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第2話 少女市場と呼ばれる街に踏み入れた私達の前には想像を絶する世界が広がっていた

中学2年生の赤嶺優花あかみね ゆか速見葵はやみ あおいは魔法の力を宿した腕輪を手にし、少女買春の現場を目撃したことで「私達はこの魔法の腕輪の力を体を売る世界に流れていってしまう少女達を取り巻いている問題のために使うべきなのではないか」と考える。しかしそこに踏み出すための手がかりはまだ得られておらず、何をすればいいのか迷っていた。


『うーん、児童買春の問題に関わるといっても、私達がその現場を見たのはこの前の一件だけだし、結局どうすればいいんだろう』


「ここでしか取引の場面を見たことがない以上は、今はこの団地のあたりを見回るぐらいしかできることないよね」


優花と葵はそんな会話を交わしながら、昨日少女買春の取引を目撃した団地のあたりを歩いていた。しかしその後は少女買春らしきやり取りを見かけることもなく数日が経った。


手がかりがない以上は他の場所に移っても仕方がなかったため、優花と葵はその後も団地のあたりの見回りを続けていた。そんなある日、一人の少女が二人に声をかけてきた。


「え、あんたら、また何か探してこのへんウロウロしてんの?」


話しかけてきたのは以前に男と買春のやり取りをしていた少女だった。


『え、うん、そうだけど』


優花がそう答えると、少女が少し呆れたような表情を浮かべた。


「はは、こんなとこでウリをやってる女なんてほぼいないよ。私はあのおっさんがSNSでこの団地を指定してきたからここに来ただけだし。私も普段は別のところでやってるよ」


『なんかそういう、あなたみたいな子達が集まってるような場所があるの?』


「ああ、このへんだとみんなヒナ裏ってところにいるよ」


『ヒナ裏・・・?』


「んー、東京の歌舞伎町にあるトー横とか大阪にあるグリ下みたいなところだよ」


『そうなんだ・・・』


「ま、でも来ないほうがいいと思うけどね。特にあんたらみたいな“普通の”女はね」


少女の言葉を聞いて、葵は「そういうところに行って大丈夫なのかな」と不安を感じていたが、優花は「それでも、もうこの問題に関わってみるって決めたんだし」と気持ちが揺らぐ様子はなかった。優花はヒナ裏がどこにあるのかを調べ、近いうちに葵と二人でそこに足を運んでみることを決めた。


そして約束の日、二人はヒナ裏と呼ばれているところの近くまで到着すると、そこにある橋の上からそれらしきやり取りが行われていそうな場所を探していたが、すぐに若い少女と中年ぐらいの男達ばかりが不自然に会話をしている一帯があるのを見つけた。


『あれって・・・もしかしてみんな“そういう意味”で集まってるの?』


あまりにも普通に“そうとしか見えない”やり取りがあちらこちらで行われているのを見て、優花と葵は青ざめていた。


「いや、うん・・・私達ぐらいの年齢の子を買おうとする男の人達がいるということは知っていたけど、こんなに当たり前のように行われているものなの?」


それは優花や葵のようなごく普通の生活を送っていた少女には全く想像できない光景だった。「私達なりにできることをやるべきではないか」という決意は固めていながらも、自分達とは全く違う世界が存在することを、そしてその世界の中で生きている少女達がいるという現実を受け止めきれないまま二人をそこをじっと見つめていた。


「なんだ君達、ヒナ裏をそんなに眺めて」


『あ、あ、いや、別に見ているわけじゃないです!』


そこを通っていた男性に急に話しかけられ、優花は焦りながら否定したが、彼はそのまま話を続けた。


「ここはね、“市場”なのさ。少女を売り買いするためのね。彼らは野菜や肉を選ぶかのようにここに来ているのさ。ここに並んでいるのがとりわけ“新鮮”だからという理由でね」

「だからここじゃみんな、あそこを“少女市場”と呼んでいるよ」


その男の言い回しがあまりに衝撃的であったがゆえに、優花は何か言わずにいられない感情に駆られて言葉を返した。


『でも、人間は野菜や肉じゃありません。新鮮なんて言葉で表現するものじゃないと思います』


「そう、君の言う通りさ。あそこに来ている男達はここにいる少女を人間とは見ていないのさ。“モノ”としか見ていない。だからここは“市場”なのだよ」


男はそう言うと立ち去ったが、優花と葵は男の言葉が頭の中をグルグルと駆け巡り、何も言えないままそこに立ち尽くしていた。しかし30分ほど経った後、二人は「それでも私達はここに足を踏み入れてみるべきだと思う」と気持ちを固めてヒナ裏へと入っていった。


すると、入って数分もしないうちにそこにいた男の一人が優花に話しかけてきた。


「見ない顔だね、3でどう?」


それが買春の持ちかけであることは何となく理解できていたが、優花は男の言う「3」の意味が分からず「“3”って何ですか?」と聞き返した。


「なんだ冷やかしかよ。ここは悪ふざけで来るところじゃないんだよ」


男は優花をにらみつけながら言葉を吐き捨てて他の少女に話しかけに行った。


『ここに来るだけでこんな当然のように、買春の話を持ちかけられるものなの?』


さっきからこの場を見ていたときから、ここで少女買春の取引が行われていることは頭ではわかっていたが、いざ自分に対して数分も経たないうちにそうした声がかかったことに優花はひどく混乱していた。これまで自分が生きてきたのとは全く違う世界へと今自分が入っていることを嫌でも理解せざるをえなかった。


