68話 毒蛇退治
オーク集落手前に降り立ったケンとバルガスは、軽く打ち合わせをする。
「俺が先に集落に入るんで、バルガスさんは呼んだら来てくださいね」
「ああ分かった。大丈夫と聞いていても緊張するな」
「大丈夫ですって。じゃあ、ちょっと行ってきますね」
「おい、ちょっと……」
まるで近所の散歩に行くように出かけるケンに、バルガスは声を掛けようとして――諦めた。
これがケンの凄いと思う所であり、残念な所でもあるからだ。
もうバルガスは、無事を祈るしかなかった。
ケンは近くにいたオークに声をかける。
「すいませ~ん、長はいますか?」
「に、人間……ちょっと待て」
オークが慌てて集落の奥に消える。
程なくして、長ともう数人のオークが現れた。
『人間、何しに来た』
『ケン、すまない。話はしたのだが、信じない者が反対した』
『人間など信用できない』
『それでは、どうすれば信用できますか?』
『お前は熊を倒した強い男だと聞いた。南にいる蛇を倒せば認める』
『待て。南の蛇は恐ろしく強い。おそらくケンでも無理だ』
『大丈夫ですよ』
『何?』
『南のどの辺りにいますか?』
『南にある崖の穴が巣になっている。その辺りにいる』
『ケン、お前が命を掛けなくてもいい。こいつは熊を倒したのを見ていないだけだ。話せば分かる』
『今日は他の人も連れてきたので、話をするよりも強さを見せた方が早いですよ。いいことも思いつきましたし』
『いいこと?』
『ええ』
ケンはバルガスを呼んで理由を話す。
オーク達は初めはざわつき身構えたが、ケンと長の説得で事なきを得た。
「ほら見ろ、全然大丈夫じゃないだろ」
「いやいや、強さを見せれば納得するなら、そっちの方が何も言わずに襲ってくるより分かりやすくていいですよ」
「まあ確かに揉めるよりは分かりやすいが、この辺りにいる強い蛇だと、おそらくマーダーバイパーって毒蛇だぞ。全長三十メートルを超える超大物だ。そんなの倒せるのか?」
「大きくても蛇は蛇ですから、何とかなりますよ。ついでにちょっと豪華にいきましょうか」
「豪華ってまた簡単に……」
「大丈夫ですって、たぶん」
「お前の“大丈夫にたぶん”が付くと、絶対駄目って読むんだよ」
「またまた~」
「まあいい。それで何を豪華にするんだ?」
「蛇肉っておいしいですよね」
「……は?」
*
ケンは一人、南の蛇の巣へと跳び立つ。
バルガスはコトコト村に戻って準備をするよう言われた。
三キロほど進むと、三十メートルほどの高さの崖があり、そこに洞窟の入り口のような穴があった。
ケンは索敵魔法で蛇の位置を探る。
「巣の中か」
ケンは巣の前に立ち、ライフルをアイスアローにして巣の中へ数発撃ち込み、崖上に待機する。
「お、出てきたな。流石、振動に敏感だ。……バルガスさんの言った通り、マーダーバイパーだな」
巣穴から出てきたマーダーバイパーに、ハンドガンでサンダーアローを数発当てる。
だがマーダーバイパーは意に介さず、こちらに敵意を向ける。
「流石にハンドガンじゃ無理か。それじゃあ詠唱して攻撃を――っと、マズい!」
マーダーバイパーが毒液を吐いた。
ケンは咄嗟に高く飛ぶ。
「危なかった~。えっと〈天に在す父よ、闇を切り裂く轟きと、至高の威光に感謝を捧げん……〉あっ、ウインドショット!」
マーダーバイパーが毒液を連続で吐く。
ケンは落下しながら風魔法で無理やり方向転換し、毒液を避け続ける。
「連発できるのかよ! しょうがない」
ケンは地面に降り、マーダーバイパーの周囲を走りながらアイスウォールを展開。
氷の壁で囲い、円柱状の筒を作る。
しかしマーダーバイパーは巨体ゆえ、容易く壁を越えてくる。
