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美容師パパは魔道具担当、料理人ママは飯担当、娘は赤点担当の勇者です  ~異世界の隅っこで、家族スローライフ始めました~   作者: antomopapa


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第62話 開拓の鬼と、夜だけ光る街灯



 翌朝。ケンは夜明けから商業ギルドの担当者と合流し、第二商業区の開拓作業に入った。

 いつもなら自分の魔力だけでフライパンを運用しているが、今日は違う。開拓予定地の広さを考え、フライパンには魔石も組み込んで“燃費”を確保してきた。

「形的には第一商業区と同じで、中心に広場がある感じですよね」

 ケンの確認に、担当職員が頷く。

「ええ。中心に広場を作って、その周囲に店舗を配置する感じです。少し北に伸ばす形で考えてます」

「分かりました。取り敢えず、広場の予定地に行きましょうか」

「広場の予定地ですか? それだと森の中に入りますよ。ここから中心に向かって開拓した方が良くないですか?」

 職員は常識的な手順を言う。だが、ケンはさらっと返した。

「俺がやると風魔法の有効範囲が広いので、中心からやった方が早いと思いますよ」

「……?」

 職員は意味が分からない顔のまま案内するしかなかった。

     *

 中心予定地に到着すると、ケンは軽く手を上げた。

「じゃあ、ちょっと下がってください」

 職員が距離を取った途端、ケンは無詠唱で周辺の木々をざっくり切り払う。倒れる木、響く音。何人かが振り向いたが、ケンは構わず作業を続けた。

 切り株はフライパンで均して粉にし、次は土魔法で――直径五十メートルほどの円形の地面を平らな石へと変えていく。

「こんな感じかな」

 広場の“完成予想図”を、いきなり現場に出現させた形だった。

「ケンさん……これは……」

 職員の声が震える。

「いや、この方が出来上がりをイメージしやすいでしょ。切った木はここに並べておきますね」

「……あ、はい」

 混乱しながらも頷く職員に、ケンはさらっと続けた。

「じゃあ、大きく切りますね。この辺りは立ち入り禁止にしてありますよね?」

「ええ……はあ」

 ケンは息を吸い、久々に“詠唱”を乗せた。

「天に在す父よ、世界を巡る自由なる息吹に感謝を捧げん。御心が空を翔けるごとく、透明なる刃を地に成したまえ――『ウインドカッター』!」

 次の瞬間、九十度の放射線状に――百メートル先までの木々が綺麗になぎ倒された。

 職員は口をあんぐり開けたまま、声も出ない。

「よし。狙い通りだな」

 ケンは満足そうに頷き、フライパンを差し出した。

「職員さん、これ渡すので。金槌の要領で軽く三回ずつ、切り株を叩いていってください」

「はっ、はい! 三回ずつですね!」

「お願いします。俺はこのまま他の場所を切っていきますね」

 ケンはそのまま“円”を広げるように切り進めた。四回で半径百メートルほどの範囲を作り、さらに外周へ。頭の中で区画の展開図を組み立てながら、次々に魔法を重ねていく。

「よし、十二回。予定通りだな」

 途中でフライパンの魔石が砕ける場面もあったが、ケンは淡々と新しい魔石に交換して作業を継続した。

 わずか三十分ほどで、大まかな伐採は終わっていた。

 その後は職員と作業を交代し、職員はちょうど到着した職人たちに説明して倒木の移動を手伝う。二時間もすると、現場は“終わりが見える”状態にまで片付いていた。

「これで根も大体処理できましたね」

「ええ……まさか、こんなに早く終わるとは思いませんでした」

「残りの範囲は明日にしましょうか?」

「そうですね。木の運搬が間に合わないですから」

 ケンはふと思い出したように言った。

「そうだ。木を何本か貰ってもいいですか?」

「ええ、もちろんです。これだけの働き、普通なら一か月はかかりますから」

 職員は本音を漏らした。

「本当は、その魔道具も作っていただきたいのですが……」

 ケンは苦笑する。

「バルガスさんがダメって言ってましたね」

 フライパンの“軍事利用”を警戒し、ギルド内の秘匿情報にすると厳命されていたのだ。

「確かに、バルガス氏の言う通りです。これが他国に流れたら非常にまずいことになります」

 職員は深く頷き、頭を下げた。

「ケンさんは、もう上がってください。あとは我々がやっておきます」

「お言葉に甘えます。お疲れ様です」

 帰ろうとしたケンは、ふと気になったことを口にした。

「そうだ。今ある街灯の……あれってどこで作ってますか?」

「側だけですか? 側なら外観を揃えるように言われてるので、ギルドに在庫があります。中身は魔道具師の工房に行かないと……そもそも作るのも気まぐれで、中身があるかどうか……」

「これでも俺、本業が魔道具師なんで。じゃあ側を買って、ギルドに卸す感じですね」

「作っていただけるなら有難いです」

「ちょっと気になることを思いついたので、試してみるだけですけど。うまくいったら卸します」

 ケンは商業ギルドで街灯の“側”を一つ購入し、そのまま家へ帰った。

     *

「ただいま~」

「おかえりなさい。早かったわね」

 サオリが戸口で迎える。

「ああ、思ったよりうまくいってね。あとはやっておくから先に帰っていいって」

 ケンは靴を脱ぎながら聞く。

「サオリは今から屋台かい?」

「ええ、今から行くとこよ。今日はコロッケにしてみたの。ご飯も作ったから食べてね。行ってきます」

「ああ、ありがと。いってらっしゃーい」

 ケンは早めに食事を済ませると、すぐ作業に取りかかった。

 この世界では、夜に魔素が高まるらしい。ならば、夜の濃い魔素に反応して光る街灯が作れないか――それを利用して「ミークラ」の光反応装置を魔素で反応するように作れば夜だけ光る全自動街灯が出来るんじぁないかと考えた 。

 材料は、今日もらった木。街灯の柱に合う大きさにカットし、中心に小さな穴を開ける。木の上部にはレッドラズリを全面に塗り、中心の穴にも通す。さらに上部へ小さな魔石を五つ並べた。魔素を感知しやすくするためだ。

 魔石の上に『感魔』の魔法陣を組み、固定の魔法陣を重ねる。

 最後に必要なのは“光”――だが、ここでケンの手が止まった。

「明るさ……か」

 漢字は二文字まで。光だけでも、種類が多い。

『光』

『偏光』

『強光』

『路光』

『浄光』

『光彩』

 試しては鑑定し、試しては首をひねる。

「光だけだと暗いな……偏光と強光は強すぎる。路光はちょうどいい。日本の街灯に近い」

 だが、次に手に取った『浄光』で、鑑定結果が明るさ以外の意味を示した。

〈浄光ライト 明るく照らし、アンデット系モンスター・魔物の侵入を防ぐ〉

「……よし、これだ」

 明かりだけじゃない。防衛効果までつく。あとは“夜だけ光るか”だけだ。

 街灯がひと通り完成した頃、ケンはサオリの屋台を手伝いに出た。サオリの屋台は今日も大盛況で、見事に完売。片付けをしているとリナも合流し、三人は揃って帰宅した。

 家の扉を開けた瞬間――街灯が、柔らかく輝いていた。

「よし、成功だ。ちょっとギルドに置いてくる」

「それじゃあ、ご飯の準備しておくわね」

「私はお風呂入ろっと」

 三好家はそれぞれの役割へ散っていく。

 夜の魔素に反応して灯る光が、家の中から見える場所で静かに揺れていた。

 こうして、コトコト村の夜は少しだけ明るくなりながら、更けていくのだった。


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