表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美容師パパは魔道具担当、料理人ママは飯担当、娘は赤点担当の勇者です  ~異世界の隅っこで、家族スローライフ始めました~   作者: antomopapa


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/65

第52話 コンソメの街で米を買う



 オークの集落を出てから、さらに二時間ほど。

 あのあとケンの移動は順調そのもので、森を南へ抜けながら、ついでのようにコカトリスを追加で仕留めていった。狙う、撃つ、回収する。流れ作業のように淡々と。

「……よし、これで三匹目。サオリ、絶対喜ぶやつだな」

 そんなことを独り言ちつつ、靴の力を借りて跳ぶ。跳んで、落ちて、また跳ぶ。森を“道”に変える感覚は、想像以上に快適だった。

 気づけば昼過ぎ。

 視界が開け、森の向こうに大きな街並みが見えてきた。石造りの建物が連なり、門の前には人と荷馬車が列を作っている。噂に聞いていた“コンソメの街”だ。

「おー……大分賑わってるな」

 ケンは思わず声に出してしまい、ちょっとだけ恥ずかしくなる。聞いていた以上に大きい。田舎者みたいにきょろきょろしてしまうのを自覚しつつ、門へ向かった。

 衛兵にギルドカードを提示する。

「通行確認。……よし、入っていいぞ」

 街の中へ一歩踏み込むと、空気が変わった。人の声、馬のいななき、荷車の軋む音、焼き物の匂い、香辛料の匂い。村とは比べ物にならない情報量だ。

 だが、まずやることは決まっている。

「とりあえず……ギルドだな」

 衛兵に聞いた通りの道を辿り、ケンは冒険者ギルドへ向かった。

     *

 コンソメ支部の冒険者ギルドは、コトコト村のそれよりもずっと大きい。建物自体が立派で、扉を開けると中は人で溢れていた。依頼板の前は肩がぶつかり合い、受付カウンターも列ができている。

 ケンがカウンターへ進むと、受付の女性がにこやかに迎えた。

「こんにちは。冒険者ギルド・コンソメ支部へようこそ。どのようなご用件ですか?」

「魔物の解体をお願いしたいのですが」

「かしこまりました。ギルドカードを確認しますので、ご提示をお願いします」

「はい、これでいいですか?」

 コトコト村で受け取ったばかりのカードを差し出す。受付の女性が目を落とし――次の瞬間、表情がぴたりと止まった。

「……っ、A級のケン様ですね」

 その声が、妙に通った。

 周囲が、ざわつく。ほんの一瞬、話し声が薄くなり、視線がこちらへ寄る感覚がする。ケンは咳払いをしそうになって、ぐっとこらえた。

「解体するのが小さいものなら、あちらのカウンターに。大きいものなら、隣の解体所に直接お持ちください」

「分かりました。直接持って行きます」

 受付は手早く案内し、カウンターの隣の扉を開けた。部屋の中は作業場になっていて、肉と油の匂い、刃物の研がれる音がする。

「こちらになります。どうぞ」

「ありがとうございます」

 ケンが入ると、作業台の向こうから男が顔を上げた。腕が太く、手も大きい。いかにも解体職人という雰囲気だ。

「こんにちは。今日は何の解体だい?」

「コカトリスです。お願いできますか?」

「お、久々の大物だね。大丈夫だよ」

 職人は軽く笑った。その笑顔に油断しかけたケンが、さらっと続ける。

「四匹お願いします」

「……よ、四匹!?」

 職人の声がひっくり返った。

「あんた一人で倒したのかい?」

「ええ。そうですよ。鶏肉が食べたくて」

 職人は一瞬、ケンの顔を見て、次にケンの足元を見る。たぶん“本当にそれだけの理由か?”と目で聞いている。ケンは平然と頷いた。

「さすがA級だねぇ……わかったよ。明日の朝にでも終わってるよ。肉は引き取りでいいかい?」

「お願いします。あと、魔石も引き取りたいです」

「了解だ。羽と鉤爪、嘴は買い取るね」

「お願いします」

 打ち合わせは一瞬で終わった。ケンは深く頭を下げ、ギルドを出る。

 やるべき次の用事――今日の本命は、解体でもコカトリスでもない。

 米。

 サオリがカレーを作って以来、家族全員の頭の中に居座っている、あの白い粒だ。

「……よし。農作物の店だ」

     *

 市場通りに出ると、露店と店がずらりと並んでいた。野菜、果物、干し肉、香辛料、瓶詰め。いろいろあるが、ケンの目は迷わない。

 大きめの看板を掲げた農作物の販売店に入り、声をかける。

「いらっしゃい! 何をお探しだい?」

「米を探してるんですが」

「米ねぇ……お客さん、米を探すなんて珍しいね。どこから来たんだい?」

「コトコト村です」

「こりゃあ遠くから来てくれたねぇ」

 店主が目を丸くし、次にニヤリとする。

「米はここら辺じゃ流通量が少ないから、少々値が張るが……いいかい?」

「ええ、分かってます」

「キロ、金貨一枚だ。何キロいる?」

 ケンは一瞬だけ頭の中で計算した。金貨一枚が安いのか高いのか、街の感覚はまだ掴みきれていない。だが、家族の顔が浮かぶ。カレー、白飯、そして“おかわり”の争い。

 必要なのは、悩む時間じゃない。

「何キロあります?」

「家の在庫も合わせれば、五十キロってところかい」

「それじゃあ、全部下さい」

 店主の目がさらに丸くなる。

「こりゃあ豪気だねぇ。了解だ。……五十キロも持てるかい?」

「ええ。マジックバックに入れていくので」

「お客さん、マジックバック持ちかい。羨ましいねぇ」

 店主は奥へ引っ込み、しばらくしてから大きな袋をいくつも抱えて戻ってきた。米の袋が床に置かれた瞬間、かすかに“穀物の匂い”が立つ。懐かしい匂いだ。日本の台所にあった、あの匂い。

 ケンは金貨を渡し、袋を一つずつマジックバックへ滑り込ませていく。容量無限だから遠慮はいらない。入れる動作だけが“荷物の重さ”の代わりになる。

 全部が収まったのを確認して、ケンは息をついた。

「毎度あり! また来てくれよな。ちゃんと仕入れとくぜ」

「お願いします」

 こうして無事に米を買い付けることに成功した。

 ――問題は、ここからだ。

 今日中に戻ることも不可能ではない。靴の力を使えば相当短縮できる。しかし、無理はしないほうがいい。森を直線で戻ればまた何が起きるか分からないし、米を手に入れた今は“確実に持ち帰る”のが最優先だ。

「……今日は宿で一泊だな」

 ケンは街の宿屋に入り、部屋を取った。窓から見えるコンソメの街は、夕暮れに染まりながらもまだ活気を失わない。遠くからは酒場の笑い声、鍛冶場の金属音が響く。

 ケンはベッドに腰を下ろし、マジックバックの口を軽く叩いた。

「米、五十キロ。コカトリス四匹。……よし」

 サオリの顔が浮かぶ。リナの「白いご飯!」という声も浮かぶ。ニノンたちの反応も、だいたい想像がつく。

 明日は朝一でコカトリスの解体品を受け取り、できるだけ早く村へ戻る。

 ケンはそう決めて、静かに目を閉じた。コンソメの街の夜が、窓の外でにぎやかに更けていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