ケンは外と内を行き来しながら時間を稼ぐ。
しばらくすると、マーダーバイパーの動きが鈍くなった。
「やっぱりこっちの蛇も変温動物なんだな」
動きが遅くなった隙を突き、顎の根元をライフルのアイスアローで撃つ。
マーダーバイパーは悶え、尻尾で壁を破壊していく。
ケンは距離を取りながら詠唱を完了させる。
「〈天に在す父よ、闇を切り裂く轟きと、至高の威光に感謝を捧げん。御心の峻烈なるがごとく、瞬く裁きを地に下したまえ〉サンダーボルト!」
直径二十メートルほどの雷球が直撃する。
マーダーバイパーは痙攣しながら毒液を撒き散らす。
ケンは一歩下がり、ライフルを構える。
狙いは口を開けた瞬間に見える上顎奥――脳。
引き金を引く。
弾が命中し、マーダーバイパーは完全に沈黙した。
「いや~油断した。やっぱり範囲魔法も必要だな」
ケンは神から貰った魔法教本を取り出し、読み返す。
「えーっと、火魔法がインフェルノ、水魔法がタイダルウェイブ、氷魔法がアイスフィールド、風魔法がトルネード、雷がサンダーフォール……うん、名前からしてヤバいな。絶対バルガスさんに怒られるやつだ」
少し考え、
「今度もう少し弱い範囲魔法があるか聞いてみよう……っていうか、この本それしか載ってないのどうなんだ?」
すぐに姿勢を正す。
「いや、これは神様に文句は言ってる訳じゃ無いんです。神様いつもありがとうございます」
軽く祈ってから、マーダーバイパーを回収する。
「神様といえば、このマジックバッグも凄いよな……」
巨大な胴体が、吸い込まれるように縮み収納される。
取り出せば元通り。重量も感じない。
ケンは深く考えない。
構造が気になっても“そういうもの”として処理するタイプだ。
回収を終え、オークの集落へ戻る。
*
バルガスがオークの集落へ戻ってきた。
サオリ、リナ、ガンツを連れている。
リナが魔道具の靴を使い、サオリを背負い、バルガスがガンツを背負ってきたのだ。
「ああ、来た来た。皆、こっちだ」
「パパ~、急にどうしたの? 私、買い物の途中だったのに」
「ごめんごめん。リナ、サオリ、ガンツさん。バルガスさんはさっき会いましたね。紹介します、こちらオーク集落の長、ドンさんです」
『長、こちらは俺の家族のサオリとリナ。それから集落の住人のガンツさん、そしてバルガスさんです』
『ここの長だ、人間。ケンは友だ。お前たちを歓迎しよう』
『ケンの妻のサオリです』
『すご~い、本当に言ってること分かるね! 私はパパの娘のリナです』
『リナ、こういう時は“ケンの娘のリナ”な。パパの娘だと分からないぞ』
『そっか~、ケンの娘のリナです』
『素直ないい娘だ』
『でしょ~、パパの自慢の娘です』
『はぁ……自分で言うなよ。またパパの娘って言ってるし』
『蛇を仕留めるケンでも娘には勝てないな。どこの家も一緒だな』
『やっぱりそうですよね』
『こちらは副長のルギだ。さっきまで俺を疑っていた男の』
『ハハハ! 我らは強ければ認める。ケンはこの集落の誰より強い』
『パパ、何があったの?』
「おいケン、さっきから何て言ってるんだ?」
ケンはこれまでの経緯を説明する。
マーダーバイパー討伐、信頼獲得、そして歓迎会の話。
バルガスとガンツは納得した様子で頷く。
「それで今から歓迎会をやるから、俺がマーダーバイパーを解体して」
「私が調理するわけね」
「あと、通訳が大変だから手伝ってほしいって思惑もあったりするけど」
「それがオーク族の将来のためになるんでしょ。最初から呼んでくれればいいのに」
「いや、討伐条件があったからさ。せっかくだしと思って」
こうして――
この世界で初となる、オーク族の集落での歓迎会が幕を開けるのだった。




