第1話 妖精から魔法の腕輪を託された私達の運命は、体を売る少女と出会って急速に動き出した
これはごく普通の生活を送っていた二人の中学2年生の少女達に起きた話である。赤嶺優花と速見葵の二人は小学生時代からの親友同士で、この日も二人で放課後に遊んだ後、近所の団地のあたりを通って家へと向かっていた。
いつものように他愛もない会話をしながら歩いていた二人だが、葵が何かを見つけたように立ち止まってどこかを見つめている。
『どうしたの?』
優花がたずねると、葵が草むらのあたりを指さしながら答えた。
「ねぇ、あそこで何か光ってない?」
『ホントだ、何だろう、赤いものと青いものが光ってるように見えるね』
「ちょっと見に行ってみようよ」
二人はその光っている何かが落ちている草むらへと足を運び、落ちているものを見ながら葵がつぶやいた。
「何これ? 祭りの屋台とかで売ってるような光る腕輪みたいなのが落ちてる」
『赤いのと青いのが一つずつ・・・でも安っぽい感じじゃなくてもっと上品というか』
二人は赤と青の腕輪を拾い上げ、少し考えた後、葵が優花に腕輪をつけてみようと提案する。そして優花が赤の腕輪を、葵が青の腕輪をつけると、手が軽くなるような感覚が二人を包むとともに、腕輪はその明るさを増してきた。
すると、二人に向けてどこからか声が聞こえてきた。
「腕輪が選んだのは君達だったみたいだね」
二人が驚きながらあたりを見回すと、目の前に20cmほどの大きさの淡い光を帯びた奇妙な生き物が浮いていた。
「え、何? 蝶と人間がまざったような変な生き物がいる!」
葵は驚いて声を上げ、優花はおそるおそるその生き物へと話しかけた。
『今私達に話しかけたのはあなたですか?』
「そうよ、その腕輪をつけた人にだけ私の姿が見えるのよ」
『あなたはいったい何なのですか?』
「私はある星からやってきた妖精のフェアル。別にあなた達を悪いようにしようというわけじゃないわ」
警戒する素振りを見せながら優花と葵は顔を見合わせ、優花がポツリとこぼした。
『でも嫌な予感しかしないんですけど』
「そういうこと言わない」
葵が軽くたしなめる。すると二人を安心させようとフェアルが優しい口調で語りかけてきた。
「心配しないで。別に魔物が来るから戦いなさいとか、特別な使命をあなた達に与えるからそれを果たしなさいとか言いに来たわけじゃないの。その腕輪には様々な魔法の力が備わってる。すなわち、あなた達は魔法少女としての力を得たのよ。そこであなた達なりに考えた“いいこと”をするためにその力を使ってほしいの」
優花は言葉を詰まらせながらしばし考え、口を開いた。
『いいことって・・・家事の手伝いとかですか?』
「そういう“いいこと”じゃないと思うな」
二人が戸惑っているのを見て、改めてフェアルが語りかけた。
「そうね、少し難しく言うなら、何でもいいから世界を少しでもいい方向に導いてみてほしいの。あなた達なりの考えで」
『でも・・・何をすればいいかなんて全く思いつかないんですけど。私達ただの中学生ですし』
「別に何をするか、今すぐに決めなさいと言うつもりはないわ。その“何か”をあなた達の中で見つけたときでかまわないから」
二人はフェアルが言いたいことは理解できたものの、まだ「世界を少しでもいい方向に導くような、自分達なりに考える“いいこと”」のイメージは全く湧かなかった。しかしフェアルが「腕輪があなた達を選んだ」と言ったように、自分達がこの魔法の腕輪の力を何かに役立てないといけないということは感じていた。
そして戸惑いを隠せないまま、これからどうするか、自分達はいったいどんなことをすればいいのかを考え、会話を交わしながら、優花と葵の二人は団地のあたりをうろうろと歩き続けていた。
葵はさっきから団地のあたりで怪しげな行動をとっている中年ぐらいの男が気になっており、何やら警戒心を抱いていた。
「ねぇ、あそこにいる男、さっきからいろんな中学生ぐらいの女の子にばかり話しかけて回ってるんだけど、なんだか怪しくない?」
『このあたりで見たことのない人だよね。ナンパだとしても普通こんな団地でするのはおかしいよね・・・』
