33.魔王
それから数日――
あたしの周りでは何事も起こらず、平和な時が流れていた。宿屋、町、研究所を気の向くままに移動して、やりたいことをやっていた。
どんな未来を見せてもらったのか覚えてないけど、なんとなくほっこりしたことだけは覚えているから、気持ちも落ち着いていた。
研究所で魔石や魔導具を触っていると、不思議と魔法への興味は再燃する。
「風の魔力は、ほんと使い勝手いいな〜。いろんな生活用品が作れちゃう」
ちまちま気が向くままに作っていた魔導具、扇風機が完成した。ただ、首が回る仕組みはあたしには難しくて、再現できなかった。
「元の世界の科学力って凄かったんだな〜。でも、魔法ってほんとに面白いかも」
魔石粉末を、魔力屋では注入できないため、小魔石で魔力を買っては、色々試す。
「ここじゃ、魔力制限があって大したことができないな〜。あの時もし、国王が協力してくれていたら、違っていたのかな?」
1人でぶつぶつ言いながら、魔石を銅線で並列に繋ぐ。ドライヤーと同じような形に仕上げたそれは、火と水の魔石が繋がっている。スイッチを入れると――
「スチーム…… できるじゃん、蒸気機関車。なーんてねっ! できないできない。Mr.STONEじゃあるまいし、あたしは何でもできる天才じゃないからね、はは」
「なんやねん、みすとーんって」
突然、後ろから声がして、あたしはビクッとなった。数日、1人ですっかりリラックスしていたせいで、驚きも倍だった。
「ミラちゃん、急に現れないでよ、びっくりするじゃん」
「すまんすまん、1人でぶつぶつ言っとるぴかりんが面白くて、観察してもうた、ケラケラ」
「ミラちゃん、これ見てよ」
先ほど完成した蒸気ドライヤーを見せる。
「何やねん、このぬるまったい煙はっ! 何に使うんか、皆目わからんわ」
「え、えっと…… 何に使おうか?」
ミラちゃんがずっこける。
「期待させといて、うちの魔導具と同じ結論やんけ」
「そうだね、ふふ、あはは、あはははは」
何か笑えた。いつぶりに笑ったんだろう。おかしくて、涙が出る。
「あー、おかしい。こんな日々が続けばいいよね」
「せやな、うちもぴかりんがこれから何を生み出すんか気になるしな」
「……魔王に会わせてよ」
「会う気になったんかいな? ええで」
「ありがとう」
その後、少しの間、一緒に魔導具工作をしてから解散となった。ミラちゃんは去り際に――
「たぶんやけど、魔王はすぐ来るで。びっくりせんようにな」
そんな一言を残していった。え、怖いの?それとも、グロいの? え? びっくりしないようにって、どこに対して? 大きさの話? まさか、臭いっ!?
考えすぎて、やっぱ会うのをやめたくなるレベル。マジでやめようかな……
日も暮れて、研究所も真っ暗になった頃、あたしは帰り支度をしていた。
「へ〜、本当に無魔力なんだね」
えっ!? 何、このイケボっ!? あたしは正体を知りたくて、急いで振り向いた。
「君がぴかりんだね。とても可愛らしい人だ」
ずっきゅぅぅぅぅぅぅぅんっ! だ、誰ですか、このあたしの好み100%のイケメンはっ! 足まである銀髪は真ん中分けになっていて、切れ長で色気の溢れる目は、まつ毛も長くてセクシー。ラストファンタジー7のセフィラスのようなファッション。カッコよすぎて死ぬ。しかも、爽やか口調に爽やかな表情。爽やかが大行進してるっ!
「大丈夫かな? 真っ赤な顔をしているけど、熱でもあるのかな?」
歩み寄って来た顔面国宝は、あたしの額にさりげなく手を置く。
ひっ! ひゃぁぁぁぁぁぁぁんっ!
近い近い近い近い。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
「人間は大変だよね。病とも戦わなきゃいけないんだからね。僕もさすがに病は治せないんだ、ごめんね」
え? え? えぇぇぇぇぇぇっ!?
「まさか、ままままま魔王?」
「うん、僕はレムレス。人間からは魔王と呼ばれているかな」
「ひぇぇぇぇぇっ!」
頭が真っ白で何を話そうと思ったか、すっかり忘れてしまった。えと…… ちょ、ヤバい、魔王、いい匂い。近かった身体が離れた際に、髪からふわりと香ったんですけど。
「君のことは、ミラージュくんからたっぷり聞かされているから、よく分かっているつもりだよ。そこで――」
突然、握手を求められる。え?
「僕の元で研究を続けてみないかな? ここの設備より、遥かに良い設備と、いくらでも注入できる魔力を提供できるよ」
いくらでも注入できる魔力っ!? 欲しいっ! でも……
「心配なんだね、聖女エレーナのことが」
エスパーですかっ!?
「は、はい」
「分かったよ。僕が責任を持って彼女を守ろう。と言っても、ずいぶん前に同じ願いをミラージュくんからもされていたから、彼女はずっと安全なんだ。それにしても、ずいぶん愛されてる方なんだね」
すでに守られてた? え、それじゃリネちゃんの死は何だったの?
「その件は、僕が力を与えたフィリップの暴走で予想外だったことと、ある特異な存在を守ろうとして、ミラージュくんの手が塞がったのも原因だね」
「……それって、あたしのせい?」
「いや、正確には僕のせいだよ…… フィリップを見誤ったのだからね。すまない」
てか、今、心を読んだのっ!?
「そうだね。何故か、君の心はほかの魔物のように読めてしまうんだ。もしかしたら、君が…… 特別だからかな?」
「……」
ごめんね…… リネちゃん……




