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美容師パパは魔道具担当、料理人ママは飯担当、娘は赤点担当の勇者です  ~異世界の隅っこで、家族スローライフ始めました~   作者: antomopapa


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53話 魔道具と友の証



朝の宿は、街の喧騒が嘘みたいに静かだった。薄いカーテンの向こうから差し込む光で、ケンは目を覚ます。今日は帰るだけ――のはずだったが、昨夜、布団に入ってから頭の中で引っかかり続けたことがある。

 昨日のオークたちのことだ。

 コンソメの街で聞いた話では、ケンが森を突っ切ったあの一帯は「オークの森」と呼ばれているらしい。いくつものオークの集落があり、人間と敵対している――そんな扱いだった。

 だが、ケンはすぐに違和感を覚えた。

(強いから“オークの森”なんじゃない。……数が多いから、そう呼ばれてるんだ)

 実際、森にはオークより強い魔物がいくらでもいる。アースベア、マンイーター、マーダーバイパー……。危険度だけで言うなら、オークを理由に森の名がつくのは変だ。

 さらに、ギルドはオークを「魔物」と認定している。その理由は単純で――意思の疎通ができないから、だという。

(……もし俺が、過去にオークを“魔物として”倒していたら、俺の考え方も違ってたかもしれない)

 けれどケンは、戦うより前に会話が成立してしまった。スキルのおかげで言葉が通じ、しかも「友人だ」と言われてしまった。

 日本で生まれ育ったケンの感覚では、話が通じた相手を「敵だから」と切り捨てる発想は出てこない。まして、守ろうとしていた集落を見てしまった後ではなおさらだ。

(……だったら、やれることをやろう)

 そう思って、ケンは朝の宿の部屋で立ち上がった。

 オークの集落に、防衛用の武器――いや、“魔道具”を作って渡す。森の奥なら人目は少ない。人間がほとんど入らない場所なら、余計な誤解も生まれにくい。

 アースベアと戦っていたオークは棍棒を使っていた。だから、棍棒とメイスの中間のような武器にしようと決めた。

 素材は、昨日倒したマンイーターの枝。硬く、粘りがあり、武器の芯に向いている。

 ケンはマジックバックから枝を取り出し、水魔法で手元に小さな刃を出した。刃先を動かし、木を削る。迷いのない手つきで、持ち手を整え、先端は少し玉のように膨らませる。

「……よし」

 玉部分に穴を開け、そこへ魔石を一つセットした。さらにマジックバックから魔道具セット――レッドラズリ、ブルーラズリ、膠、筆、羊皮紙を取り出す。

 レッドラズリで、魔石から持ち手へ魔力の道を引く。線が通ると、木の中に赤い道が走ったように見えた。

 次に羊皮紙へ、持ち手部分の魔法陣を書く。

『耐久』

 そして固定の魔法陣を重ねる。貼り付け、膠でなじませると、羊皮紙がふっと消え、文字と陣が武器に“染み込む”ように反映された。

 先端の玉部分にも、羊皮紙を当てる。

『衝撃』

 こちらも固定を重ね、反映させる。

 木製とは思えないほど、魔道具としての“芯”が通った感覚がある。ケンは握り、軽く振ってバランスを確かめた。

「よし。……マンイーターメイスってところかな」

 作っているうちに、ケンはもう一つ欲が出た。

「ついでだし、自分用も作るか」

 マジックバックから取り出したのは、鉄の鋳物のフライパンだった。家庭用の、ずしりとした重みのあるやつ。

「重いけど……耐久性を考えれば、やっぱり鉄だよな」

 同じように魔力の道を引き、持ち手に『耐久』。固定を重ね、反映させる。

 そして、フライパンの底に書く文字は――『衝撃』ではなく。

『排撃』

 ケンは、悪い笑顔をした。

「ふふ。漫画だと排撃は衝撃の十倍強いらしいからな。どんな効果が出るかな」

 固定の魔法陣を重ね、羊皮紙が消える。鉄の底に、確かな“力”が宿る気配がした。

 こうして一時間ほどで、二つの魔道具が完成した。

     *

 ケンはギルドへ立ち寄り、コカトリスの解体品を受け取る。肉はもちろん持ち帰り。素材の買取も済ませ、金貨五十枚が手元に入った。米も五十キロ、マジックバックの中で安全に眠っている。

