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32.近い未来

 後ろから聞き覚えのある声がした。振り返ると、そこにはエリザベスさんがいた。


「何よ、やーね。敵でも見るような目をして」

「……敵じゃないんですか?」

「当たり前じゃない。あたしはあんたのこと、応援してるのよ?」


 信用できない。あんなに信じてた人だったのに。あ…… これってエレーナ様が味わったあたしへの思いと同じなのかも。取り返しのつかないことをしちゃったな。


「立ち話も何だし、どうせ行くところなんてないんでしょ? うちの店でゆっくり話しましょうよ」


 あたしは真相が知りたかった。だから、付いて行くことにした。


「つい先日とは、もはや別人ね〜」


 着席するやいなや、そう言われる。あれこれ情報が錯綜してて、あたしはストレスMAXだった。その言葉に苛立ち、感情をエリザベスさんにぶつける。


「……魔王の手先だったんですね」

「あら、ミラージュちゃんはもう教えちゃったのね。そうよ、あたしは魔王の手先よ」

「魔力注入の際、全力だと嘘つきましたよね?」


 あたしの言葉に首を傾げたエリザベスさんが答える。


「あらやだ、あたし、嘘だけはつかない主義なのよ。だって、占い師よ? 嘘ついたら、ただの詐欺師だもの」

「でも、ミラちゃんは、明智アーマーを1人で最大まで注入できていました。魔王の手先なら、それくらい、可能だったんじゃないですか?」


 その言葉に、目を丸くしたエリザベスさんは納得したように笑う。


「あんた、何言ってんのよ。ミラージュちゃんは、魔王の手先でも幹部よ、幹部。そもそも、人である時に計測して紫だったのよ? それが魔物として作り替えられたら、とんでもない魔力量になるのも頷けるわよ」

「……な、なら、何で、討伐隊に参加すると言っておいて、当日に断ったんですか?」

「伝えた通り、王命よ。呼ばれた真っ先に行かなきゃ、首が飛ぶのよ。それじゃ、あたしは死なないけど、今の地位がなくなるのは避けたいわ。それに、ドスケベのバカ国王を相手して、上手く誘導するのがあたしの役目でもあるのよ」


 あれ? 何でだろう。辻褄が合ってる。


「じゃあ、何でエレーナ様を偽りの聖女なんて呼んだのっ!」

「偽りの聖女でしょう? 事情はどうあれ、ミラージュちゃんが継承すべき聖女の力を、本来継承すべきではないエレーナちゃんが奪ったのは事実よ。何かあたし、間違えてるかしら?」


 あたしは、力なく俯いた。この人は、全てに正直なのかもしれない。ミラちゃんの言う通りだった。けど、何かもう、疲れたな。


「1つ、占ってあげるわよ。あたしの占いは本来高いのよ〜」


 水晶玉を持ってきたエリザベスさんは、両手をかざしてその中を覗き込む。しばらくすると、水晶玉が輝きを帯びる。そして――


 パァァァァァァッン―― 部屋中が光に飲まれた。


◇◇◇


 あたしの視界に1人のとんでもなく美しいボブカット風の金髪女性が入り込む。彼女が声をかけてくる。


「ぴかりん、それでね、アイリーンが暗殺学校に通い始めたの」

「そうなの? 強くなってくれるといいよね」

「ね、あの子も魔力量は黄色で、魔法で戦うのは難しいだろうから、生きるすべとして必要よね」

「レーナはほんと、現実的だよね〜。あたしは駄目駄目だ〜」


 その言葉に、満面の笑みで見せた彼女の顔で分かった。この女性はエレーナ様だ。髪はどうしたんだろ? レーナとか呼んで、何か凄く距離が近付いてる気がする。


「よく言うよ。別の世界からやってきて、魔導砲を作ってから、魔王軍の最高司令官になっちゃって…… そのうち、わたしの手の届かないところにでも行くつもり?」

「何それ? レーナとはずっと一緒だよ」


 モヤがかかる。楽しそうなエレーナ様と、もっとおしゃべりしたい。邪魔しないで――


◇◇◇


「ふぅ…… 見えたかしら?」


 あたしのぼんやりとしていた意識を、エリザベスさんの声が起こした。


「……何ですか、今の」


 とても愛おしい時間に思えた。今の関係から考えたら、あり得ない話だけど――


「未来のあんたよ」

「え?」

「いつなのか、まではさすがのあたしにも分からないわ。だけど、そう遠くない未来に必ず訪れるあんたの姿よ」

「そう、なんですか……」


 良かった…… 仲直りできるんだ…… 嬉しくて、涙が止まらなかった。


「良い未来を見ることができたみたいね。ちなみに残念な話だけど、今見た記憶はすぐに消えるわよ。残るのは感情だけかしら」

「……十分です。前を向く気になりました。ありがとうございます」


 あたしは深々と頭を下げる。


「嫌な態度を取ってしまってごめんなさい。よく考えたら、あたしにとって王国側とか魔王側は関係ありませんでした」

「さすが異世界人は、納得が早いわね」

「知ってたんですね、はは」

「まあね、魔王様は全知全能ですもの」

「薄々気付いていたんですが、王国はいくら足掻いても魔王軍に勝てませんよね」

「ええ、絶対に勝てないわよ。国王があれだしね」

「……納得いきました」


 通りで何をしても上手くいかない訳だ。だって、上手くいく道がなかったんだから。


「ふふ……」


 自分の不運さを、鼻で笑ってしまった。前の世界でも運は良くなかったけど、異世界まで引きずるのはズルいよ、神様……


 よーし、決めた。やっぱり魔王と会えるよう、ミラちゃんに頼んでみよう。あたしにとっては、どちら側なんて関係ない。より良い条件を出してくれればそれでいいんだもん。


 とにかく、不運のスパイラルから抜け出して、エレーナ様とのあの未来に向かって頑張るぞ。

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