70話 もう無理
オークの村から帰ってきて一週間。三好家は平和に過ごしていた。
ケンは商業ギルドに依頼されていた街灯と給湯給水機を作って過ごす。
サオリは屋台を続けながらブイヨン子爵家の料理人にソースの基本を教え、帰宅後は自分の店の料理研究に没頭した。
リナはコトコト・キッチン単独でのダンジョン踏破に成功した。
「クゥ~、やっと納品終わったよ」
夕方。
サオリはキッチンで夕食の準備をしている。
ケンは体を伸ばしながらキッチンに入ってきた。
「お疲れ様。もうちょっとでご飯にするから」
「リナ達は?」
「さっき屋台を閉める時に来たわよ。今からギルドに行くって言ってたから、もう少ししたら来ると思うわ」
「コトコト・キッチンもようやく単独踏破か。まだまだだな」
「ケンみたいに三時間で踏破するよりいいと思うわよ。バルガスさんにも怒られないしね」
「あれは冒険者のためを思ってやったことだよ。より多くのデータがあった方がいいだろ」
「それはそうだけど、程度ものよ」
「まあそうなんだけどさ……ん?チキンライス?ってことは今日はオムライスかい?」
「そうよ。リナがダンジョンに潜る前に言ってたの。帰ってきたらオムライスが食べたいって」
「だからこの前、子爵様のところでケチャップの作り方教えてたんだ」
「そうなのよ。ケチャップならいろんな料理に使えるし、ちょうどいいと思って」
「ただいま~、ママさん今日のご飯は何ですか?」
「ふふ、今日はオムライスよ。チキンライスっていう鶏肉とトマトソースを混ぜたご飯を、卵で包んだものよ」
「すごく美味しそうですね!大盛でお願いします」
「もうすっかりニノンちゃんは家の娘になってるな。俺たちの五倍近く年上なのにな」
ニノンはケンの言葉も聞かず、手を洗って椅子に座り、上機嫌でスプーンを持って体を揺らしながら料理を待っている。
遅れて三人が帰ってきた。
「ただいま~、ニノン早いよ~」
「ダメよリナ、ニノンはもうあっちの世界に行ってるから」
「そうだにゃ、ご飯の世界に浸ってるにゃ」
「はい、できたわよ。みんな手を洗ってきてからね」
「「「はーい!」」」
「そうだ、パパ。明日お師匠様のところに来てってギルマスが言ってたよ」
「子爵様のところ?分かった」
*
翌日――
朝の喧騒が落ち着いた頃、三人でブイヨン子爵の屋敷へ向かう。
リナは久しぶりの子爵邸にテンションが高く、門が見えると元気に声をかけた。
「おはようございます!トールさん、お師匠様いますか?」
「お!リナちゃん久しぶりだね。ブイヨン子爵は中にいるよ。……どうぞ」
門番のトールが扉を開け、中へ促す。
屋敷に入り、サオリはキッチンへ、リナは騎士団へ。
ケンはブイヨン子爵のもとへ向かった。
「おはようございます、子爵様」
「おおケンか。今日はすまんな、わざわざ来てもらって」
「いえいえ、お気になさらず」
「うむ、すまんの。それで話なんじゃが……」
「はい、何でしょう」
「もう無理じゃ」
「は?」
「だから、もう無理なんじゃ」
「いえ、何の話でしょうか?」
「もう国に隠しておけなくなったんじゃ」
「はぁ?……いえ、どういうことでしょうか?」
「ん?お主、バルガスから何も聞いておらんのか?」
「ええ。昨日リナに、子爵様のところに来るように言われただけでして」
「なんじゃそうなのか。まったく、あ奴も面倒くさがりというか……」
「子爵様、話の続きを……」
「ああ、そうじゃった。ギルドの方に目撃情報が寄せられてな」
「目撃情報?」
「そうじゃ。ダンジョンの第六階層のフィールドで、空飛ぶ人影が目撃されてな。それが公都のギルドにも伝わったらしい。それで“あれは誰だ”と話題になってな、もう隠しておけんということじゃ」
「はあ……」
「それでじゃ、お主、貴族にならんか?」
「は?貴族?俺が?いやいや、あり得ませんって」
急に降って湧いた話にケンは狼狽する。
「今度、儂が――いや正確には息子じゃが、ダンジョン発見の功績で伯爵に昇爵することが決定したんじゃよ」
「それはおめでとうございます。……っていうか、話勝手に進んでますよね」
「うむ。それでな、伯爵になると領地に名誉男爵などを置いておきたいと思ってな」
「名誉男爵って一代限りのやつですよね。いやですよ、絶対に」
「いいのかのう。お主がS級冒険者になることは決まっておるのに、王都に行けば他の貴族どもがお主に群がるぞ」
「ちょっと待ってください!S級冒険者になるのが決まってるって……」
「それも聞いておらんのか。バルガスは王都のギルドに報告すると言っておったぞ」
「え~……そんなこと言われて……ますね。ダンジョンクリアした時に」
「じゃろ。バルガスも言っておったぞ、自重できぬならランクを上げるしかないと」
「いやでもあれは、他の冒険者のために」
「他の冒険者のためなら、模範としてS級冒険者になってもよいのじゃな?」
「それを言われると……」
「とにかく、今度第二商業区が完成し、ダンジョンが正式稼働するようになれば、息子が昇爵のため王都へ行く。その時にお主もついて行くのじゃ。その際にマーダーバイパーを公都ギルドへ納めるのじゃぞ。ダンジョンとマーダーバイパー、両方あればS級は間違いない。ふぉふぉふぉ」
「はぁ~……分かりました。行きますよ。俺、魔道具師なんだけどな~」
「今までの功績を見れば、魔道具師という方がおかしいのう。いっそ冒険者一本でいったらどうじゃ?」
「そんなこと言ったらハワードさんに怒られますよ」
「ふぉふぉふぉ」
貴族になる事は一時保留になったが、こうしてケンは、S級冒険者となるため公都へ向かうことが決まった。
そして一か月後――
ダンジョンが正式に稼働していない為、まだ公都には行っていないが、この世界に来て一年が過ぎ、家が完成した。
ケン達はそれぞれの分野で充実した生活を送っている。
「サリーさん!緊急依頼ってどうしたの?」
「ごめんねリナちゃん。アースベアーの目撃情報が出たの。近くだったから村に被害が出る前にって……コトコト・キッチンのみんなは里帰りしてるから、リナちゃんしか頼れなくて」
「アースベアーって前にパパが倒したやつでしょ?パパでも倒せたんだから大丈夫だよ!絶対にパパより大きいの倒して驚かせてやるんだから!」
「リナちゃん、目撃情報は一匹だけだから大きさは選べないわよ」
「はえ?なんで?」
「リナちゃん……」
「せっかく美容室開店したのにお客さんが来ないのは……そうだ!メンズ用にバリカンも作っておくか。邪龍の牙が余ってるから加工して刃にして、回転機構を組み込めばいけるはず!早速準備しないと」
「うん、完成ねウスターソース!これがあれば揚げ物にも合うし……そうだ、焼きそばもメニューに入れようかしら?今度作ってみましょう。リナも喜ぶし……今日も忙しくなりそうね」
三好家は、今日も平和です。
やっと1話に繋がりました。
これからも三好家の物語が緩く続きます。
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