「……よし。帰ろう」

 街を出て、人目のない場所まで移動したケンは、ふと思い立って自作フライパンの試し打ちをすることにした。

 フライパンに軽く魔力を込め、目の前の木を叩く。

 ――ボン。

 鈍い音の直後、叩かれた部分が砂のように崩れ、木が傾いて倒れた。よく見ると、木は細かいおが屑になっている。

「……威力、強すぎるな」

 ケンは額を押さえた。

「家に帰ったら『衝撃』に戻そう……これは危ない」

 そう結論づけると、靴に魔力を籠め、跳んだ。

 北へ。

 森の上を越えて、まっすぐに。

     *

 北上して二時間ほどで、昨日の集落が見えてきた。ケンは高度を落とし、静かに着地する。

『こんにちはー! 長はいる?』

 声をかけると、ほどなくしてオークたちが集まってきた。昨日の“長”も姿を現す。警戒は残っているが、敵意の匂いは薄い。

『どうした、ケン。急いでるのでは?』

『目的は終わったから、今帰ってるところだよ。今日は渡したい物があって』

『渡したい物とは?』

 ケンはマジックバックから、マンイーターメイスを取り出して差し出した。

『これだ。マンイーターメイスって名付けたんだ』

『……マンイーターメイス?』

 長は受け取ったが、まだよく分かっていない顔だった。ケンは周囲を見回し、集落の端にある大きな岩を指さす。高さ二メートルほどの、動かす気にもならない岩だ。

『そこにある大きな岩、何かに使うかい?』

『いや。邪魔なだけだ。動かすにも重すぎる』

『じゃあ、このメイスで。魔力を籠めて叩いてみて』

『それではメイスが壊れるだろう』

『大丈夫だから』

 長は渋々という様子でメイスに魔力を通し、岩へ振り下ろした。

 ――ゴン。

 次の瞬間、岩の半分が、ぼろりと崩れ落ちた。

 長の目が見開かれる。周囲のオークたちも息をのむ。武器ひとつで、岩が砕けたのだ。

 ケンは静かに言った。

『俺はこういう、便利な魔道具を作る仕事をしているんだ。……そんな俺からの、“友の証”だよ』

 そして、言葉を続ける。

『できればこれからは、人間と敵対してほしくないし……君たちに滅んでもほしくない。今、意思の疎通ができるのは俺と家族だけだけど、将来は友好的な種族になることを願ってる』

 長はしばらく黙って、ケンを見つめた。やがて、低い声で答える。

『証……ケンよ。オーク族全ての意思ではないが……少なくとも、この集落は人間と友好的に接しよう』

 その言葉が出た瞬間、周囲の空気がふっと柔らかくなった。敵ではなく、客として迎え入れる匂いに変わる。

 ケンは胸の奥が少し温かくなるのを感じた。

『ありがとう。……また来るよ』

『うむ。待っている』

 こうしてケンは、オークの集落と“友”になった。

 しかも帰り際、ちょっとしたお土産まで渡されてしまい、断りきれず受け取ってしまった。内容はまだ見ていないが、妙に大事そうに包まれている。

「……なんか、増えたな」

 マジックバックに入れながら笑う。容量無限だから問題はない。サオリにも説明しよう、リナもきっとビックリするぞ。

 ケンは靴に魔力を込め、もう一度跳んだ。

 米とコカトリスと、オークとの新しい縁を抱えて。

 コトコト村へ帰る空は、昨日より少しだけ広く見えた。


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