21.重要な任務
突然、金色の光があたしの眼前を横切った。眩しくて、目を閉じる。次の瞬間、目の前の魔物は塵と化していた。何が起きたの?
「そこの方々、ご無事ですかっ! ……えっ!? エレーナ様っ!? 何故、このような危険地帯にっ!?」
その声と共に現れたのは、忘れもしない。この世界のイケメン代表、勇者セスだった。
「そこの君も、大丈夫ですか? あ…… 君は先日の」
助かったんだ、あたしたち……
「セスッ! どうしたっ!」
「皆さんっ! 聖女様がいらっしゃるっ! 負傷者もいるんですっ! 保護しますっ!」
「「「「了解っ!」」」」
心強い、自信に満ち溢れた声がいくつも聞こえる。1人があたしに回復魔法をかけてくれた。やっぱり凄い。身体中の痛みが消えて、動ける。お礼を伝えて、あたしはエレーナ様の元へ……
「リネット、わたくしを置いていかないでください。貴女にまで置いていかれたら、わたくしはもう、生きることが、できま、せん……」
あたしはその言葉を聞いて、胸が苦しくなり、かける言葉を持っていないことに気付く…… しゃがみ込み、エレーナ様の背中を擦るくらいしかできない。
もちろん、あたしだって、涙が止まらない。さっき回復してくれた人が言ってたけど、回復魔法が効かないのは、死が確定してしまった身体だからだと、申し訳なさそうに教えてくれた。
きっと、エレーナ様もこれを知ってる。だから、諦めた顔をしているんだ。それが、余計に辛かった。
「カハッ……」
「ハッ! リネットッ! リネットッ!」
エレーナ様は、リネちゃんの身体を揺らす。
「え、れ、ーナ、さ、ま」
「え? 何っ?」
片方しかなくなった手が、エレーナ様の手を探しているようだった。それに気付いたエレーナ様は、力いっぱいその手を握る。その手をリネちゃんは、離したくないとでも言わんばかりに指を絡める。
「貴女、の…… も、の、で…… あり、たかっ、た……」
ガクンと力なく崩れたリネちゃんの身体はそれきりピクリとも動かなくなった。
「嫌、嫌ぁぁぁぁぁぁぁっ!」
あたしは無力感と悲しみで俯いてしまった。ここの世界に来てから、何だかんだ平和で楽しい日々だった。だから、忘れていた。本来は、このように残酷な世界であることを……
ザッザッと足音があたしの後ろで止まる。振り返ると、ミラちゃんが立っていた。顔は影になっていて見ることは出来なかったけど、エレーナ様と同じくらい、悲しいはずだ。
「……裏切ったんやな、フィリップ…… 絶対に許さへんで」
ミラちゃんのボソリとした呟きは、声が低すぎて、あたしにはよく聞き取れなかった。
一言も会話がないまま、町の入り口に差し掛かった頃だった。あれ? ミラちゃんがいない?
「皆さん、このまま彼女を…… 弔ってあげませんか?」
セスさんの提案で、一般墓地まで皆が同行してくれた。そして、セスさんがエレーナ様に声をかける。
「エレーナ様…… お連れの方を弔って差し上げましょう」
「嫌」
覗き込むセスさんの顔を見もせず、エレーナ様は力強くそう告げた。
「エレーナ様…… お気持ちは分かりますがお連れの方は亡くなられました」
「死んでない。魔力が足りないせいで回復できないだけ」
「エレーナ様……」
この世界の死の扱いがどんなものなのか、あたしには分からない。だから、下手に口を挟める訳もなく、ただ見守るしかできなかった。
こういう時こそ、ミラちゃんの出番なんじゃ…… 辺りを探したけど、やっぱり見当たらない。どこに行っちゃったんだろう。
そんなあたしをよそに、セスさんたちが何やら話し合っている。皆20代、30代といったところだろうか。
「エレーナ様」
「……」
仲間と合図を交わすセスさん。何をするつもり?
「エレーナ様、お許しをっ!」
ドスッという音と共に、エレーナ様はガクリと脱力してセスさんの腕に抱かれ、首元に置かれた手をそっと戻された。
「若い子が親しい子を失うと、ああなっちゃうのよね」
「仕方ないですけどね。さて、こちらのご遺体は我々で処理しておきますので、セスさんは聖女様を」
「ありがとうございます。皆さん、あとはよろしく頼みます」
セスさんは肩にエレーナ様を担ぐと、今度はあたしを見る。
「ええと、君は」
そうだ、名乗ってなかった。
「あ、あたしは観月ぴかりです。ぴかりんと呼んでください」
「分かりました。ぴかりん、君はどうしますか?」
「あたしは、エレーナ様の屋敷の居候で……」
「本当ですかっ!? 良かった。君にお願いしたい事があるんです」
え、勇者からお願いっ!? あたしにできるのっ!?
「でで、できることなら」
「くれぐれもエレーナ様から目を離さないでくれますか?」
そこから、セスさんは今のエレーナ様は新米冒険者や新米兵士がよくかかる病気にかかったと言い、数日間で自殺してしまう可能性が高いと告げる。
「エレーナ様がご苦労をされていて、亡くなられた彼女が献身的に支えていたという話。僕たちの耳には届いています。その支えを目の前で失った衝撃は、計り知れません」
「……そうですよね。出来る限りのことをしたいと思います」
「彼女は聖女様である以前に、僕にとっては幼馴染なので、本当によろしくお願いします」
あたしは重要な任務を承った。屋敷に着くと、エレーナ様を寝室へ下ろしたセスさんは去り、残されたあたしは、エレーナ様の血で真っ黒に染まった服を脱がせる。それから、身体を拭いて、綺麗な服に着替えさせた。あれ? 執事がいない?




