』
『だよねぇ~……あははは……』
親子の間に何とも言えない空気が流れる。
そんな空気など気にも留めず、リナの姿に気付いたブイヨン子爵が声を掛けた。
『おや? リナちゃん。
パパのお見送りかい?』
『子爵様!
ママがお弁当を作ったので、皆さんで食べてくださいって言われて持ってきました!』
『あら♡ あの有名なサオリシェフのお弁当が食べられるの?♡』
『お父さん、この人は?』
『こちらはブイヨン子爵夫人のアクアさんだ』
『おはようございます!
パ……ケンの娘のリナです。
よろしくお願いします』
『あら♡ 可愛い娘さんねぇ♡』
『そうだ、パッツア! こっちへおいで~』
ブイヨン子爵に呼ばれたパッツアが歩いて来る。
『パッツア、こちらはケンさんの娘さん、リナちゃんだよ』
紹介されたパッツアは、リナの前へ立つと、先ほどと同じように左手を額へ当てて決めポーズを取る。
『フハハハ!
我の名は――っ!?///』
リナの顔を見た瞬間、パッツアは固まった。
顔を真っ赤に染め、慌ててポーズを解く。
『パッツア……です。
リナさん……僕と結婚してください!』
あまりにも突然の告白。
しかし、ケンの立ち位置からはリナの表情がちょうど見えなかった。
『はい……よろしく……お願いします』
その返事だけが、その場に静かに響いた。




