表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美容師パパは魔道具担当、料理人ママは飯担当、娘は赤点担当の勇者です  ~異世界の隅っこで、家族スローライフ始めました~   作者: antomopapa


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/65

第49話 跳ぶ靴と、ダンジョンの価値



 ダンジョンを出た五人は、そのまま歩いてギルドへ向かった。森を抜け、湖の方角へ道を取る。さっきまで洞窟の冷気の中にいたせいか、外の空気がやけに柔らかく感じる。

 並んで歩きながら、リナがふと思い出したようにケンへ顔を向けた。

「ねえパパ。どうやって先にダンジョンに着いたの?」

 ケンがニヤリと笑った。妙に自信満々の時の顔だ。

「ふふふ。よくぞ聞いてくれた。新しい魔道具を作ったんだよ。これだ」

 そう言って、ケンは足元を指差す。

「靴? パパ、靴作ったの?」

「いや、作ったんじゃなくて、組んだだけ。買った靴を魔改造したんだ」

 魔改造、という響きに、ルーがわずかに眉を動かし、クルトンが興味津々で尻尾を揺らす。ニノンも弁当の余韻から完全に戻り、じっと靴を見つめた。

「へぇ、どんな改造したの?」

「“飛躍”と“緩落”の魔法陣を組み込んだんだ」

「ヒヤクトカンラク? なにそれ」

 リナが首をかしげると、ケンはわかりやすく言い直した。

「要するに、高く跳ぶ魔法陣と、ゆっくり落ちる魔法陣を組んだわけだ」

「跳んで落ちるんなら、空を飛んだ方がいいんじゃないの?」

 リナの素直な疑問に、ケンは少し渋い顔をする。

「試したんだけど、あれは駄目だった。制御が難しすぎる」

「そうなんだ。ねえ、ここで跳んでみて!」

 リナの目が期待で輝く。

「いいぞ。ちょうどそこの湖で跳んでみよう」

 湖の岸辺まで来ると、コトコト・キッチンの三人も気になるらしく、自然と歩幅を落として見守る体勢になった。ニノンは弓を背負ったまま前のめり、クルトンは猫のように身を低くし、ルーは理屈で止めたい顔をしている。

 ケンは湖面を見て、対岸を指さした。

「じゃあ、こっちから向こうまで跳ぶぞー」

 その距離を見た瞬間、ニノンが慌てて飛び出した。

「ちょ、ちょっと待ってください! こっちから向こうまで三百メートルはありますよ! 跳べるわけないですよ!」

「これは無謀だと思うわ」

 ルーも同意し、クルトンもこくこく頷いた。

 だがケンは、にこにこと余裕の笑みを崩さない。

「まあ、見てなって」

 そう言って、走り幅跳びみたいに助走をつけた。――そして、跳んだ。

「にゃーーー!」

 クルトンの悲鳴が上がる。リナは目を輝かせた。

「パパすご~い!」

 ケンの身体が、ひゅん、と上へ吸い上げられる。二十メートルほどの高さまで一気に跳び、そこからは羽のようにふわふわと降りていった。ゆっくり、ゆっくり落ちる……のに、前へ進む距離がとんでもない。

 そして対岸へ。

 着地したケンは手を振り、今度は戻ってくるために再び跳んだ。

 ――が。

 今度は飛びすぎた。

 ぐん、と進み、対岸をさらに通り過ぎて百メートルほど先――森の中へ突っ込んでいく。

「パパー!? 大丈夫!?」

 リナが慌てて駆けだす。残された三人は、口を開けたまま固まっていた。

「どうやったらあんなに飛べるにゃ……」

 クルトンが呆然と呟く。

「わからないけど……多分、風魔法?」

 ルーが理屈を探そうとして、さらに眉をひそめる。

「風魔法って普通、相手を攻撃するための魔法よね。どう制御すれば移動に使えるの?」

「……わからないにゃ」

 クルトンも素直に降参した。

 やがて、森の方からリナとケンが戻ってきた。ケンは頭を掻きながら笑っている。

「イタタタ……まだ制御に慣れてないからな。ははは」

「もう! パパ心配させないでよね」

「ごめんごめん」

 そのやり取りに、三人は一斉に“この親子の平常運転”を理解してしまい、逆に言葉を失う。

 ニノンが恐る恐る手を挙げた。

「あの~、パパさん。ちょっと聞いてもいいですか? これって風魔法で制御してるんですか?」

「制御は風魔法だな。それを魔法陣にして組み込んであるぞ」

 続けてルーも質問を重ねる。

「起動は違うんですか?」

「説明すると長くなりそうだ。先にギルドに報告してからでいいか?」

「はい、お願いします」

 五人はそのままギルドへ向かい直した。

     *

 ギルドに戻ると、すぐにギルドマスター室へ通された。バルガスが机に肘をつき、短く言う。

「報告を聞こう」

 ケンが一歩前へ出る。

「それじゃあ俺から。ダンジョンになってましたね。二階層までは殲滅したんで、スタンピードの心配はないかと思いますよ」

 さらっと言うケンに、バルガスは一瞬だけ目を細めた。しかし深追いはせず、話を切り替える。

「……とんでもないことを言ってるが、今はいい。で、モンスターはどんなのが居た?」

「一、二階層は虫系ばかりでしたね。えーっと……」

 ケンは懐からメモを取り出した。準備が良すぎる。

「一階層で俺が当たったのは、キラーアント、ジャイアントスパイダー、ジャイアントワーム、ジャイアントモスキート。二階層はそれに加えて、キラービー、ポイズンバタフライ、ジャイアントスコーピオンが出ました。そこまではボスはいなかったですね」

「よし。大体の状況は分かった」

 バルガスが頷く。そして、言葉に少し重みが乗った。

「これから忙しくなるぞ」

「忙しく?」

 リナが「なんで?」という顔をする。

「ダンジョンは産業になる。おそらく村が北に広がって、街になるかもしれん。……もしかしたら、お前たちの家の件も北に変わるかもしれないぞ」

 リナは一瞬きょとんとしたが、ケンは肩をすくめた。

「俺たちは貰えるから、北でもいいですけど」

 あっさり言い切って、バルガスがため息をつくように頷く。

「俺は子爵様に報告に行く。公爵様にもすぐ報告が行くからな」

 そしてルーたちへ視線を向けた。

「コトコト・キッチンは、ダンジョン周辺の魔物の討伐依頼が出る。そっちを頼む」

「はい!」

 ルーが代表して返事をする。クルトンとニノンも頷き、リナも元気よく声を揃えた。

 バルガスは続けてケンへ指示を飛ばす。

「ケンは一度、ギルドにダンジョンのドロップ品を卸してくれ。必要な魔石などは取っておいてくれ」

「了解です」

「それでは解散だ。討伐依頼もよろしく頼むぞ。無理はしないように」

「「「「はい」」」」

 四人の声が揃った。

 ダンジョンの発見は、ただの“危険”じゃない。村の未来も、家づくりの場所も、仕事も、依頼も――全部を動かしていく。

 そしてその中心に、跳ぶ靴を笑って見せるケンがいる。

 コトコト村の北のダンジョンが、少しだけ近くなった気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