表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美容師パパは魔道具担当、料理人ママは飯担当、娘は赤点担当の勇者です  ~異世界の隅っこで、家族スローライフ始めました~   作者: antomopapa


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/65

第39話 赤点勇者、パーティーを組みたい



 朝のコトコト村は澄んだ空気に包まれていた。

 広場では早起きの村人が水汲みをし、パンの焼ける匂いが漂い、そして――冒険者ギルドだけが、いつも通り騒がしい。

 その冒険者ギルドに、リナは一人でやって来ていた。

「すみませーん、ギルドマスターに用があるんですけど!」

 受付の職員に声を掛け、慣れた足取りで廊下を進む。

 扉の前で一度だけ深呼吸し、コンコンとノック。

「ギルマス、おはようございます!」

「おお、リナか。今日はどうした?」

 部屋の中にいたのは、コトコト村冒険者ギルドマスター・バルガス。

 書類に目を通していた手を止め、リナを見上げる。

「ちょっとお願いがあって」

「お願い? 嫌な予感しかしないな」

「そんなことないですよ。ギルドのためです」

 リナは胸を張って言い切った。

 バルガスは目を細めたまま、椅子に深く座り直す。

「ほう。で、何のお願いだ?」

「依頼書にあった邪龍討伐をしたいです」

「ブーーーーー! ゲホッゲホゲホッ……オエッ!」

 バルガスは盛大に噴き、咳き込み、口元を押さえて背中を丸めた。

 リナは即座に眉をひそめる。

「ギルマス、汚いですよ」

「突然なに言い出すんだ! 邪龍討伐だぁ!? どこの誰が今すぐ行けって言った!」

「だって、パパばっかり冒険してて! 私は狩りとかに行きたいのに、パパいつも夜中に行くし!」

「だからって、邪龍退治を思いつきで言うな!」

「思いつきじゃないもん。だからこうしてギルマスに相談しに来たんだもん」

「だもんって……」

 バルガスが額を押さえる。

 この子は本当に、言葉の勢いだけは勇者だ。

「で、お願いじゃなくて……相談の方は?」

 リナはぱっと表情を明るくし、身を乗り出した。

「私、パーティー組みたいと思って」

「ほう」

 バルガスの目つきが変わった。さっきまでの呆れ顔が、ギルドマスターの真剣な顔に切り替わる。

 リナは言葉を止めない。

「これからのこと考えて、一人じゃ無理なこともあるし! 仲間が居た方が冒険も楽しくなるし! チームワークで上級冒険者パーティーを目指すのもいいかなって!」

「……まあ、そうだな」

「それに、四人パーティーはRPGの基本でしょ! 部活みたいで楽しそうっていうか――あ、私バスケ部だったんだけどPGやっててCの子と仲良くて高校の凸凹コンビって有名で!」

