34.制服支給
翌日、あたしはしたためた手紙を持って、エレーナ様の屋敷を訪れていた。
コンコン―― しばらくすると、ガチャと扉は開き、アイリーンちゃんが現れる。
「貴女は…… 何の用でしょうか? あいにくエレーナ様は公務で外出しております」
少し警戒しているような目で、あたしを見つめる。先日は話の聞こえる距離ではなかったとはいえ、目の前でエレーナ様を泣かせ、激怒させていた相手だ。快くは思わないよね。
「えっと、この手紙をエレーナ様に渡してください」
「かしこまりました」
「それと、アイリーンちゃん」
「?」
「エレーナ様を大切にしてね」
「当然です」
「ふふ、元気でね」
あたしは、屋敷を後にして研究所に向かった。持って行くものなんて、1つしかない。
「よいしょっと」
明智アーマーを着用する。フルチャージなので、白くキラキラ光っていて、歩き回るのは少し恥ずかしい。そんな事も言っていられないか。
街道沿いを歩き、南の砦に着く。南門で兵士に声をかけられたが、この先は危険だという助言だけだった。その後は、すんなりと出してくれた。
少し南下した頃、視界の先でひらひらと手を振る派手なツインテールのコスプレイヤーがいる。
「ほんま派手やな〜、明智アーマーは。羨ましいわ」
「あは、派手好きのミラちゃんにはぴったりかもね」
「せやろ? うちにも作ってもらえんやろか?」
「いいけど、使う? だって、魔法で十分でしょ?」
「そらそやけど、うちの魔法でも一撃で超級は仕留められへんで?」
「そうなの? なら作ろうか?」
「頼むわ〜」
2人で向かってるのはもちろん、魔王城――
「ようこそ、ぴかりん。心から歓迎するよ」
爽やか過ぎて、歯がキラリンッてなってるように見えるんですけどっ! てか、イケメンッ! やっぱイケメンッ! 超絶イケメンを超えた悶絶イケメンッ! 見てるだけで腰が砕けそう…… 魔王城に到着したとかどうでもよくて、好きですっ! 好きにしてくださいっ!
「……ぴ、ぴかりん、僕には聞こえていることを忘れないでもらえるかな、はは」
「あ……」
やっちゃったぁぁぁぁぁぁっ! どうしよぉぉぉぉぉっ! めっちゃハズぅぅぅぅっ!
「だから、丸聞こえなんだよね、ふふ」
「レムの旦那、聞こえるって何のことやねん。うちだけ、蚊帳の外は勘弁してーや。うちも混ざりたいんやっ!」
「ああ、ミラージュくん。ごめんごめん。実は、僕にはぴかりんの心の声が全部聞こえるんだ」
「は? ほんまに?」
「うん。君の心の声は、聞こえていないのにね」
「何やねん、そないおもろい話、旦那だけズルいやんけっ! うちもぴかりんの思考、盗み見したいやん、こっそり教えてん」
「ちょちょちょちょちょっとっ! 魔王さんっ! ミラちゃんにあたしが考えたこと、言わないでくださいよ?」
「あはは、もちろん、言わないよ。個人の思想の自由は尊重されるべきだからね。それと、僕のことはレムレスと呼んでもらえるかな? 人間に付けられたその名は、あまり好きじゃないんだ」
「ああ、ごめんなさい、レム、レス、様……」
名前を呼ぶと、余計に生々しく、存在を認識するようで、何だかとても恥ずい。そして、この思考が漏れていることを思い出すと更に恥ずい。恥ずいのエンドレスループ。
「はは、君は面白い人だね、ぴかりん」
ずっきゅぅぅぅぅぅんっ! 無理、供給エグい。普通でいられないっ!
「何をクネクネ悶えとんねん、ぴかりん」
「ミラージュくん。ひとまず、ぴかりんの部屋に案内して欲しいんだけど、いいかな?」
「ええで。ほな、ぴかりん、行こか」
◇◇◇
「エレーナの客間ほどやないけど、なかなか豪華なもんやろ?」
案内された先には、なんと近代的な1LDKだった。トイレも水洗、ベッドはふかふか、ウォーターベッドに近いかも。
「ほんで、これがあんたの制服や」
「制服あるのっ!? でも、ミラちゃん、着てないよ?」
「あんただけ特別や。魔力ゼロやからな。制服に識別魔力を混ぜ込んで、魔物から狙われないようにするんや」
「そんな技術があるんだ……」
「うちの技やないで、師匠のや」
なるほど。魔物が師匠だったから、あの時、答えられなかったんだね。黒い立襟の大きなコート。魔王軍というより、ビジュアル系。
「あれ? ところで、あたしって魔物化するんじゃないの?」
「誰から聞いたんや、そんな話…… 魔物化選べるんは、幹部候補だけや」
「そうなんだ」
「あんたの場合、戦力としてより、技術者、観察対象としての勧誘やからな。魔物化はまずないやろ」
「違うからねっ? あたしが幹部になれるとか思ってた訳じゃないよ? だから聞いたんじゃないからね?」
「言わんでも分かっとる。あんたはそういう輩やない。ほんなら、次は研究所行こか」
「うん」
そのまま、付いて行こうとしたあたしに、ミラちゃんは制服を指さした。
「着てな? せやないと、殺されるで」
「あ、ごめん。うん」
慌てて制服に袖を通した。ヤバ、だいぶかっこつけな雰囲気になっちゃった。まぁ、観月には似合うかな。
長い廊下で1体の女性型の魔物とすれ違う。髪が白くて長く、肌は黒い、水着のような衣装を着たつり目の美人。
「あら、ミラ。新米連れてるね。どの地区担当だい?」
「まだ決まってないんやねん。もし、あんたんところになったら、よろしく頼むで、シルフズメイク」
「あいよ。雑魚は回さないでおくれよ」
それから、しばらく歩くと、光が漏れる扉の前に出た。開けた先には――
「何これ……」




