8.ストップ観月
ソファーに並んで座ったあたしたちは、ワインを片手に乾杯する。ぶつかったグラスは、チンと小気味よい音を部屋に響かせる。そして、グビッと一口――
カーッ! やっぱお酒は美味いっ! 生き返るぅ!
「あまり、強くはありませんので、お手柔らかにお願いします」
そう告げて、微笑んだエレーナ様に、あたしはとっさに答える。
「いえっ! こちらこそっ! ところで、ずっと気になっていたんですけど、エレーナ様って、おいくつなんですか?」
場の勢いか、いきなりセンシティブなところに切り込んだ駄目駄目なあたし。何やってんの、もうっ!
「そのようなことを気になさるのですか、違う世界では。わたくしは、齢16になりました」
ヒェ〜、やっぱ眩しいわけだ。あたしだって、その頃は輝いてた、よ、たぶん? はずだと、思うよ? ……ごめん、嘘つきました。引きこもってました、キラキラしてません。
「先日お話いただいた電、車? でしたか? それは、この世界に作ることはできないのでしょうか? たくさんの人を一度に乗せて動く部屋なんて、とても夢のある話で、わたくしも見てみたいと思っています」
「あ〜…… えっと、たぶん、作るのは難しいと思います。電気というエネルギー…… なんて言えば分かりやすいかな。あっ! 電気という名の魔力が必要で、それを常に供給し続けなければいけないんです」
あれ? 言ってて違和感に気付く。電気って言葉を魔力って言葉に置きかえる必要なくない? 魔力で走る電車にすればいいだけで、それなら、この世界でも実現可能なんじゃ……
「……難しいのですね、残念です」
悲しそうに俯いたエレーナ様は、頬がやや紅くなっていた。かくいうあたしは、お酒に強くはないけど、まあまあ飲む。
「話は変わるんですけど、ミラちゃんを紹介してくれてありがとうございます」
「いえ…… 大丈夫でしたか?」
「全然っ! あんなレベルじゃない人をたくさん見てきたので」
ちなみに、アニメでだけど。
「どうですか、ぴかりんの力になれそうですか?」
「魔導具って面白いですよねっ! そう言えば、ミラちゃんとリネちゃんからいろいろ聞きました――」
二人から聞いた話に加えて、あたしはエレーナ様を応援してると伝えた。すると、彼女は嬉しそうにニコりとすると――
「ありがとうございます。険しい道なもので、応援していただけるだけでも……グスッ……」
エレーナ様の肩が震える。そして、泣き始めてしまった。辛かっただろう。苦しかっただろう。あたしにも、そのくらいは分かるよ。
ついついエレーナ様の頭を撫でてしまう。やっちゃったっ!
「……ふふ、頭を撫でられるなんて、いつ以来でしょう。気持ちがいいので、続けてください」
「ええっ!? い、いいんですかっ!? じゃあ……」
涙を拭いたエレーナ様があたしを優しく見つめる。潤んだ瞳に紅い頬、プルンとした唇。酔ってるせいか、少しパジャマがはだけて、覗くふくよかな胸の谷間――
ゴクッ。エロ過ぎでしょ。あたし、そっち系じゃないのに、お酒の勢いもあってか、なんかムラムラしてきちゃった――
「え、エレーナ様……」
プツン―― わぁぁぁぁぁぁっ! ちょっと待ってちょっと待ってぇぇぇぇっ! 今、観月はヤバ過ぎだからぁぁぁぁっ!
「……はてさて」
降臨しちゃった観月は、髪ゴムを外し、髪を振り乱し、唇をチロリと舐める。そして、サラリとエレーナ様の背中に手を回す。ちょっとぉぉぉぉっ! それ以上は、マジで無理だからぁぁぁぁっ!
「エレーナ姐さん、お綺麗でありんすなぁ」
「え? ぴ、ぴかりんっ!? 顔が近くありませんかっ!?」
またしても、サラリとエレーナ様の唇を撫でる。
「そんな無防備な姿を見せられては、わっちも我慢できなんす――」
やめてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!
あたしの叫びは届かず、観月はエレーナ様を押し倒した。ボフッと音を立ててエレーナ様の体がソファーに沈み、ハラハラと髪が広がった。
ちょっと待ってぇぇぇぇっ! 見たい気もするけど。いや、駄目駄目無理無理。
「……ぴかりん? 酔っているのですか? ふふ」
押し倒されたのに、普通にあたしの頬を撫でるエレーナ様。バブい、バブいよ、天然小悪魔ぁぁぁぁぁぁっ!
「無垢でありんすなぁ。そこもまた愛おしんす……」
観月が唇を近づけたその時――
コンコンッ!
「……エレーナ様っ! エレーナ様っ!」
この声はリネちゃん。助けてっ! 観月を止めてっ!
「……エレーナ様っ! 入りますっ!」
バタンッ!
勢い良く扉が開く。現状を見つけたリネちゃんは、目を丸くしている。それにしても、ギリギリのところで止まって良かった。ホッ――
「……ぴぴぴぴぴ、ぴかりんっ! 貴女は何をしているんですかっ!」
今度は怒りを顔に浮かべながら、リネちゃんが駆け寄る。そして、押し倒されているエレーナ様を守るように、キツいタックルで観月を引き剥がす。観月は吹き飛ばされ、床に転がる。
「惜しかったでありんすなぁ……」
ニヤリと笑うと、体をあたしに返した。どうするのよ、この状況……
「大丈夫ですよ、リネット。わたくしは、何事もありません」
「……そんなはずありませんっ! 現にエレーナ様に、ぴかりんが覆いかぶさっていましたっ!」
エレーナ様は、全く気にしていない様子で、リネちゃんにお酒を飲んでおしゃべりしていただけだと、クスクス笑っている。ほんとにエレーナ様って優しくて、可愛い。好き♡ 尊過ぎる☆
リネちゃんに弁解大変そうだなぁ。手を出すならって、ナイフ出してたし、怒ってるだろうなぁ……
でも、良いものが見れたから良しとしよう。眼福眼福ぅ〜♪