優花と葵は男から声をかけられないように警戒しながらも、ここにどういった状況の少女が集まり、ここに流れている空気がどのようなものなのかを感じ取ろうとあたりを見回しながら歩き回っていた。しかしそうした素振りを見せながらこの場に来ている二人に対し、少女たちの間では「あいつらいったい何しにここに来てんの?」という不快感が広がり、優花と葵に対していら立ちを見せるようになっていった。


そして少女の一人がにらみつけるような表情で二人に話しかけてきた。


「あんた達、ここでは見ない顔だね。しかもウリに来たわけじゃなさそうね」

「私達は遊びでここにいるわけじゃないんだ。興味本位で来てるのならさっさと帰ってくれる?私達は見世物じゃないんだ」


少女がいら立っていることは二人とも感じていたが、それでも何かこのヒナ裏という場所や少女達の心境などを聞き出したいと思っていた優花はおどおどしながらも言葉を絞り出した。


『えっと、みなさんはここであの男の人達に体を売ってるのですか?』


「ああ、そうだよ。で、だから何?」


少女は吐き捨てるように言った。とても何かの情報を聞き出せるような雰囲気ではなく、優花は何を言えばいいかわからなくなっていた。しかし何も言わないわけにもいかないと、とっさに思い付いた言葉を口にした。


『どんな事情があるのかはわからないけど、体を売るのは良くないと思う・・・』


その優花の言葉を聞いた瞬間に少女の表情は急に険しくなった。


優花自身も言うべきではない言葉を言ってしまったことはわかっていた。団地で買春の取引をしていた少女に言ってしまい、後悔した言葉そのものだったから。


少女は呆れた表情を見せながら乾いた笑いをした。


「あぁ、そういうことを言いにきたんだ」

「そういうありきたりな説教をしてくる奴等はもうたくさんなんだよ」


少女は顔を傾けて少し考えてから、優花に問いかけた。


「ねぇあんた、ここに来てる男から『100万円出すよ』と言われたら体を売るかい?」


『まさか、絶対売りません!絶対に嫌です!』


優花がそう答えると、少女は冷ややかな笑みを浮かべながら話した。


「私らだってあんたと同じぐらい嫌さ」


「誰が私らみたいな年の女を金で買おうとするおぞましい男に喜んで体を売るもんか」


「あんたみたいな“普通の”女や男達は私達が男をもてあそんで楽に金を稼いでるとか言うけど、

人としての大事なものを切り売りして生きてるってことは、私達自身が一番わかってんだよ」


「でもな、ここにいる女はそうしない限り生きていけないんだよ。飢え死にしないためには腐った肉でも食わないといけないんだ」


体を売ることをとがめるような言葉が、ここにいる少女達には全く響かないどころか、むしろ傷口に塩を塗ることにしかならないことは優花もわかっていた。そうであるがゆえに、優花は消え入るような言葉で『ごめんなさい・・・』と口にすることしかできなかった。


そんなとき、別の少女がそこに割って入ってきた。


「まぁ、それぐらいで許してあげなよ」


「なんだアイナか。私も別にもういいんだけどね。とりあえずここから出て行ってくれればさ」


止めに入ってくれたのは団地で会った例の少女であった。


『アイナさんっていうんですね、ありがとうございます』


「だからここには来ないほうがいいって言っただろ」


アイナの仲裁もあって、優花と葵はヒナ裏から離れて橋の上に戻ってうつむいていた。


「どうする? 今日はもう家に帰る?」


憔悴している優花を見て、葵が心配して声をかけた。


『いや、もう少しこのあたりを見て回っておこうと思う。今日はもうヒナ裏のところには行かないけど』


「うん、わかった」


団地で出会った少女から情報を聞き、ヒナ裏へと足を運んだ優花と葵だったが、そこは少女買春の取引が当たり前のように行われている場所だった。二人は自分が生きてきたのとは全く違う世界が存在し、そこに生きている少女がいるという現実に打ちのめされていた。そして通りすがりの男が言った「ここは“市場”なんだよ、ここに来てる男達は少女を“モノ”としか見ていない」という言葉が優花と葵の頭の中をずっとグルグルと巡っていた。


(第3話に続く)

登場人物紹介

赤嶺優花:本作の主人公の一人。魔法力を宿した赤い腕輪を手にした中学2年生。感情の起伏がやや大きいが、意志はとても強い

速見葵:本作の主人公の一人で、優花の親友であり同級生。魔法力を宿した青い腕輪をつけている。性格は優花に比べるとやや冷静

フェアル:魔法の力を宿した腕輪を優花と葵に託した妖精。魔法の腕輪をつけている人にだけ姿が見える。優花と葵と出会って以降はつねに二人に同行している


アイナ:優花と葵が団地で出会った少女。家出をしてヒナ裏で体を売りながら生活している


用語紹介

ヒナ裏:現代日本でのトー横やグリ下のような、体を売りながら生活する家出少女が集まる場所。少女買春をしようとする男も多数来ている

(註:ヒナ裏の名前は「日なたの裏にある場所(=日の当たらない場所)」という意味から)

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