74話 家と村の説明 2
『美味し~!』
『うん、うんっ! サオリ様、これはどういう料理なのでしょうか!?』
『でしょ~! やっぱりママの料理は最高なのよ!』
『なんでお前がドヤ顔で言ってるんだ?』
『もう、“様”はやめてよ。これはカツって言ってね――』
三好家では、楽しく食べるのがマナーだ。
そこに種族も国籍も関係ない。皆で楽しく喋りながら、食事は賑やかに進んでいく。
『サオリもだけど、俺も“ケン様”って呼ばれるのはちょっとなぁ』
『それでは、何とお呼びすればいいのでしょうか?』
『別にケンとサオリでいいんだけど、言いにくいなら「ケンさん」「サオリさん」でいいんじゃないか?』
『それでは、ケンさん、サオリさんで』
『私はケンさんの事、お父さんって呼びたい!』
『ブッ――!』
『パパ、汚い』
『モグ! 駄目でしょ、我儘言ったら。すいません、サオリさん、ケンさん』
『だって~』
『“だって”じゃないの。駄目なものは駄目』
しおしおと意気消沈するモグを見て、サオリが優しく声を掛ける。
『モグちゃんは、お姉ちゃんが出来たから、お父さんって呼びたくなっちゃったんだよね』
『うん』
『それじゃあ、こういうのはどうかな?』
モグがパッと顔を上げる。
『私たちは、これから家族みたいに過ごすのよね。だから、私の事を「サオリママ」、ケンの事は――「ケンパパ」はちょっと言いにくいから、「パパ」って呼ぶのはどう? ママとパパっていうのは、お母さんとお父さんって意味よ』
『いいの!?』
『サオリさん、それはいくらなんでも……』
『いいんじゃないか? サオリもああ言ってるし、呼ばれるだけなら俺も気にならないぞ』
『ケンさんまで……』
『それともモグちゃんは、お母さんが二人いるのは嫌?』
『ううん! パパ、サオリママ、これからよろしくお願いします!』
『もう! モグったらホントに可愛い!』
リナはモグを抱きしめて頬擦りをする。
『ちょっと、お姉ちゃん、くすぐったいよ』
もうすっかりご飯の事を忘れてリナとモグが、わちゃわちゃとじゃれ合っている。
『本当に良かったんですか?』
『ええ、大丈夫よ。パクも気になる? お母さんって呼ばれる人が増えるのは』
『いえ、私は……オーク族は母親が多いのはよくある事なので。私も母親は三人いましたし』
『それなら良かったわ』
『それにしても、俺は“パパ”でいいのか? 「ケンお父さん」とかでも良かったんじゃないか?』
『パパとママは人族の言い方でしょ? だからケンは“パパ”にしたの。それに、パクもまだ若いんだから、再婚した時の為に“お父さん”は残しておいた方がいいでしょ』
『凄いな、ちゃんと考えてあげてるんだな』
『私だってちゃんと考えてるわよ。いつもバルガスさんに怒られてる誰かさんと違って』
『お~いリナ~、ママが怒ってるぞ~』
『ほぇ? 何の話?』
『あなたの事言ってるんですけど?』
『はい、そうでした。すいません』
『分かればいいのよ』
『誰かさんも暴力で解決するのは――』
『何か言った?』
『いえ、何も。それじゃあ、残りの今日のスケジュールを決めるぞ』
皆がケンの下に集まる。
サオリとケンはいつものやり取りなので気にも留めていないが、パクはサオリが放った鋭い眼光に気が気でなく、視線をオロオロと漂わせていた。
『大丈夫だよ。パパ達、いつもあんな感じだから』
モグと一緒にこちらへ来たリナが、パクにこそっと耳打ちする。
『私たちも慣れないといけないですね』
『いつもだから、すぐ慣れるよ』
皆が集まったのを見て、ケンが話を続ける。
『それじゃあ今から買い物の時間にするぞ。取り敢えずは服と靴だな。パクとモグも、途中で欲しいものがあったらサオリに言うように』
『『はい』』
『サオリとリナは街の案内をしながら、服屋でいい感じに買っておいてくれ。俺はギルドに報告してくる』
『はい』
『了解!』
こうしてケンは一人、冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドに入ると、いつも通り美人犬耳受付嬢のサリーの列に並ぶ。
「こんにちは、サリーさん」
「あら、ケンさん。こんにちは。早かったですね、もう着いたんですか?」
「ええ、今しがた。サオリとリナは、服屋で二人の服を選んでますね」
「分かりました。ギルマスは今、子爵邸で別件の仕事中ですので、帰り次第伝えておきますね」
「はい、お願いします」
