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美容師パパは魔道具担当、料理人ママは飯担当、娘は赤点担当の勇者です  ~異世界の隅っこで、家族スローライフ始めました~   作者: antomopapa


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第61話 フライパン工法、爆誕



 ブイヨン子爵邸での話し合いが終わると、三好家はその足で新居予定地へ向かった。案内役はバルガス。第二商業区の南西隅――三好家が望んだ土地だ。

 森を抜け、地図の目印に近づくにつれ、景色は徐々に“工事前”の空気を帯びていく。現場に着くと、すでに複数の人が動き回っていた。縄を張り、杭を打ち、測量のような作業をしている。


「一応、地図だとここが予定地だな」


 バルガスが指差す先は――まだ森だった。


「まだ森ですねぇ。どれくらいの大きさで広げる予定なんですか?」


 サオリが周囲を見回しながら聞く。バルガスはざっと目測して答えた。


「ざっと測ると五百メートルってところか? 魔物の侵入防止の壁やらで、七百メートルくらいまで広げる予定だろ」

「この辺りの木を切るのも大変ですね」

「木を切るだけならまだいいんだが……根を抜くのが大変なんだよ」


 そこでケンが頷く。


「そうですね。こっちの世界には重機が無いですからね」

「……何だ、そのジュウキってのは」


 バルガスが眉をひそめると、ケンは少し考えてから“こちらの世界”向けに言い換える。


「術者の命令で動く、土木工事専門の金属でできたゴーレム……みたいな感じですかね」

「そんなのがあったら引く手あまただな」


 バルガスは真顔で言って、すぐに続けた。


「どうだ。そんなの、作ってみないか?」

「流石に無理ですよ。重機は知ってても仕組みを知らないから作れません」


 バルガスは腕を組み、ため息をつく。


「流石にケンでも無理か。それが終われば、すぐにでも工事に進めるんだがな……」


 現場の一番の問題は、伐採ではない。根。切り株。土地を“使える状態”にするための地味で辛い作業が、時間を浪費する。

 その時――ケンが黙り込んだ。

 発明家が何かを閃く前の、考え込む顔をしている。

 サオリが嫌な予感に目を細める。

 そしてケンが口を開いた。


「バルガスさん。ちょっと試したいことがあるんですが」

「な、何だよ。また変なこと考えついたんだろ」

「変な事ってなんですか。もしかしたら工期を縮められるかも、と思っただけですよ」


 ケンは言いながら、どこか申し訳なさそうに頬を掻いた。


「この前、自分用の近距離武器を作ったんですけど……運用しづらくて。逆にこういう時に使えるんじゃないかと思って」


 バルガスの表情が険しくなる。


「ちょっと待て。お前が作った“武器”なんだな?」

「ええ、そうですよ」

「不安しかないんだが……」


 リナがニヤニヤしながら頷く。


「だってパパだもんね~、ママ」


 サオリは苦笑しつつも、否定はしない。


「ケンは昔っから、やりすぎることがあるから……」


 ケンが両手を上げた。


「皆で攻めるなよ。今回はやりすぎた自覚があるんだぞ。その上で……だからこそ使えると思ったんだ。“怪我の功名”ってやつだ」

「どういう事だ?」


 バルガスが問うと、ケンはマジックバックから――フライパンを取り出した。

 よりによって、フライパン。


「このフライパンなんですが、これに『衝撃』の強化版……『排撃』の魔法陣を組んであります。いわゆる内部破壊ってやつですね」

「……また変なもの作ったのね」

「作った時に木に試し打ちしたんですけど、粉……おが屑になっちゃって。想定よりかなり威力が高くて、封印しようと思ってたんですよ」


 ケンはフライパンを見下ろし、ぼそっと言った。


「でもこれって……工事に使えるかなって」

「何でフライパンなんだ?」


 バルガスが呆れた声を出すと、ケンは平然と言い切った。


「そこはロマンでしょ」


 リナが即座に追撃する。


「パパ、ほんとにあのゲーム好きだよね」

「大好きだぞ! 好きすぎて金のフライパンに課金したくらいだからな!」


 バルガスが咳払いをして、話を現実に戻した。


「とにかく。一度、そこの木で試してくれ」


 人のいない場所に立つ木を指差す。

 ケンは頷き、周囲を確認してから動いた。まずは風魔法で木を数本、すぱっと切り倒す。倒木の音に、測量していた人の何人かが振り向いたが、ケンは気にせず切り株の前に立つ。


「切り株に使ったことは無いですけど……多分うまくいくはずです。いきますよ」


 ケンはフライパンを金槌みたいに持ち、切り株を――軽く、コンコンコンと三回叩いた。

 その瞬間。

 ゴゴゴ……と不気味な音が響き、切り株が内側から崩れるように粉状になっていく。硬い木だったはずなのに、まるで乾いた土の山みたいに、さらさらと崩れ落ちた。


「……うまく行きましたね」


 ケンは満足げに言った。

 バルガスは青い顔で呟く。


「お前……これを武器にしようって発想になるのが怖いよ」

「ははは。俺たちの生まれた国の有名な物語であった話を参考にしたんですよ」


 サオリがため息混じりに言う。


「ケンは昔っから変なこだわりがあったから」


 リナが腕を組んで真顔で言った。


「パパ、ゲーオタのアニオタはかなりヤバいよ」

「ははは、皆厳しいな……はは。俺、泣いていいか?」


 ケンが笑いながら言った、その時――奥から一人の男が走ってきた。


「ケンさんですよね! 私、商業ギルドの者ですけど……大変すばらしい技術です! ぜひ、これを新しい区画に使っていただけませんか!?」


 ケンの目がきらりと光る。


「ありがとうございます! この技術を分かってくれるのは商業ギルドだけです!」


 そして、胸を張って言った。


「いいですよ。ぜひ使いましょう!」


 バルガスが頭を抱えるのを横目に、サオリは呆れたように笑い、リナは「やっぱりパパだ」と誇らしげに頷いた。

 こうしてケンは、家を建てる前の“開拓と区画整理”から、がっつり手伝うことになったのだった。


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