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美容師パパは魔道具担当、料理人ママは飯担当、娘は赤点担当の勇者です  ~異世界の隅っこで、家族スローライフ始めました~   作者: antomopapa


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第26話 副料理長の決意と、真夜中のスナイパー



サオリが子爵邸での「料理教室」を終えて帰宅したのは、日がとっぷりと暮れた頃だった。

「ただいまー」

「おかえりママ! お料理教室、どうだった?」

リナが玄関まで駆け寄り、サオリの荷物を受け取る。

ケンもリビングから顔を出した。

「おかえり。楽しめたかい?」

「ええ、楽しかったわよ。お料理教室っていうほどのことはしてないけれど、皆さんプロだから言ったことをすぐに飲み込んでくれるの。大丈夫だと思うわ」

サオリはエプロンを外しながら、少し誇らしげに微笑んだ。

「それでね……子爵様から、これから週に一回くらい教えに来てほしいって頼まれちゃったの」

「それは良かった! で、返事はしたのかい?」

「一応、家族と相談しますって答えたわ。……ねぇケン、私、やってみてもいいかしら?」

「いいに決まってるじゃないか。元スーシェフの腕の見せ所だね」

ケンの言葉に、リナがキョトンとして首を傾げた。

「スーシェフ? 何それ、美味しいの?」

「おいおい、リナ。お母さんの凄さを忘れたのかい?

お母さんは和食、イタリアン、フレンチ……いろんなお店で修行してきたんだぞ」

ケンは苦笑しながら、娘にサオリの「あっちの世界」での凄さを説いた。

「そうだよ。こっちの世界に来る直前まで働いていたのが高級なフレンチのお店でね。

お母さんはそこの『スーシェフ』……つまり副料理長だったんだ。厨房のナンバーツーだよ」

「よくわかんないけど……ママって、実はすっごい偉かったんだね!」

「凄いってわかってもらえて良かったよ。

それで、ママが週一でお料理を教えに行くこと、リナはどう思う? パパはいいと思うけど」

「私もいいと思うよ!

だってママのご飯は世界一だもん。みんなに教えてあげてよ!」

家族の全面的なバックアップを受け、サオリは晴れやかな顔で頷いた。

「ふふ、ありがとう。じゃあ、日程を調整しましょうか。……それじゃ、まずはお夕飯にしましょう!」

賑やかな夕食の後、ケンは身支度を整え始めた。

「二人は先にお風呂に入ってて。俺、少し遅くなるから寝てていいよ」

「あら、残業?」

サオリが問いかけると、ケンは苦笑いした。

「ああ、残業だ。魔石が欲しいからね。

衛兵さんが言ってたけど、夜の方が魔石をドロップする魔物が多いらしい。

ちょっと南の平原まで行ってくるよ」

「いってらっしゃい、パパ! 気をつけてね!」

ケンは、手近にあった一本の鉄のパイプを手に、村の門をくぐった。

夜の平原は静まり返り、冷たい風が吹き抜ける。

ケンは川沿いを歩きながら、最近忙しくて読めていなかった『魔法教本』の知識を反芻していた。

昨夜、じっくり読み直した中に、興味深い魔法を見つけていたのだ。

「ええと、詠唱は確か……」

『天にまします父よ、全てを照らし導く、あまねく真実の光に感謝を捧げん。 如何なる闇も御前みまえには隠れ得ぬごとく、潜む影を暴くまなこここに成したまえ。 ――ファインド!』

唱えた瞬間、ケンの視界が切り替わった。

暗闇の中に、赤く光る輪郭が浮かび上がる。

「おお……見えるぞ。熱源探知みたいな感じか。これで不意打ちは防げるな」

小川の近くの赤い輪郭を標的にする。

ケンは手にしたパイプを構えた。

これは魔道具でも何でもない、ただの鉄の管だ。

だが、これに自身の膨大な魔力を通すことで、どんな現象が起きるのか……。

「さて、次は弾丸だ」

パイプの中に意識を集中し、**〈石〉**を生成する。

「うーん、もう少し小さく……よし、このサイズならパイプの中を干渉せずに通るな」

パイプの中で、生成された石の弾丸が魔力によって浮遊し、行ったり来たりする。

ケンは遠くの赤い輪郭に、パイプの先を向けた。

「回路は組んでいないが、俺の魔力で直接加速させる……いけ! ストーンバレット!」

シュパッ! という短い破裂音と共に、弾丸が超高速で射出された。

行ってみると、そこには体長50センチほどの巨大なカエルが横たわっていた。

「当たったな。ええと……鑑定」

〈ウォーターフロッグ:Dランク。暗闇から水魔法で攻撃する魔物。食用可〉

「食用か。一応、回収しておくか。魔石も入ってるしな」

ケンはその後も「ファインド」で獲物を探し続けた。

「今日はカエル祭りだな……。さて、他の属性はどうだ?」

火、水、風、雷、氷……。

ただのパイプに様々な属性魔力を乗せて試行錯誤する。

「火は持ち手が熱すぎる。氷は内側にくっついて詰まるな。

雷は……うわっ、自分に痺れがきた! 風は威力の減衰が激しい。

やっぱり土と水が一番安定しているな。

いや、回路を組んで『断熱』と『絶縁』を付与すれば他の属性もいけるか?

まだまだ改良の余地があるな」

ノってきたケンの独り言は止まらない。

「音がないのは最高だな。まるでFPSゲームのスナイパーライフルだ。

これ、うかつに魔道具化して他人に渡したら危なすぎるな……。

当面は俺だけの秘密の武器にしておこう。

そうだ、単眼鏡を付けてスコープくらいは作ってもいいかもしれないな……」

その時、ファインドの魔法に「人型」の赤い輪郭が映った。

「ん、人か? でも、邪悪なものしか映らないはずだぞ」

ケンは気配を殺して慎重に近づき、鑑定を掛ける。

〈ケルピー:Aランク。川の近くに住む魔物。人に化けて川に引きずり込む。食用不可〉

「……Aランク。食べられないのか。

それにしても、人型のまま倒すのは寝覚めが悪いな」

ケンは指先でパチンと小さな雷をケルピーの足元に落とした。

驚いたケルピーが姿を崩し、人型から黒い馬の形へと変化していく。

「よし、正体を現したな」

間髪入れず、パイプを向ける。

「ストーンバレット、最大出力!」

ドシュッ! という鋭い音と共に、魔力で加速された弾丸がケルピーの胴体を正確に撃ち抜いた。

「Aランクとはいえ、この辺りにはまだ強い奴はいないはずなんだがな……。はぐれものか?」

ケンはケルピーの巨体を回収しながら、「あーでもない、こーでもない」と改良案を呟き続け、満足げな顔で夜道を家へと急ぐのだった。



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