「あっ、そうだ! ギルドからも報告があります」
「報告?」
「はい。子爵様が正式に公都へ行く日が決まりました。……こちらです」
サリーはケンに一枚の紙を渡す。
「三十日後の朝に出発することが決まりました。形式上、ケンさんは子爵様の護衛として同行して頂きます。行かれるのはケンさん一人になっていますが、どうしますか?」
「ちょっと持ち帰っていいですか? 三十日だとオーク族の事もあるので、家族と相談して報告します」
「分かりました。それでは報告お待ちしてますね」
*
一方その頃――服屋へ向かったサオリ、リナ、パク、モグの四人は、街中を歩く4人を見て「おっ!」っという人もいたがブイヨン子爵のお達しが行き届いているのか、何事もなく街中を進むことが出来た。
『なるほど。その、働いたら貰える「お金」という物で、生活に必要な物を交換するのですね』
『そうよ。二人には、私たちのお店の手伝いや、食べ物を育てる畑の手伝いをしてもらうから、その対価としてお金を渡すわ。今日からしばらくは私たちがお金を出すけど、慣れてきたら自分たちの欲しい物は自分たちで買うようにしてね』
『分かりました』
『それと、今から行く服を売ってるお店なんだけど、気を付けてね』
『? 気を付けるとは?』
『そこのお店の人、服を売るのが凄く上手だから』
『そうそう。気が付いたらいっぱい買ってるんだよね』
『そう。だから気を抜かないようにね』
『はい、分かりました。でも、私たちは言葉がまだ分からないので大丈夫では?』
『ええ、分かってるわ。これは自分達にも言い聞かせてるから』
『それほどまで……それは、他のお店には売ってないのですか?』
『他にも服屋さんはあるけど、品揃え、品質、センス、どれを取っても良いお店なのよ』
『店員さんも凄くいい人なんだよ。でも気が付くと……ね』
『ええ……とにかく行きましょうか』
お店に着き、中へ入ると甲高い声が響く。
「いらっしゃいませ~! 只今全品20%オフで~す!」
声の主はサオリを見ると、音も立てずに隣へ並ぶ。
「いらっしゃいませ~! サオリ様ぁ~! 今日はどういった物をお探しですかぁ~?」
「お久しぶりね、カナーコさん。今日はこの二人の服を探そうと思って」
オーク族を見ても、カナーコは笑顔を一切崩さず話を続ける。
「こちらのお客様は~、子爵様からのお達しが来てますのでぇ、特別価格の~30%オフまでぇ、お値引きさせて頂きますねぇ~!」
「あ、ありがとう。それで、私のお店を手伝ってもらおうと思ってるんだけど……」
「あっ、分かりますぅ~! 給仕系のいい感じのですねぇ~! それなら~これ! 見た目より着た方が絶対可愛いんでぇ! 今、試着室ちょうど空いてるんで、着るだけ、着るだけタダなんでぇ! ぜひ着てみてくださぁ~い! 中、ご案内しまぁ~す!」
服を抱えたカナーコが、四人を強引に試着室へ連れて行く。
サオリとリナは、二人に服の着方を教えながら試着させてみる。
試着が終わる頃、カナーコが試着室のカーテンから顔を覗かせた。
「お客様ぁ~? いかがですかぁ~? ……ひゃぁぁぁ! 可愛いぃぃ~! やばぁ~い! これもう、お客様のために作られた服じゃないですかぁ~!? もう、運命の出会いですねぇ~っ! それじゃあ、こっちのワンピース系のも、今入ってきたばっかりの新作なんですぅ~! 着てみてくださ~い!」
カナーコが次々と新しい服を持ってくる。
「あっ、ヤバい! めっちゃ似合う! お客様ぁ、お顔立ちがはっきりされてるからぁ、その色、“勝ち色”ですねぇ~! え、もう、そのまま着て帰ってほしいくらい可愛いんですけどぉ~! ほんとにぃ~!」
「これ、今買っとかないと絶対後悔するやつですぅ~。私も昨日、色違いで買っちゃったんですけどぉ、めっちゃ使えますよぉ~。あっ、今日30%オフなんで、実質タダみたいなもんなんでぇ!」
「あ~、もう今日のお客様、ホントに可愛かったぁ~。私、今日お客様に出会えて、マジでモチベ爆上がりしましたもん。ありがとうございますぅ~!」
「はぁ~い、ありがとうございましたぁ~! またすぐ新しいの入ってくるんでぇ、「パトロール」しに来てくださいねぇ~! お足元、気を付けてくださぁ~い! バイバ~イ! またお待ちしてまぁ~す!!」
結果――二十着以上買うことになった。
『完全敗北だわ……』
『話してる事は分からなかったけど、とにかく服屋さんの店員が凄い事は分かりました』