「あ、ちょっと待って!」
葵は何かに気付いたようで、その男の行動を凝視している。男はある女子中学生に話しかけてすぐに「やっと見つけた」と言わんばかりの表情を見せ、その少女と会話を続けている。
そしてその中年の男はその少女を連れてどこかに向かって歩き出した。
「ねぇ、あれって・・・」
何かを感じた葵は困惑したような表情で言葉をこぼした。
『うん、噂には聞いていたけど・・・』
優花も葵の気付きに同意し、二人とも「これは少女買春なのではないだろうか」と感じていた。
「止めたいけど、確証がないし・・・」
そう葵がつぶやいたとき、そばにいたフェアルが答えた。
「魔法の腕輪を使ってごらん。魔法の力で聴覚を鋭敏にして遠くの会話を聞き取るのよ」
「そんなことできるの?」と驚きつつ、二人は魔法で聴覚を高めてその男と少女の会話を聞き取り、これが少女買春であることを確信した。
「止めに行こう!」
葵はそう決断したものの、優花は少し迷った表情でつぶやいた。
『でも私達が止めに行って、あの男が暴れたりしたら止められるかな・・・』
「問題ないわ。腕輪の魔法の力で腕力も自由にコントロールできるから」
フェアルがそう諭すと、優花も心を決めてその男と少女のところへと向かって男に声をかけた。
『ここで何をしてるんですか? あなたがその子に買春の誘いをかけているのを私達聞いてたんですけど』
男は焦った表情をして「チッ」と舌打ちをしながらその場から逃げていった。
『良かった・・・』
男が特に抵抗してこなかったことに二人が安堵していると、少女は二人のいるのとは違う方向を向きながら不機嫌そうに口を開いた。
「はぁ、数日ぶりに稼げるチャンスだったのに。おかげで台無しだわ」
予想外の少女の言葉に戸惑う二人だったが、少し考えてから優花が彼女に言葉をかけた。
『いくらお金が欲しくても、体を売るとか、そんなことしないほうがいいよ』
その言葉を聞いた少女は怒るでも悲しむでもなく、生気のない目をしながら表情を変えずに言葉をつづけた。
「ははは、遊ぶ金欲しさの“パパ活”でもしてると思ってる?
あんたら“普通の”女達はそんなふうに思えていいね」
優花と葵が「え・・・」と言葉を詰まらせていると、少女は小さな声で「これで今日は野宿確定だわ」とこぼし、そのままそこから去っていった。
それから数分ほど優花と葵の二人は黙ったままそこに立ち尽くしていた。そして優花が言葉をこぼした。
『私達、いいことをしたって言えるのかな?』
「わからない・・・。でも私達と同じぐらいの年の子が体を売るのを見て見ぬフリをするのが正しいってことはないと思う。ただ・・・今日のやり方がよかったのかどうかはわからないけど」
『そうだよね・・・』
二人は近くのベンチに座り今日の出来事のことをずっと考えていた。今日の自分達の行動が正しかったのかどうか、それには答えが出せないながらも、二人はおぼろげながらも一つの結論にたどりつこうとしていた。
『どういうやり方をすればいいのかなんてまだ全く分からないけど、ただ・・・この、私達と同じぐらいの年代の子が体を売って、そしてそれを買おうとする大人の男がたくさんいるっていう・・・そういう現実と向き合うことが、この魔法の腕輪を手にした私達がすべき“何か”なんじゃないかな』
「うん・・・私もそう思ってる」
こうして、腕輪から魔法少女としての力を得た二人はそれまで自分達の生きている世界とは無縁だった少女買春の現場に遭遇したことで、腕輪の魔法の力を使いながらその深い迷宮のような少女買春を取り巻く世界へと歩みを進め、「私達はそこで何を為せばいいのか」という答えを探していくこととなった。
(第2話に続く)
登場人物紹介
赤嶺優花:本作の主人公の一人。魔法力を宿した赤い腕輪を手にした中学2年生。感情の起伏がやや大きいが、意志はとても強い
速見葵:本作の主人公の一人で、優花の親友であり同級生。魔法力を宿した青い腕輪をつけている。性格は優花に比べるとやや冷静
フェアル:魔法の力を宿した腕輪を優花と葵に託した妖精。魔法の腕輪をつけている人にだけ姿が見える。優花と葵と出会って以降はつねに二人に同行している




