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22.変装

「……ぴかりん」


 夜もふけった頃だった。椅子でウトウトするあたしの耳に、か細く綺麗な声が届く。慌てて、立ち上がって、エレーナ様の元へ急ぐ。


「ぴかりんは無事でしたか、良かったです……」

「はい、大丈夫です。安心してください」


 ホーホーとフクロウの鳴き声が聞こえる。静寂に包まれた部屋。すすり泣きが響く。


「……わたくしが、死ねば、良かったのです、グスッ」

「そんなことないと思います。リネちゃんは、エレーナ様を守れた事を誇りに思ってるはずです…… だって」


 あたしまで、泣けてくる。リネちゃん……


「だって…… リネちゃんは、エレーナ様が、グスッ、大好きだったから、グスッ」

「何でわたくしなんて……」

「あたしも、大好きです、グスッ、それだけ魅力的、なんですよぉ、グスッ」

「でも、もうわたくしは、グスッ、聖女を、続ける自信がありません……」

「リネちゃんの代わりに、あたしが、グスッ、守りますからぁぁぁぁぁっ!」

「ぴかりん……」

「リネちゃんの分まで、グスッ、頑張って、生きましょうよぉぉぉっ!」


 先にあたしが大泣きしてしまった。だけど、それで良かったのかもしれない。つられてエレーナ様も泣き崩れる。満月が照らす静かな夜に、2人の泣き声が響き渡った。


◇◇◇


 翌朝。誰も起こしに来ない。そして、誰も食事を作ってくれない。そんな状態に、目覚めて冷静になったあたしは、愕然とした。どうしよう、エレーナ様のご飯っ!? きっと、お腹を空かせているに違いないっ!

 ベッドから飛び起きたあたしは、朝食の間に向かう。扉を開けたら、寂しそうなエレーナ様がきっと――


「おはようございます、ぴかりん」


 え? あたしはバビッた。エプロンが似合い過ぎてて鼻血が出そう。


「つまらないものですが、作らせてもらいました。一緒に食べませんか?」

「は、はいっ! もちろんですっ!」


 尊みぃぃぃぃぃぃっ☆ 昨日の今日で不謹慎なのは分かってる。分かってるけど、バブいんだもんっ! エレーナ様、マジ天才っ!

 そして、料理も上手っ! 野菜の炒め物とか絶品っ! あたしの嫁になってぇぇぇぇっ!


「あっはぁ〜、エレーナ様ぁ〜、バブい〜」

「ふふ、幸せそうなぴかりんを見ていると…… 嫌なことを少しだけ忘れられます」


 ハッ! 貰ってばっかりっ! 何かないのあたし?


「あっ! そうだっ! エレーナ様っ! 町に遊びに行きませんか?」

「町、ですか……」


 浮かない顔をしている。答えを迷っているみたいだった。何でだろう?


「何か問題でもありました?」

「いえ、わたくしは偽りの聖女と町の方からも嫌われておりまして…… 通行する程度なら問題ありませんが、滞在するとなるとぴかりんが嫌な思いをすると思います」


 あ、そうだった。完全に忘れてた。でも、なら余計、遊んでみたいはずだよね? 良いこと思い付いたっ!


「変装しませんか?」

「変装、ですか?」

「はい、エレーナ様だと分からなければいいんですよね?」

「そうですね」

「なら、任せてください。前の世界では、自前でコス…… いや、衣装を作ってたくらい、裁縫には自信がありますから」


 食事を終えたあたしとエレーナ様はいらない服や布を見繕い、短時間で仕上がるカスタマイズを施す。


「わぁ…… これが、わたくしですか?」


 この時代に合わせて、黒を基調にしたゴスロリ調のリメイクを施した。綺麗な髪も隠せるように、顔も美し過ぎてバレそうなので、半分くらいは帽子に覆われるスタイルにした。あと、気を付けなきゃいけないのは――


「エレーナ様、口調も変えましょう。タメ語で」

「ため、ご?」

「ああ、そうですよね、えっと、対等で同じ年な感じです」

「こういうこと?」

「そうです」

「だったら、ぴかりんもためごだよ」

「うん、そうだね。あと、呼び名も考えなきゃ」

「……リネット、がいい」

「……分かったよ、リネット」


 こうして、あたしたちが屋敷を出たのは、お昼過ぎた頃だった。


 この時間帯の町は、人で溢れている。露天商や飲食店も賑わいを見せる。


「ねぇ、見て。誰もわたしを見ないよ、ぴかりん」

「そうだね。リネットは何か食べたいお店とかある?」


 注目を浴びないのがよほど嬉しい様子のエレーナ様は、露天商を覗いては見て見てとせがむ。


「似合う?」

「うん、とっても。買う?」

「ううん、いらない」


 そうは言っても、大した金額は持ってないけど。すると、少し行ったところのケバブのような食べ物を扱う飲食店に、エレーナ様は入りたいというので、入ってみた。

 そういえば、あたしもこの世界に来て、飲食店は初めてだったなぁ。出て来たのは、まさにケバブ。味もケバブ。美味しい。だけど、お値段は意外に高くて、2人で4,000ロストもした。

 そして、中央に位置する噴水のある公園で、ベンチに腰をかける。


「わたし、知らなかった。こんなに普通が楽しいなんて」

「楽しんで貰えてるみたいで、何よりだよ」


 視界の隅に映った露天商を見て、ハッとなる。リネちゃんとミラちゃんへのプレゼントを買ったお店だ。


 そして、無意識に腰に巻かれた荷袋から、2つの髪飾りを取り出す。


「それは、何なの、ぴかりん?」

「これはね、リネちゃんとミラちゃんにたくさんお世話になっちゃったから…… 昨日、渡そうと思ったら、あんなことになっちゃって……」

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