第27話 勇者の弱点と、禁断のグルヌイユ・パーティー
ポタージュ公国の辺境、コトコト村の夜は深い。
街灯が淡く通りを照らす中、三好家の明かりがまだ付いている。
ケンはそっと家に入った。
玄関が「ギィ……」と静かに開く。
「ただいま……」
声を潜めて入ってきた。
彼は今日、自作の魔力スナイパーライフル(ただのパイプ)を手に、夜の平原へと狩りに出ていた。
背負っていたマジックバッグを下ろし、一息つく。
「おかえり、体は大丈夫? リナはもう寝たわよ」
キッチンで片付けをしていたサオリが、手を拭きながら迎えに出た。
「ああ、大丈夫。収穫も結構あったんだけど……
一応、食用とは確認したんだけど、今日の収穫のほとんどがカエルなんだ」
「カエル? 両生類の?」
「うん、そう。見た目がアレなんで、明日ギルドで肉も売りに出そうかと思って」
「何言ってるの? 食べるわよ。フランスではグルヌイユって言って、普通に食べる地域もあるんだから」
「そうか、よかった。
キモいとか、どっかに捨ててって言われたらどうしようかと……」
「大丈夫よ、グルヌイユを調理したことは無いけど、調理のやり方は知ってるから」
「じゃあ問題ないね。それじゃあお風呂に入ってくるよ」
「はい、いってらっしゃい」
「一緒に入る?」
「何言ってんのよ、早く入ってきなさい!」
「ほーい」
夫婦の軽口を交わし、ケンは浴室へと向かった。
こうして夜が更けていった。
翌朝。
三好家の朝食に、二階からリナが下りてくる。
「あ、パパおはよー! 昨日遅かったね」
「おうリナ、おはよう。そうなんだよ、結構遅くなって。
でもその分大量だったよ」
「何を倒したの?」
「大量のカエルさ」
ケンが何気なく答えた、その瞬間。
「イヤアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
リナの絶叫が家中に響き渡った。
彼女は椅子から飛び退くと、壁の隅まで逃げ出した。
「どうした? 幼稚園の頃は好きだっただろ」
「昔は良かったけど今はやだ、キモい、キモ過ぎる!
ヌルヌルして目が合ってるみたいで怖いんだもん!」
「ははは、勇者様にも弱点があったか。魔王よりカエルの方が怖いのかい?」
意地悪く笑うケンに、サオリが呆れ顔で顔を出した。
「おはよう。あら、リナどうしたの?」
「パパがカエル投げてきた!」
「投げるか! リナってこんなにカエル駄目だったっけ?」
「小学校の頃、顔にカエルが付いてから駄目になったのよ!」
「ああ、そんなことがあったなぁ」
「そんな事とは何よ! そんな事とは!」
「ごめんごめん」
「ごめんは1回で十分よ、まったく」
ぷんぷんと怒るリナだったが、サオリは慈悲のない宣告を告げる。
「でもリナ、今日の晩御飯はカエルの唐揚げの予定よ」
「え、か、かえ、かえるのからあげ……。いやアアアアアアーーーー!!」
絶叫を残し、リナは
「今日は絶対ギルドで依頼受けて外食するんだから!」
と家を飛び出していった。
昼過ぎ、ケンはギルドの解体所を訪れた。
ガンツに
「ウォーターフロッグが大量だったんだけど解体お願いできるかな、肉と魔石以外は買い取りで」
と頼む。
「ウォーターフロッグなら一匹で2キロぐらい肉が取れるぞ、魔石は小さいけどいいか?」
「ああ、魔道具の実験用とかに使うから小さいのが欲しかったんだ」
「了解だ、何匹いる?」
「えっと、ぜんぶで27匹だな」
「に、27匹だと!」
「まずかった?」
「いや大丈夫だが数が数だ。今日は2匹くらいでいいか、残りは二日後に取りに来てくれ」
「了解、あ、そうだったこれもいるんだった」
「これ?」
「ケルピーだ」
「ケルピーだぁ」
「お前、これリナちゃんが倒したのか?」
「いや、俺が一人で」
「全くとんでもねぇ親子だな」
「ははは」
「はぁ分かった30分待っててくれ」
手際よく捌かれた新鮮な肉を持って帰宅する。
それを受け取ったサオリは、さっそく調理に取り掛かった。
浄化スキルを使い、丹念に下処理を施し、ハーブを添えてカラリと揚げていく。
見た目は完全に美味しそうな鶏の唐揚げだ。
夕方、ギルドから空腹で帰宅したリナを待っていたのは、家中を支配する抗いようのない香ばしい匂いだった。
「ただいま……。ねえ、このいい匂い、何?」
おそるおそるダイニングを覗くリナ。
そこには、こんがりと黄金色に揚げられた、美味しそうな骨付き肉が山盛りになっていた。
「おかえり。さあ、冷めないうちに食べちゃって」
「これ……本当にあの『カエル』なの……?」
空腹に負けたリナは、目をつぶって一切れを口に放り込んだ。
サクッ、という軽快な音。
「…………!! おいしいいぃぃぃ!!」
口の中に溢れ出したのは、驚くほどジューシーで上品な旨味だった。
「こんなに美味しいなら、今度私も狩りに行く!」
すっかり完食したリナは、カエル嫌いを克服したどころか、新たな獲物としてロックオンしたようだ。
「まあ、克服したのはいいけど……
今度は乱獲しすぎて村の生態系を壊さないでくれよな、リナ」
「乱獲? 生態系? 何かわかんないけど、私が壊すわけないじゃん!」
能天気なリナの返事に、ケンとサオリは顔を見合わせて笑った。
今日も三好家は平和だった。




