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美容師パパは魔道具担当、料理人ママは飯担当、娘は赤点担当の勇者です  ~異世界の隅っこで、家族スローライフ始めました~   作者: antomopapa


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第50話 規格外の説明会と、食卓の戦場



 ギルドでの報告を終えたあと、ケンは約束どおり解体所へ向かった。ダンジョンで得たドロップ品を卸すためだ。ついてきたのはリナと、コトコト・キッチンの三人――ニノン、クルトン、ルー。

 解体所の空気はいつも通り、鉄と血と薬草の匂いが混ざっている。奥のカウンターに陣取っていたベテランのガンツが、山のように積まれた品を見て眉を上げた。

「……お前、どうやってこれだけの数倒したんだ」

 ケンは軽く肩をすくめて笑った。

「一、二階層は迷路みたいな感じだったので。初めは一階層全体を石にして、天井で潰そうとしたんですけど」

「そこからぶっ飛んでるな」

 ガンツのツッコミが速い。ケンは反省するふりもなく続けた。

「ダンジョンの中って、土魔法で壁みたいのが作れなかったんですよね」

「ダンジョンはそういうものだな。通路以外は壁や地面を盛り上げることはできないぞ」

「そうなんですよ。なんで――水で埋めました」

 一瞬、沈黙が落ちた。

「やってることが滅茶苦茶だなぁ……」

 ガンツが呟くと、ケンは首を振った。

「そうでもないですよ。安全のための作戦です。索敵魔法で安全確認して、蟻がいっぱいいるのが分かったんで」

「普通は埋めたくても、埋める前に魔力が尽きるんだがな」

「でもそのおかげで、すぐに二階層の入り口も分かったんで。モンスターもまとめて二階層に流れたんですよ。で、まとめて雷でドンっと」

「……倒したわけだな」

 ガンツは笑うしかない顔になっていた。

「もう規格外すぎて、俺の思考が止まりっぱなしだ。ははは」

「ははは。二階層に行ったら残ってるのもまだいたんで、個別撃破しましたね。倒すよりも回収が大変で……ははは」

 ケンも笑っているが、やっていることは笑って済む規模ではない。

「ははは……はあ。それで、これで全部か?」

「バルガスさんから魔石は取ってもいいって言われてるんで、卸すのはこれだけですね」

「分かった。とりあえず三日後に報酬を取りに来てくれ」

「分かりました」

 手続きが終わり、ケンが荷物を整えている背後で――コトコト・キッチンの三人は、完全に言葉を失っていた。

 まずニノンが、小声でルーに問いかける。

「……ダンジョンの階層を“埋める”水を出すって、可能なの?」

「分からない。でも……やったって言ってる」

 ルーの返事は、理屈を組み立てる前に諦めが混ざっていた。

「一体どんな魔力量なのよ……」

 ニノンが震える声で言うと、ルーは短く呟いた。

「……羨ましい」

 クルトンに至っては、頷くことしかできない。猫獣人の耳が、ぺたっと寝ていた。

 そんな三人の様子を見て、リナが不思議そうに首をかしげた。

「みんなどうしたの?」

 ケンが振り返り、いつもの軽い調子で言う。

「話も終わったし、一度家に帰ろうか。皆、ご飯食べていくか?」

「はい! お願いします!」

 ニノンが前のめりで即答した。さっきまでの震えはどこへ行ったのか。食に関してだけは、反応が最速だ。

     *

 三好家に戻ると、すぐに夕餉の準備が始まった。サオリの台所から漂う香りに、ニノンの目が再び輝きかける。リナはいつものように手伝いに入り、クルトンは匂いに誘われて落ち着かず、ルーは“質問したいことが山ほどある”顔をしていた。

 食卓の準備が整い、ひと息ついたタイミングで、ルーがケンへ切り込んだ。

「……靴の話、でしたね」

「ああ。あれは“落ちるとき”の制御が風魔法なんだ。風魔法を体に当てて、降下速度を落としてる」

 ケンは椅子に腰を下ろし、わりと真面目に説明を始めた。ルーの目が、少しだけ救われたように光る。

「それでは上昇する時も、風魔法で浮かんでるんですか?」

「上昇時は身体強化と、風魔法の併用だと思うぞ」

「……“思う”というのは?」

 ルーが逃さない。

「この魔道具には、俺たちのいた国の言葉で作ってある。俺が組み込んだのは『跳躍』と『滑落』の事象を組んであるんだ」

 ルーは頷きながらも、さらに踏み込む。

「『滑落』の方は風の受け方で、風魔法の制御って分かる。でも『飛躍』の方は……おそらくとしか言えない、ってことですか?」

「そういうことだな」

「でもそれだと……魔石はどこにあるんですか? 見た目は普通の靴です。魔石を組み込む隙間なんて」

 その疑問に、ケンはさらっと言った。

「それは、この靴には魔石を組んでないのさ」

「組んでない?」

「ああ。魔石を組む意味は分かるか?」

「足りない魔力を補うため、や、出力を上げるためですよね」

「そうだ。だからこの靴は、全部自分の魔力で補ってる」

 ルーの顔が固まる。

「……自分の魔力……」

「ああ。俺は保有魔力が多いから、そこの負担を考えてない。自分専用の魔道具って感じだな」

 ルーはしばらく黙ってから、深く頷いた。

「分かりました。ありがとうございます。納得できました」

「いえいえ。この家だと分かってくれる子が居なくて、説明のし甲斐があったよ」

 ケンが少し嬉しそうに笑った、その瞬間――。

 別の場所で、別の戦いが始まっていた。

 皿が置かれ、湯気が立ち、香りが爆発した途端、ニノンが弾ける。

「うめぇぞーーー!」

「ニノン、待ってって言ったでしょ!」

「にゃーっ、そこ私の分にゃ!」

「リナ、手は二本しかないよ!」

 壮絶なご飯の奪い合いが勃発し、テーブルの上が一気に賑やかになる。ルーは一瞬だけその光景を見て、静かに箸を持ち直した。

(……うん。理屈を理解しても、ニノンが居るといつもこうなる)

 そして、叫び声と笑い声の中で、コトコト・キッチンの“初ダンジョン発見”の一日は、三好家の食卓へと収束していくのだった。


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