表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美容師パパは魔道具担当、料理人ママは飯担当、娘は赤点担当の勇者です  ~異世界の隅っこで、家族スローライフ始めました~   作者: antomopapa


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/65

第47話 コトコト・キッチン、始動



 朝のコトコト村は、湯気みたいに薄い霧が畑の上を流れていた。ギルド前の石畳には、早起きの冒険者たちの足音がぽつぽつと響き、掲示板の前では依頼書をめくる音がする。

 その端っこに、今日から“正式に”パーティーとして動く四人が集まっていた。

「今日が冒険者パーティー活動一日目だね!」

 元気よく宣言したリナに、ニノンがずいっと顔を寄せた。整った美貌が迫力を増して――ちょっと怖い。

「リナ、サオリさんに頼んでくれた?」

「ニノン、顔が怖いよ。お弁当でしょ。ちゃんと作ってもらったよ」

 その一言で、ニノンの瞳が宝石みたいにきらっきらに輝いた。さっきまでの威圧感が、食欲の純度に変わる。

「……それがあれば、もう大丈夫!」

「これさえなかったら、ニノンがリーダーなのにゃ」

 クルトンが肩をすくめ、語尾までちょっと拗ねた。

「ええ全く。リーダーになった私の身にもなって欲しいわ」

 ルーが小さく息を吐く。理論派で神経質、効率重視の彼女は、すでに“まとめ役”の顔をしていた。

「でも、ルーはリーダーに向いてるでしょ」

「向いてるんにゃけど、冷静な時のニノンは優秀だからにゃぁ」

「……はっ。私はルーの方が周りもよく見えてると思いますよ」

 ニノンが正気に戻ったみたいに言う。戻るの早い。

「イイね、パーティーの会話だね!」

 リナは楽しそうにうなずいた。

「で、いまからどうするにゃ?」

「ギルマスが、北の湖方面の探索の依頼を出すって言ってたよ」

「では、それにしましょう」

 ルーが即決した。迷いがない。

  四人は並んでギルドへ入った。木扉を押し開けると、いつもの獣臭と酒気、紙とインクの匂い。それに混ざって、どこかで誰かが焼いている串肉の香りが鼻をくすぐる。 ちょうど中に、ギルドマスターのバルガスがいる。

「おう、お前たち。湖北の探索に行ってくれるか?」

「はい。その予定です」

 ルーが答えた。ニノンは答えない。弁当袋を抱えたまま、頷きだけが大きい。クルトンは「にゃ」と短く返事、リナは元気よく「はい!」と手を挙げた。

「よし、それじゃあ頼むぞ。……で、お前たちのパーティーネームはどうする?」

 リナが一歩前に出る。

「もう決めたよ! 私たちはコトコト・キッチンです!」

「コトコトキッチンだな。わかった。リーダーはルーのままでいいか?」

「はい」

「よし。お前たちをB級パーティー、コトコト・キッチンとして登録しておくが――リナ、お前は個人でA級になる。気を引き締めて行ってこい」

「はい!」

 こうして、新パーティー“コトコト・キッチン”の冒険が始まった。

     *

 北へ向かう道は、村を抜けるとすぐに森の匂いが濃くなる。湖へ続く道は、ところどころ湿っていて、足音が柔らかい。鳥が鳴き、遠くで水のせせらぎが聞こえる。

 探索と言っても、初日から無茶はしない。ルーがそう決めていた。まずは湖周辺の様子を見て、魔物の痕跡やダンジョンの気配を探る。報告が目的だ。

 ――だったのだが。

「お昼ご飯にする」

 唐突にニノンが宣言した。

「え、いま!?」

「動かない」

 断言。リナが目を丸くして、クルトンが「にゃ」と笑いをこらえた。ルーは、こういう流れを最初から想定していた顔で、荷物を下ろす。

 湖の見える草地に座り、包みを開いた瞬間、香りが弾けた。サオリの弁当は、空気を一段おいしくする。

 ニノンが一口食べて――次の瞬間、泣いた。

「うめぇ……うますぎるぞ、こんちくしょう!」

「情緒が迷子にゃ……!」

 クルトンが半笑いで言う。ニノンは涙を拭きもせず、弁当箱に顔を近づけ、また食べ、また泣く。エルフの美貌が台無しだが、本人は気にしていない。

 その横で、残りの三人は普通に会話を続けた。ニノンは置いておいても大丈夫だ。たぶん弁当が尽きるまで動かない。

「えーーー! ニノンって二百歳越えてるの!?」

「そうだにゃ。エルフは寿命が長いから二百歳でも若い方にゃ」

「クルトンはいくつなの?」

「わたしは二十二歳にゃ。ルーは二十歳」

「えっ、ルーって私よりちょっと上なんだ」

「……そうね」

 ルーが小さく頷く。

「リナはいくつにゃ?」

「私は十六歳だよ」

「若いわね、だけどブイヨン子爵の弟子。さすがA級ね」

「いやいや、それほどでも……」

 照れたリナが笑った――その時、笑顔がすっと消えた。視線が森の奥へ向く。

「魔物がいる。五十メートル先。たぶん、でっかい蛇」

「え?」

 ルーが立ち上がり、クルトンも耳をピンと立てる。

「にゃっ、どこにいるにゃ」

「あそこ。倒すね」

 リナは迷いなく立ち上がった。声が少し低くなる。勇者の目だ。

「……凍れ!」

 次の瞬間、五十メートル先の地面から氷柱が突き上がった。槍みたいに鋭い氷の中に、体長五メートルほどの巨大な蛇が閉じ込められている。

「たあ!」

 リナは駆け、聖剣ジェディアスが光る。――一閃。

 氷ごと、蛇が真っ二つに割れた。

 あまりの速さに、ルーとクルトンが一瞬固まる。いっぽうニノンは、泣きながら弁当を食べ続けている。

 リナは剣を下ろして、首をかしげた。

「ねえ、蛇って食べれるの?」

「……食べられるとは思うけど、持って帰るのは手間よ」

 ルーが現実的に言うと、クルトンが鼻をくんくんさせる。

「にゃ……でもサオリさんならおいしくするにゃ」

「だよね! 持って帰ろう!」

 リナが元気よく言った背後で――。

「うまいぞーーーーー!」

 ニノンの叫びが湖に響いた。魔物も氷柱も関係ない。弁当が世界の中心だ。

 こうしてコトコト・キッチンの初日は、探索と昼ご飯と、そして“食材の追加”から始まったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