「わかった。いや、後半はわからんが、お前の考えはわかった」

「ほえ?」

「要するに――お前ひとりじゃやれることに限界がある。だからパーティーを組んで、みんなで強くなって、邪龍を退治したい……そういうことだな」

「うん!」

 リナは素直に頷いた。

 バルガスは腕を組み、しばらく黙ってから、低い声で言う。

「パーティーを組むのは賛成だ。師匠も組んでたし、俺もだ。皆で強くなるのはいい。……だがリナ、この話、ケンとサオリには言ってあるのか?」

「まだだけど……先にギルマスに相談しないと、後で言うと怒られるってパパが言ってたよ」

「ほう」

 バルガスの口元がわずかに緩む。珍しく褒める顔だ。

「それはいい心がけだな」

 そして、ふっと眉間に皺が寄る。

「……それに比べてケンの奴は」

 昨日のことを思い出したのか、バルガスの拳がぎゅっと握られた。

 リナは「えへへ」と照れる。何を照れているのかは分からないが、空気だけは察したらしい。

「そういうことなら、ひとつ心当たりがある」

「ホントに?」

「ああ。アタッカーが抜けて困ってるって言ってた、女性三人パーティーだ。リナより年上だが、皆若い。将来有望のB級冒険者パーティーだぞ」

「わぁ……!」

 リナの顔がぱっと輝いた。

 “仲間”という言葉が、胸の奥で大きく鳴ったのだろう。

「今度会わせよう」

「お願いします!」

 リナは深々と頭を下げた。

 邪龍討伐という爆弾は相変わらず危険だが、それでも“地に足のついた一歩”を踏もうとしている。バルガスは内心、少しだけ安心した。

「……よし。まずは親に話せ。そこからだ」

「はーい!」

 リナは元気よく返事をして、部屋を飛び出していった。

 バルガスは、扉が閉まった後もしばらく天井を見上げていた。

「……あいつ、ほんとに将来どこまで行く気だ」

 そして次の瞬間。

「……いや、まずは“あの父親”をどうにかしないといけない気がしてきたな」

 ギルドマスターの悩みは尽きない。


 同じ頃。

 冒険者ギルドの“隣”――商業ギルドには、ケンとサオリが揃って訪れていた。

 扉を開けた瞬間、二人の耳に入ってきたのは、聞き覚えのある大声だった。

「――邪龍退治を思いつきで言うな! 」

 壁越しに響く怒号。

 ケンは肩をすくめ、苦い笑みを浮かべた。

「うわ……バルガスさん、凄い叫んでる。声でかいから……こんなに聞こえるなら、昨日のは良く聞こえただろ」

 商業ギルドの職員が、にこやかに頷く。

「はい。商業ギルドの名物になってますよ。バルガスさんの“雷”」

「雷じゃなくて雷鳴だよ……」

 ケンが遠い目をしたところで、サオリが話を切り替える。今日の目的は“家”と“商売”だ。

「それでですね。家族に相談した時に、娘が子爵様に言われたんですよ。弟子が借家ではいけないから、土地を渡すと」

 勇者であることは伏せている。だから“弟子”という形で説明する。

 職員は感心したように目を細めた。

「ブイヨン子爵様に弟子入りできるなんて、将来有望なんですね」

「そう言ってもらうと嬉しいですね」

 サオリが微笑む横で、ケンは真面目な顔で続けた。

「だけど俺たちはまだ、村に来て日が浅いので……実際、子爵様に土地を戴くとなると、何か制約が出来たり。いや、そもそも戴くのもどうかと思ってるんですが」

 職員はすぐに理解し、首を振った。

「ああ、そういう事ですね。それなら何も気にしなくていいですよ。子爵様は、いい意味で貴族らしくない方なので。裏もなく、制約もないと思います」

「本当ですか」

「ええ。むしろ将来的に強い冒険者が住んでいる方が、街の発展にもつながりますから。村としても“守り”が厚くなりますしね」

 ケンはようやく息を吐いた。

「そうですか……良かったです。ホッとしました」

 土地の話が一段落し、ケンはもうひとつ気になっていたことを尋ねる。

「あ、あとですね。俺、魔道具師として色々作り始めてるんですが……どういった物が好まれますか?」

 職員は即答した。

「魔道具で一番使われるのは、やはり生活道具ですね。水、灯り、キッチン、その辺りが一番多いです。ギルドに持ってきて頂ければ買取もしますし――」

 職員は少し身を乗り出し、声を弾ませる。

「子爵様から“街灯を増やすように”とのお達しも来てますから、街灯の魔道具を作っていただきたいぐらいです」

「街灯、ですね」

 ケンは頷いた。確かに需要が高い。村の夜は暗い。安全にも直結する。

「わかりました。作ったら持ってきますね」

「はい、是非お願いします」

 さらに職員はサオリにも目を向ける。

「あと、サオリさんが使っているミックススパイスも、卸していただいたら高価買取いたしますよ」

「……あら」

 サオリの料理人の目が光った。

 スパイスは貴重品だ。この世界で“ミックススパイス”が商材になるなら、商売の幅が一気に広がる。

「それじゃあ、今度持ってきます」

「はい。そちらもお願いしますね」

 話を終え、二人が商業ギルドを出る。

 外の空気は気持ちよく、村の景色はいつも通り穏やかだ。なのに、二人の胸の中には“次の段階”がはっきり見えていた。

 家。土地。お米。街灯。スパイスの卸。

 暮らしが、商売が、少しずつ形になっていく。

 そこへ――。

「パパー! ママー!」

 隣の冒険者ギルドの方から、リナが走ってきた。

 元気いっぱい、顔は達成感に満ちている。

「おかえり、リナ。ギルドどうだった?」

 サオリが聞くと、リナは胸を張って言った。

「ギルマスに相談してきた! 私、パーティー組む!」

「……パーティー?」

 ケンが眉を上げる。

 リナは勢いのまま頷いた。

「うん! 邪龍討伐のために!」

「いきなり物騒だな!?」

 ケンのツッコミに、リナは「えへへ」と笑う。

 サオリは半分呆れ、半分嬉しそうに言った。

「ちゃんと相談したなら、偉いわ。帰ってから詳しく聞かせて」

「うん!」

 三人は並んで歩き出す。

 今日もコトコト村の道は穏やかで、空は青い。だけど、三好家の明日は、また少しだけ賑やかになりそうだった。

 こうして三人は、家へ帰るのでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