23.クズ3倍増し
悔しさで思わず掌の中で握り締めた、2つの髪飾りがカチリと音を立ててぶつかる。ヤバい、涙出そう。
「……見せて、ぴかりん」
一つは黄色い亀を模した物と、もう一つは赤い蝶を模した物だった。
それをエレーナ様は、じっと見つめる。
「分かった。黄色がミラージュ、赤がリネットでしょ?」
「凄い。何で分かったの?」
「だって……」
さっきまでの明るい表情は沈み、エレーナ様は俯いた。
「わたしも、同じ物、選んだと思うから……」
ヤバい。こんなとこで2人で大泣きしていたら、注目されちゃう。話変えなきゃ。
「そ、そうだ。知り合った頃のリネちゃんって、どんな人だったの?」
「え? ん〜、出会った時は――」
それから、2時間程度、あたしはエレーナ様とリネちゃん、ミラちゃんの思い出を聞いた。あたしが考えてたよりも、とても深い絆で結ばれていた。
「……そろそろ帰ろう、ぴかりん」
「あ、うん」
帰り道に、人だかりが出来ているのに気付く。気になったあたしたちは、かき分けて前へ出る。これが噂屋という奴か〜。
「号外だぁっ! 町外れの大樹に見せしめのように吊るされていた2つの遺体っ! 何と、行方不明だったフィリップ公爵と、聖女様の屋敷を預かる執事ジェームズだったぁっ! 何者に殺されたのか……」
憎き執事と事件の発端であるフィリップが死んだらしい。殺したのは、きっと……
◇◇◇
屋敷に帰り、着替えが済むといつも通りの凛としたエレーナ様が降臨する。
「とても楽しかったです、ぴかりん。ありがとうございました」
「いえ、あたしもすごく、楽しかったです」
「お陰で気持ちが少し晴れました」
「それは何よりです」
まだ暗さは残るけど、いつものエレーナ様の笑顔がやっと見られた。町ではずっと笑顔だったけど、どこか頑張ってる感じだったから、その様子にホッと胸を撫で下ろす。
「近いうちに新しい執事が、国王より遣わされるはずです。それまでに対策を打たなければなりません」
「対策?」
「はい。ぴかりんが異世界人であることを国王に知られないための対策です」
そうだった。その事は2人だけの秘密だもんね。
「もし、知られてしまえば、国王は必ずぴかりんを欲しがります。たぶん、異世界人との子を成さんと、画策するでしょう」
思わず、ずっこけそうになる。エレーナ様の口から、そんな言葉が出るとは思いもよらなかった。
「それしか考えてないんですか、この国の王は」
「はい。わたくしも再三迫られているのですが、魔法も駆使して拒否しています」
「クズですね。誰か止めないんですか?」
「止められる力を持つ貴族は皆、彼を支援しています」
「あ、セスさんとか?」
「……セスは以前、わたくしを助けようと意見してくれました」
「おお、さすが勇者様ですね」
「……ですが、翌日、妹さんを無理やり陵辱されてしまい、その妹さんはその傷に耐えられず、自殺してしまいました」
聞くんじゃなかった。クズだとは思っていたけど、予想を遥かに上回るド外道なんですけど。
「この国の中で、国王に弱みを握られずにいるのは市井の方だけでしょう。わたくしも、両親が人質となっております」
「……この国を倒しませんか?」
「その影響を受けるのは、無関係な国民なのです。隣国に占領されても酷い扱いを受けるでしょうし、魔王軍に攻め込まれれば、真っ先に命を落とすのは彼らなのです」
「……それは分かりますけど」
「わたくしは、聖女として、この国を守りたいと本気で思っていました……」
エレーナ様はそのまま俯いて、黙り込んでしまった。しばらくすると、ポツポツと語り始める。
「でも、わたくしは守りたい人も守れず、何が守れるのでしょうか。魔物の討伐すら満足に出来ずに、国を守れるのでしょうか……」
「……エレーナ様」
聖女なんて辞めてもしまえばいい、とさえ思う。でも、そうなると暗殺されるかもしれないし、今のあたしじゃ、とても守り切れない。
「もう少し頑張りませんか? あたしが必ず誰よりも強くなってみせますから、その時、一緒に暴れてやりませんか?」
出来るかなんて分からない。だけど、頑張ったら東大合格したんだ。努力するのは得意でしょ? 大丈夫、できるはず。
そんなあたしの言葉に、エレーナ様は目を潤ませる。
「……そうでした。心強い味方がまだ残っていましたね」
「そうですよ。あたしは、国王に握られて困る弱みもありませんしね」
ニコリと微笑むエレーナ様。その笑顔は珍しく、年相応な輝きをしていた。
◇◇◇
翌朝。エレーナ様は変装していた。
「しばらく公務は放棄いたします。わたくしも戦うための準備をしようと決めました」
そういって、早々に出かけて行った。あたしはというと――
「やっぱ、おばちゃんの料理、美味しい〜」
「そうかい、そりゃ良かったよ」
今日はエレーナ様が朝食を作ってくれなかったので…… ってどんな身分だよ。反省しつつ、ご飯を食べにミラちゃんちの宿屋にいた。
「そういや、あんたにミラから言伝されてたんだよ」
「言伝?」
「何かあったら研究所、と伝えれば分かるってさ。何だか、あの子、慌ててたね。何かあったのかい?」
「……何もないよ、おばちゃん、大丈夫」
やっぱりミラちゃん、一人で何かしてるんだね……
「ごちそうさまでした〜、美味しかった〜」
「またいつでもおいで」
お腹もいっぱいになったし、覚悟はできてる。あたしの足は秘密の研究所へ向く。この世界に来て一番通った場所。リネちゃんとミラちゃんで、よく笑い合った場所。そして、あたしが魔石を使った技術革新を起こしていた場所――
そこには、1通の手紙が雑に置かれていた。




