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6.初めての推し活

 昨日はあの後、リネちゃんとミラちゃんからいろんなことを聞いた。


 聖女システムの闇…… マジでエグい。


 一見、神秘に包まれた高潔な役割に見える聖女という看板の裏側が、ここまでドロドロの腐敗臭を放っているなんて、誰が想像できるだろうか。

 まず、何がエグいって、エレーナ様は、国中から偽りの聖女と呼ばれているという事実。

 あんな優しくて、可愛い笑顔であたしの話を聞いてくれる女神様が、そんなはずない、と思いながら話を聞いてた。

 あたしは自分の直感だけは信じている。エレーナ様の瞳に宿る透明な輝きは、欺瞞に満ちた人間のそれじゃない。

 打算や保身で動く人間があんな綺麗な顔で笑えるわけないし、もしそうならあたしの美少女センサーがとっくに警告を鳴らしているはずだ。


「……真実は違うんです。実は」


 リネちゃんの口から語られる物語。聞いてみれば、うん、やっぱ大正解だった。さっすがあたしの審美眼っ! あたしの推しに間違いはなかった。


 エレーナ様とリネちゃん、ミラちゃんは、同じ代の聖女候補だったそうで、一番魔力の高かったミラちゃんが聖女で決まったんだって。

 だけど、ミラちゃんの家では、新しい子どもが産まれる直前で、問題は山積みだった。ここは現代日本じゃない。抗生剤もなければ除菌の概念も希薄な、赤ちゃんが簡単に死んじゃう世界。

 ミラちゃんは、自分の役割の重さを理解しつつも、どうしても家族のそばに居たい、産まれてくる命をこの目で見守りたいとエレーナ様に零したんだって。


 そしたら、エレーナ様は黙って聖女に立候補して、ミラちゃんを自由にしてくれたんだって。魔力が足りないことを承知の上で、友人の幸せを優先して、死の未来すらチラつく聖女という生贄の座を奪い取った…… いや、肩代わりしたんだ。

 さすが、女神様。尊過ぎ。


 でも、そのせいで世間では、ミラちゃんから地位を横取りした強欲な女、偽りの聖女なんて言われちゃう。

 真相を知らない民衆は、エレーナ様の献身を、権力への執着と読み替えて石を投げる。


 さらに最悪なのは、本来、守ってくれるはずの王国政府だ。これまでの聖女たちが嫌々乗り越えたであろう、洗礼とも言える吐き気のするシステム――


 国王に抱かれる。


 これ、生物学的に言ってもただの生殖行為の強要だよね? 聖女の血を王家に残す、とかいう、聞こえの良い大義名分を盾にした、最低最悪のハラスメント。


 それを頑なに拒否しているため、国王に毛嫌いされているエレーナ様を誰も庇わないらしい。

 だから、今のエレーナ様は、国民からも政府からも、そして王からも孤立した、まさに四面楚歌の聖女様なんだ。


 しかも、嫌がらせはそれだけに留まらない。

 聖女のための杖と衣も使わせてもらえないそうだ。それを使えば、魔力は3倍くらいになるのに、あえてそれを奪うことで、エレーナ様の召喚の儀を、失敗に追い込んだとも言える。


 えぐっ、えぐっ、エレーナ様、可哀想……


「せやから、うちは誓ったんや…… 命のある限り、エレーナを守るって…… あの子が捨てた自分の人生、どんな手を使っても壊させやしない」


 ミラちゃんの燃えるような瞳は印象的だった。半分マスクで隠れているはずなのに、その熱量だけは、あたしの皮膚を焼くほどに伝わってくる。


 あの熱を測るおでこにピッのやつは、魔力測定具って言うらしくて、試しで測らせてもらったら、ミラちゃんは紫色、リネちゃんは黄色に液晶みたいな部分が光ってた。話を聞くと、エレーナ様は青で、緑やオレンジ、一番魔力が低いのが赤なんだって。


 これって、完全に電磁波のスペクトルだよね。

 それにおいて、赤は波長が長くエネルギーが低い。逆に紫は波長が短く、エネルギーが極めて高い。

 つまり、この世界の魔力というエネルギーも、電磁波と同じように周波数によってその強度が定義されている可能性が高い。


 ちなみに、魔力測定具のメカニズムは、作った人が死んでしまったため、分からないらしい。ブラックボックス化されたロストテクノロジー。ヒントになりそうだったのに、もどかしい。


「うちはあんたに協力するっ! せやから、あんたはうちらに協力するんやっ! ええか、怪しい奴を近づけない、それだけでかまへんっ!」


 という訳で、あたしもチームエレーナに加わることになった。あたしは、魔法が使えない。だけど、あたしには科学知識がある。


 あの尊みの塊、エレーナ様を殺されてなるものか――


 こうして、この世界で、初めての推し活が始まるのだった。


◇◇◇


「とはいったものの〜」


 客室ベッドでゴロゴロしながら、あたしは何も手つかずだった。昨日までの高揚感はどこへやら。いざ、具体的な行動に移そうとすると、頭でいろんなことを整理しているうちに、脳がオーバーヒートして面倒になってきたり。これ、あたしの悪い癖なんだよね。理論を組むまではいいけど、実装のフェーズで途端にモチベーションがゼロの境界線をさまよい始める。


 守るって言っても、現状のあたしは魔力ゼロ、人脈ゼロ、ついでに体力も平均以下。家の中に敵がいるわけで、下手に動けばスパイのイケオジ執事に怪しまれて、そのまま、処理される未来しか見えないんですけど。


「はぁ…… あたしも一応リケジョとして、この詰み状況をどうやってハックするべきか……」


 天井の豪華なシャンデリアを眺めながら、あたしは大きくため息をついた。

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