71話 新しい家族
「それじゃあ行こうか」
あれから数日後、オークの村に、コトコト村の住人となるオークを迎えに行く日が来た。
この日のためにサオリも魔道具の靴(命名:ジャンプシューズ)の練習をしている。
まだ慣れていないサオリの移動を、ケンが指示して補助する。
「そう、そのまま真っすぐでいいよ」
「パパはオークの人がコトコト村でやっていけると思う?」
「ああ、もちろんやっていけると思うぞ。ただ、言葉の壁や文化の壁はあると思うけどな」
「どんな人が来るんだろうね」
「たぶん子供だろうな。リナはお姉ちゃんになるぞ」
「えへへ、お姉ちゃんか~。でも何で子供って分かるの?」
「それはね、子供の方が言葉を覚えるのが早いからよ。おっとっと」
「サオリ大丈夫か?無理に会話に入らなくてもいいぞ」
「少しでも普通に移動してるって思わないと怖いのよ」
「そうか。だいぶ上手くなってるぞ」
三人は会話を続けながら進み、途中で何匹か鳥を仕留めつつオークの村へ向かった。
到着すると、盛大な歓迎を受ける――サオリが。
『よく来られた、奥方様。さあ、こちらへ』
『お、奥方様って……』
「サオリは完全に胃袋を掴んだな」
「胃袋って掴めるの?」
「たとえ話だよ。食べ物で心を掴んだってこと。もう少し勉強しなさい」
「ぶー」
『ケン殿とリナ殿も、よくおいで下さいました。コトコト村に住む者の件ですね』
『はい、その件で伺いました。しかし凄い歓迎ですね』
『ええ。我が村では今まで料理という概念がなく、初めて食べる物がどれも美味しくて』
『やっぱりママの料理は誰が食べても美味しいんだね』
『本当にそうです。皆が料理を知りたがっているのです』
『ところで……話を戻すのですが、家に来るのは誰になったのですか?』
『ああ、その件なら長に。……長は――サオリ殿に夢中ですね、最前列に……』
長が他のオーク達に引き剥がされる。
『な、何をする!我はサオリ殿に唐揚げの極意を聞かねば……ん?……ゴホン、どうしたケン』
『長、唐揚げなら俺も教えられますから後で。家に来る方は?』
『いや、我が食べたいわけではなく村のためにだな……とにかく紹介しよう。パク!モグ!ここへ!』
『長……二人ともまだサオリさんのところにいます』
『……ケンよ、暫し待て』
長が二人を引き剥がす。
「さっきも見たな」
「うん、ママの料理がすごく美味しいってことにしておこうよ」
『痛い!』
「ああ、そうだな」
『こらパク!長である我を殴るな!痛い!モグ!腕を噛むな!』
「パパ、食欲って怖いね」
「ああ、村に来たらニノン二号になりそうだな」
「ああ、分かる……完全にキャラ崩壊してるし」
『……すまんなケン。紹介しよう、母親のパクと娘のモグだ。この二人が代表して世話になる』
パクとモグが姿勢を正す。
『失礼しました。私はパク。そして娘の』
『モグです』
『……あ、いえ……初めまして、ケンです』
『私は娘のリナです。よろしくお願いします』
『ケン様とリナ様ですね……何かおかしいですか?』
『いえ、その……パクさんはオーク族の中で平均的な体型なんですか?』
『体型?』
『パパ言いにくいでしょ。パクさん、おっぱいすごく大きいけど、オーク族って皆そうなの?』
『ああ、これは長が家族のようにと言ってくださったので、子供ができた時に乳の出がいい方がいいだろうと私が選ばれました』
『ってことは旦那様も?』
『いえ、夫は早くに亡くなり、モグと二人で暮らしていました』
『それは失礼しました』
『いえ、昔の話ですので』
『ではなぜ子供の話を?』
『はい、ケン様との間に子供ができた時の話です』
『は?』
『えー!パパ、結婚するの!?』
『いやいやいや!しない!する訳無いじゃないか!俺はサオリ一筋だ!』
『?家族ということは第二夫人では?』
焦るケンにモグが追い打ちをかける。
『お母さん、この人がお父さんになるの?』
『そうよ。この人が新しいお父さんよ』
『よろしくお願いします、お父さん!』
『いやちょっと待って――』
「ケン~どういうこと~?」
いつの間にかサオリが隣に立っていた。
笑顔だが、目は笑っていない。
『いや、サオリ聞いてくれよ俺はそんな事ひと.......』
『パクさんでしたね、私ケンの妻のサオリです』
『サオリ奥様ですね。聞いております。前回来てくれた時の唐揚げの味が忘れられなくて、先ほどは失礼な事をすみません』
『いいんですよ、料理に興味を持っていただけると私も嬉しいですし、それで、第二夫人と言うのは?』
『長が言いましたよ。家族として迎え入れてくれるなら第二夫人として家を盛り立てないと、子供も5人位は作るように言われました』
『へ、へぇ~5人ですか.......長、ちょっと話が』
『サオリ、落ち着いて.......』
『私は落ち着いてますよ。家族の話ですから、ちゃんとしないと』
「パパ、私が長に防御魔法掛けとくから自分に掛けておいて」
「いや、そこまでしなくても大丈夫じゃないか?」
「パパ甘いよ、ママの顔見てみなよ」
「.......ゴクリ、そ、そうだな、一応掛けとこうか、一応ね」
ケンとリナが軽く作戦会議を終えたころ長がサオリに話しかけた。
『どうした、サオリ殿、何か不都合があったのか?』
『......長、これはどういう事でしょうか?』
『どういう事とは?』
『第二夫人の事です』
『おお、その事か、パクはきっといい第二夫人になるぞ、子育ても上手いし何よりも乳の出がいいから、サオリ殿が産んでも乳母としてもいいぞ』
『わた......』
『ん?どうしたサオリ殿、そうかサオリ殿も女だからパクの胸の大きさを見れば乳の出がいいのはわかっているか。ハハハ』
『.......私の、胸は、そこまで小さくないわ!』
『ゲフッ!』
サオリのアッパーカットが長の顎を的確に射貫く
「あなたもよくもこんなに堂々と浮気を公言したわね!」
「違うんだサオリ、あれは長がかってに....ウッ!.......リナ.......後で.......説明を.......」
「分かったよパパ、安心して眠りな(グッ!)」
ボディに強烈な一撃を受け、リナが親指を立てるのを確認する事無く気絶するケン。
サオリは群れで一番強い長を一撃で倒し、50メートルもある蛇を倒すケンをも一撃で倒す偉業を成し遂げ、オークの村の伝説になり、以後サオリを見かけると、オーク達の背筋が自然と伸びるようになったのだった。




