66話 調査報告書
調査報告書
コトコトダンジョン(仮)の調査報告書をここに記す。
なお今回の調査は、A級冒険者ケン、C級冒険者サオリ、B級冒険者パーティーコトコト・キッチンの計6人による共同調査とする。
内部調査報告
第一階層 迷宮型ダンジョン
出現モンスター
キラーアント、ジャイアントスパイダー、ジャイアントワーム、ジャイアントモスキート
その他
キラーアントは10体以上の群れでの出現することがある為注意が必要
ジャイアントワームの吐瀉物に金属部品を溶かす効果あり
トラップ 落とし穴、矢の罠(場所は別紙①参照)
宝箱 パン、水袋、銅貨、銀貨、ポーション (場所は別紙①参照)
第二階層 迷宮型ダンジョン
出現モンスター
キラーアント、ジャイアントスパイダー、キラービー、ポイズンバタフライ、ジャイアントスコーピオン
その他 水袋、
キラービーの針、ポイズンバタフライの牙、ジャイアントスコーピオンの尻尾に毒あり
トラップ 落とし穴、矢の罠、火の罠(場所は別紙②参照)
宝箱 水袋、銅貨、銀貨、ポーション (場所は別紙②参照)
第三階層 迷宮型ダンジョン
出現モンスター
キラービー、ポイズンバタフライ、ジャイアントスコーピオン、ビックコックローチ、ジャイアントタランチュラ
その他
ビックコックローチは30体以上の群れでの出現することがある為注意が必要
ジャイアントタランチュラの牙に毒あり
トラップ 落とし穴、矢の罠、火の罠、宝箱に毒霧(場所は別紙③参照)
宝箱 銀貨、ポーション、マジックポーション、鉄の剣 (場所は別紙③参照)
第四階層 迷宮型ダンジョン
出現モンスター
ジャイアントスコーピオン、ビックコックローチ、ジャイアントタランチュラ、ジャイアントセンチピード、ツインテイル・スコーピオン
その他
ジャイアントセンチピード、ツインテイル・スコーピオンの吐瀉物に金属部品を溶かす効果あり
ツインテイル・スコーピオンの尻尾に毒あり
トラップ 落とし穴、矢の罠、火の罠、宝箱に毒霧(場所は別紙④参照)
宝箱 銀貨、金貨、鉄の短剣 鉄のメイス(場所は別紙④参照)
第五階層 迷宮型ダンジョン
出現モンスター
アーミーアント 、ジャイアントタランチュラ、ジャイアントセンチピード、ツインテイル・スコーピオン
中ボス ビックポイズンマンティス
その他
アーミーアントは30体以上の群れでの出現することがある為注意が必要
中ボスのビックポイズンマンティスは鎌に毒あり、短距離飛行あり、宝箱は宝石類
中ボスの扉の横にセーフエリアあり
トラップ 落とし穴、矢の罠、火の罠、宝箱に毒霧、爆発(場所は別紙⑤参照)
宝箱 金貨、宝石、鉄の両手剣 鉄の大槌、鋼鉄の剣
第六階 フィールド型ダンジョン(森林)
出現モンスター
第一階層から第五階層のモンスター全て、ツインヘッドスネーク、キラークロコダイル
その他
上記で群れを成していたモンスターは100体以上の群れでの出現することがある為注意が必要
ツインヘッドスネークは毒あり、毒袋を覗けば食用可
キラークロコダイルも食用可
フィールドの所々に果物、湖、レッドラズリ、ブルーラズリの原石あり(場所は別紙⑥参照)
北上およそ50km程で下り階段、横に洞窟型セーフハウス
第七階層 ボスフロア(ボス部屋のみ)
出現モンスター
邪龍
注意点
炎を吐く(ブレスではない)
翼が無いので空は飛ばない
咆哮は声の大きさに注意が必要、近距離で受けると耳が聞こえなくなる可能性あり
魔法攻撃をほぼ無効化する(炎、風、雷無効、氷無効ただし足止めは可能、土魔法は鋭利な石を飛ばせば物理攻撃として有効)
クリア報酬宝箱
ミスリルの剣、ミスリルの短剣、ミスリルの片手斧の中からランダムで一つ
金貨、ミスリルの原石、宝石類の中からランダムで一つ
リスポーン時間は3時間
*
ケンがまとめた資料を、ギルドマスター室でバルガスへ手渡すと、バルガスは受け取った瞬間に眉間へ皺を寄せた。書式がきっちりしている。階層ごとに出現モンスター、注意点、トラップ、宝箱の傾向。別紙の位置図まである。
前世でRPGゲームをやり込んだケンならではのまとめ方だった。
「ほう……これだけ細かい資料を作ったのはありがたいな」
バルガスは紙をめくりながら言った。
「これはギルドの方で保管するぞ」
「ええ、構いません。これで冒険者の事故が少しでも減るなら、作った甲斐があります」
初のダンジョン踏破者として報告書を提出するよう命じられたケンは、情報を整理し、六人でギルドへ来ていた。
その場にいるのは、ケン、サオリ、リナ、そしてニノン、クルトン、ルー。バルガスは真剣な表情で読み進め、やがて顔を上げる。
「二、三、質問していいか?」
「はい」
バルガスがまず指で叩いたのは、最終階層――ボスフロアの項目だった。
「ダンジョンボスの邪龍だが……どうやって倒した?」
前へ出たのはルーだった。少し緊張しつつ、しかし言葉は落ち着いている。
「パパさんに言われて、コトコト・キッチンだけで挑みました。
本でしか邪龍を知らなかったので、色々試しながら仕留めました」
最初は遠距離から。ルーの火魔法、ニノンの矢――だが資料にもある通り、邪龍は魔法をほぼ無効化し、遠距離攻撃は決定打にならない。
「なのでリナの近接攻撃で仕留めることを決めました。
私が土魔法で壁を作り、壁の影からクルトンとニノンで牽制。
私の土魔法とリナの近接を主軸にして、最後はリナが止めを刺しました」
バルガスは短く頷く。
「連携はパーティーの基本だからな。いい連携だったな」
「ありがとうございます」
次にバルガスが指を置いたのは、クリア報酬宝箱の欄。
“ミスリル武器(剣/短剣/片手斧からランダム)+金貨・ミスリル原石・宝石”とある。
「……もう一つ。この武器が何でランダムだと分かった? 鑑定で出てきたのか?」
「それはですね……」
ケンが口を開きかけたところで、ふと気配が妙になった。サオリとコトコト・キッチンの三人が、一斉に目を逸らしたのだ。リナも、何かを察した顔で天井を見る。
「……ん? 皆どうした?」
ケンが首を傾げるが、バルガスは気にせず続きを促した。
「いいから答えろ」
「えー、クリア報酬宝箱ですね。それは……周回したからです」
「周回?」
「はい。MMORPGの無課金ソロプレイヤーの基本ですから。ひたすら周回してレアアイテム狙うのは」
バルガスの目が細くなる。
「ほう……言ってることはよく分からんが、何周した?」
「えっと、ソロでは三周ですね。一昨日みんなでクリアしてから夜に一回。昨日二回です」
沈黙が落ちた。
「ミスリルの原石がもう少しあるとよかったんですが……他の冒険者が怪我をする前に報告書にまとめた方がいいと思って――」
ケンが言い終える前に、視界の端で人影が動いた。
サオリたちが、しれっとギルドマスター室からいなくなっていた。
「……あれ?」
ケンが振り向いた瞬間、バルガスの低い声が響いた。
「前に言ったことを、もう一度言うぞ」
ぎり、と空気が締まる。
「お前は、英雄にでもなりたいのか?」
「いや~、大人しく暮らしたいって言ってるじゃないですか。ほら、他の冒険者の為ですよ」
「大人しく暮らしたいなら、二日で四回もダンジョンをクリアするな!」
「だから他の冒険者――」
「うるさい! 他の冒険者の為って言うなら、王に報告するぞ。いいんだな!」
「いや、それはちょっと……!」
「だったら少しは自重しろ!」
「いや、これでもスピード重視で一周三時間――」
「もういい! 王とギルド本部に報告するからな!」
「え~! そんな~!」
「うるさい! 文句言うな!」
ケンの言い訳が、完全に火に油だった。
*
一方その頃、ギルドの下の階では――。
「ほら、ケンは絶対にバルガスさんを怒らせるって言ったでしょ」
サオリが、呆れたように笑いながら言っていた。隣でリナが頷く。
「パパって、ほんとこういうの駄目だよね」
ルーは苦笑して肩を落とす。
「私たちが知らない所で……三回もダンジョンクリアしてたんですね」
「ルーの言う通りにゃ。しかも一周三時間って感覚がおかしくなるにゃ」
クルトンが腕を組み、しみじみ言った。
サオリが手を叩く。
「さあ、ケンが絞られてる間にご飯でも食べて待ちましょうか? みんなも食べるでしょ?」
「はい! お世話になります! 大盛で!」
ニノンの即答に、サオリは吹き出した。
「ニノンちゃんも、ぶれないわね」
上では雷が落ち、下ではご飯が決まる。
こうして今日も――平和なコトコト村でした。




