72話 家に向かう
『本当にすいませんでした!』
オーク族のパクが仰向けに寝て、胸が見えそうになるほど上着を脱ぎかけ、お腹を見せた状態で謝罪している。
『ケンと長!ちょっと向こう向いてて!』
『『はい!』』
慌てて二人が後ろを向く。ちなみに二人ともリナの回復魔法ですでに怪我は治っている。
『ねえ長、何でパクさんはあんな格好してるの?』
疑問に思ったリナが長に聞く。
『あんな格好?ああ、我らオーク族の最上級の謝罪だ。無抵抗に寝て腹を見せるのは、謝罪が気に入らなければ腹を食いちぎっていい証だ』
「シャンプーとリンスがよくやってたやつだな」
「怒られるとお腹見せてゴロンってしてたもんね」
『何を話してるんだ?』
『いえ、こちらの話です』
サオリは申し訳なさそうな顔でパクに話す。
『パクさん、やめてください。こちらこそオーク族の風習を知らずに勝手をしてしまってすいません』
リナがサオリとパクの間を取り持って聞いた話だと、オーク族はこの森に住んでいるため、魔物との争いや食糧不足などで平均寿命が低い。そのため子供を多く持つことが美徳とされており、強い遺伝子を残すためか、長などの強い男は複数妻を娶るのが当たり前で、長は妻が五人、子供は二十人いるとのことだった。
ケンは長よりも強いとパクは認識しており、子供が一人しかいないため、第二夫人として子供を産むのも仕事の内と思っていたそうだ。
『私が人族の風習を知らなかったばかりに、争いの種を蒔くところでした。本当に申し訳ありませんでした』
『本当にもういいのよ。お互いに風習のずれはこれからもあると思うの。だからそんなに謝らないで』
『だけどそういう訳には……』
『私はもう怒ってないからいいの。これからは仲良くしましょうね』
『……はい、よろしくお願いします』
『ケンと長も、もうこっち向いていいわよ』
「そもそもサオリがちゃんと俺の話を聞いて……」
「何か言った?」
「いえ、何でもないです」
『それじゃあ改めて自己紹介しましょうか』
改めて自己紹介をすると、パクは二十八歳で身長はケンとほぼ同じ一七五センチほど、緑の肌に茶髪、鍛え抜かれた体のナイスバディの女性で、娘のモグは十歳。パクと同じく緑の肌に茶髪で、身長はリナよりも小さい一三〇センチほどの仲の良い親子だった。
十年前に亡くなった夫は村で魔術師として狩りなどをしていたため、モグにも魔術師としての才能があるとのことだった。
『それじゃあそろそろ行きましょうか』
ジャンプシューズに慣れてきたサオリがモグを背負い、リナがパクを背負う。
疑いが晴れてもケンがパクを背負うのをサオリが反対し、ケンは周辺警護の役割になった。
しかしここで問題が起こる。
パクの身長は一七五センチ、リナの身長は一五五センチ。
――そう、リナはパクを背負えないのだ。
お姫様抱っこする案も出たが、オークの体が大きく手が回らない。
サオリは仕方なくケンにパクを背負うように言う。
「絶対ダメ!」
ケンの両肩に胸が乗り、頭を挟む状態になりサオリが反対。
お姫様抱っこをしてみると――
「胸が近いね……パパ、そこでちょっとジャンプしてみて……顔にモロだね」
「絶対ダメ!何か新婚夫婦みたいでヤダ!」
「ププ、パクさん爆乳問題」
「おいリナ、シャレになってないぞ。どうする?サオリが選んでくれよ」
「ちょっと待ってね……新婚夫婦と胸に挟まれるの……うーん、挟まれる方にしましょう」
「言い方が卑猥だよ。背負う方ね」
『それじゃあパクさん、背負いますね』
『本当にすいません。もういっそのこと切り取りますから』
『パクさん、怖いこと言わないで』
『それじゃあ行きましょう。リナ、索敵魔法は常に維持。倒すなら火魔法は駄目だぞ、森が火事になるから土か氷で』
『了解!』
ようやくコトコト村へ向かう一同。
リナを先頭に、ケン、サオリの順で跳ぶ。
サオリの視線が冷たい。
『あの~サオリさん?視線が痛いんですけど』
『べっつに~そんなことないと思うけど』
『あはは、仕方ないよ。耐えてパパ。モグちゃんは怖くない?』
『うん、全然怖くないよ。空を跳ぶのって楽しいね』
『パクさんは大丈夫?』
『は、はい、ぜ、全然……だ、大丈夫です。はは』
(((絶対怖いんだろうな~)))
『パクさん、怖いならもう少し強く抱きついても大丈夫ですよ』
『は、はい』
「おっふ……はは、サオリこれは不可抗力だ」
『そのわりに鼻の下伸ばして、いやらしい』
『すいません、私のせいで、ひぃぃ~』
『ママも我慢してよ。パクさん本当に辛そうなんだから』
『……そうね。パクさんごめんなさいね。私は大丈夫だから、ギュッとしがみついていいわよ』
『は、はい~』
ケンは幸せな感触を味わいながら、サオリは背中のモグの楽しそうな声を聞きながら、リナは周囲を警戒しつつ会話を続ける。
気が付けば村のすぐそばまで来ていた。
『ここからは歩きましょうか』
二人を降ろし、簡単な挨拶を教えながら村へ向かう。
村が近づくにつれ、二人の表情に緊張が浮かぶ。
「ポールさんこんにちは~」
「おう!リナちゃん、ケンにサオリさんも……子爵様から通達来てるからどう…ぞ……っは、よ、ようこそコトコト村へ」
「やっぱり男ってみんなそうなのね」
「何言ってるんですかサオリさん、サオリさんだって……こんなにお綺麗じゃないですか」
「どこ見てから言ってるんですか!」
「い、いや……あはは……」
『ほらモグちゃん、さっき教えた挨拶してみて』
「ごんにぢは」
「おお、もう覚えたのかい。こんにちは」
『すごいねって言ってるよ』
言葉が通じたことでモグの顔が明るくなる。
「こんにぢは」
「この子のお母さんかな、こんにちは」
パクも初めて三好家以外の人間と話し、緊張していたが少しずつ落ち着いていく。
村に入ると再び緊張したのか、二人は寄り添いながら周囲を見回しつつ歩く。
ケンとサオリは村を説明し、リナは後ろから声をかける。
「大丈夫だよ」
やがて――
「ようこそ我が家へ」
三好家の前に立つ二人は、家を見上げる。
『長の家より大きい……何だ、幕が石でできてるのか?』
『幕じゃなくて壁だな』
『壁……』
こうして――
オーク族のパクとモグの新しい生活が始まるのだった。




