第21話 また北海道へ
第21話 また北海道へ
羅臼での昼食を終えた三人は、道の駅らうすでお土産を選んでいた。
羅臼昆布や海産物、お菓子など、北海道らしい商品が並んでいる。
「何にしようかな」
美佐子は棚を眺めながら悩んでいた。
「これ、お父さんが好きそう」
長女が商品を手に取る。
「そうね」
美佐子も笑った。
「じゃあ、それにしましょうか」
お土産をいくつか選び、買い物を終える。
車に荷物を積み込むと、長女が運転席に座った。
「じゃあ、釧路に戻ろうか」
「ええ」
車が羅臼を出発する。
窓の外には、知床の山々と海が広がっている。
しばらく走ったところで、次女が突然言った。
「ねえ」
「何?」
「また北海道に来たいね」
美佐子が後部座席から前を見る。
「また?」
「うん」
次女は窓の外を眺めながら続けた。
「今回、すごく楽しかったから」
長女も頷く。
「私もそう思う」
美佐子は少し考えた。
北海道へ来る前は、夫との思い出を辿ることばかり考えていた。
けれど今は違う。
娘たちと一緒に見た景色。
一緒に食べたもの。
一緒に笑った時間。
それらも、すでに大切な思い出になっていた。
「そうね」
美佐子が笑う。
「また来ましょうか」
「本当?」
次女が嬉しそうに振り返る。
「ええ」
すると長女が言った。
「じゃあ、今度は冬もいいんじゃない?」
「冬?」
「うん。流氷を見に来るの」
「流氷……」
美佐子は窓の外を見た。
真冬の北海道。
一面の白い海。
想像すると、今回とはまったく違う景色が浮かんでくる。
「いいわね」
「流氷、見てみたい!」
次女が声を上げる。
「すごく寒そうだけど」
「寒いだろうね」
「でも、見てみたい」
美佐子も笑った。
「じゃあ、次は流氷を見に来ましょうか」
「決まり!」
次女が嬉しそうに言う。
車内に笑い声が広がった。
すると、今度は長女が言った。
「それからさ」
「何?」
「『北の国から』の撮影地巡りもしてみない?」
美佐子が振り返る。
「撮影地巡り?」
「うん。今回、純の番屋を見つけたでしょう?」
「ああ……」
美佐子の顔に笑みが浮かぶ。
「お父さん、『北の国から』好きだったもんね」
「そうそう」
次女も頷く。
「だったら、今度はお父さんが好きだった場所をいろいろ回ってみるの」
美佐子はしばらく黙っていた。
そして、ふっと笑った。
「お父さん、喜ぶかもね」
「絶対喜ぶよ」
長女が笑う。
「きっと『ここも見たかったな』って言うんじゃない?」
「それで、また『腹減ったな』って言うよ」
次女が言う。
三人は一斉に笑った。
「もう、お父さんは何を見ても最後は食べ物なのね」
美佐子も笑いながら言った。
「でも、そういうところがお父さんらしいわ」
車は広い北海道の道を進んでいく。
今回の旅は、もうすぐ終わる。
けれど、不思議なことに、寂しさだけではなかった。
「流氷を見に来て……」
美佐子が窓の外を見ながら言った。
「『北の国から』の場所も見て……」
「うん」
「今度はどこに行こうかって、また考えられるのね」
長女が笑った。
「そうだよ。北海道は広いんだから」
その言葉に、美佐子も笑った。
北海道は広い。
四十年以上前、修一もそう言った。
その言葉を思い出しながら、美佐子は目の前に広がる景色を眺めていた。
昔の思い出は、もう過去だけのものではない。
これから作る思い出の中にも、きっと修一はいる。
「また来ましょうね」
美佐子が言った。
「うん!」
娘たちの声が重なった。
車はゆっくりと釧路へ向かって走っていく。
やがて、遠くに釧路の町が見えてきた。
「釧路に戻ってきたね」
長女が言う。
「旅の始まりも釧路だったね」
次女が振り返る。
「そうね」
美佐子は静かに笑った。
釧路湿原で見た二羽の丹頂鶴。
阿寒湖のマリモ。
霧に包まれた摩周湖ではなく、今度こそ見ることができた青い湖。
神の子池。
野付半島から見た国後島。
知床の森。
知床峠。
羅臼の海。
五日間の景色が、次々と心の中に浮かんだ。
そして、そのどの景色にも、娘たちの笑顔があった。
「ホテルに着いたら、ゆっくり休もう」
長女が言う。
「明日は東京へ帰るんだもんね」
「そうね」
美佐子は頷いた。
けれど、その表情には旅の終わりを惜しむだけではない、穏やかな笑顔が浮かんでいた。
「また来るものね」
その言葉を聞いて、娘たちも笑った。
車は釧路の町へと入り、三人は旅の最後の夜を過ごすホテルへ向かっていった。




