24.性能実験
手紙には、こう書かれていた。
『ぴかりんへ
うちの秘密の研究所、これからはあんたが好きに使うたってや
その代わりと言っちゃすまんのやけど、エレーナのこと、ほんまに頼む
それから、リネットの仇は、うちが必ず取ったるから任しとき
あと…… うちのおかんのことも、たまには見たってな
もう会えんと思うんやけど、もしまた会えたら、続きやろや
あんたの相棒、ミラージュより』
ズルいよ、ミラちゃん…… そばに居てくれた方が仇討ちより、心強かったのに。
リネちゃんに続いて、ミラちゃんまで失ったら、エレーナ様は辛いよ。何て報告したらいいの……
ため息混じりに宙を見ると、大魔石級の魔力を蓄えて白く光る瓶詰めが視界に入る。
そうだ。この世界は残酷だ。ウジウジ悩んでいる時間はない。昨日の事件で、嫌というほど痛感した。あたしがセスさんのように強ければ。あたしがもっと真剣に魔石研究と向き合って、新しい武器が作れていたら、リネちゃんは死ななくて済んだかもしれないのに――
あたしは、流れていた涙を乱暴に拭う。
「やるぞ、あたし」
まず、何から考えるか。武器の形状? 運用方法?
「理想は…… 近づかれずに倒すこと、かな?」
あたしの体力では、近接戦闘は分が悪過ぎる。だから、剣や槍など、ゲームの五国無双みたいな武器は向いてない。
となると、銃? でも、動く的に当てられるほどの腕はないよ。だって、推し活仲間に誘われてプレイしたフォートマジシャンも、敵に当てられずに終わってたくらいだし。
え? 待って? あたしがまともに使える武器って、存在しなくない?
そう、存在しなかったんだ。なら、創り出すしかない…… 瓶詰めの魔力を眺めながら、ぼんやり考える。
照準が必要だから当てられない。だったら、照準が要らないくらい大きければいいんじゃないの?
待って、それって……
あたしは立ち上がった。当てられないなら、当てなくて済む範囲攻撃にすればいい。
点じゃなくて、面で消す。いや、面じゃなくて、線で全部なくす。
そうだな〜、直径3メートルくらいの砲口? それがあれば、照準なんていらないよね。辺り一面何もなくなるんだから。
「……てかそれ、もはや兵器じゃん」
でも、そのくらいじゃないと、あたしには使いこなせない。魔力もない。体力もない。腕もない。全部ない。だから、全部ない前提で作るしかない。
問題は、そんな大口径のビームをどうやって作るか、だ。
ビーム自体は、雷魔力を粉末に蓄積して、直列接続で実現しそう。だけど、直径3mを目指すと、かなりの魔石粉末が必要だろうな〜。
てか、ミラちゃんがいないのに、魔力注入どうしよう……
ひとまず、今できること――
この粉末魔石瓶に込められたミラちゃんの魔力の全てが、どのくらいのビームになるのか測ることかな。
直線で放電するように構造を調整して、スイッチを組み込んで、外に出る。あの水鉄砲を発射した辺りにやって来た。
この世界でも、距離を測る器具は存在していたため、研究所にあったそれを使い、1mごとに線を引き、20mまで20本の線を引く。
「20mあれば、足りるでしょ」
ひとり呟き、次は発射時の口径を測るために、発射位置に今度は10cm間隔で、20本線を引いた。これでこの魔石粉末瓶1瓶当たりの出力が算出できるはず……
「ドキドキする…… レーザー照射実験みたい」
カチッ。衝撃だった。光が先に駆け抜け、爆音が後から来たのは想定内だったけど、光度と速度が桁違いだった。
口径は10cm弱、距離は20mを軽く超えてしまい、概算では50mほど。地面は焼け焦げ、塵が舞っている。
ミラちゃんの魔力の全てだからね、これくらいの威力は期待してたけど、実物は凄まじかった。
「色々試したいけど、魔力を補充しないと使えないな〜」
白く光っていた粉末は、鈍く紅く色を変えている。
次の課題は魔力注入をどうするか――
「エレーナ様に頼むわけには行かないしな〜。いつ刺客に襲われるかも分からないのに、魔力を空にするわけにはいかないもんね」
あれ? でも、町の人たちって魔導具の魔力注入どうしてるんだろ?
◇◇◇
「魔力注入かい? うちはミラがいたからね、無料で出来たけど、普通は魔力屋で、お金を払って魔力を注入してもらうんだよ。あんた、知らなかったのかい?」
ミラちゃんのお母さんはそう教えてくれて、丁寧に魔力屋の場所も教えてくれた。ミラちゃんの面倒見の良さはお母さん譲りなんだね。
魔力屋の前でまた新しい問題に気付く。粉末化による魔力量の拡大は、秘密の技術だ。魔力屋で注入しては、あっという間に広まってしまうだろう。
「……どうしよう」
噴水公園のベンチで、乏しい頭を必死に使っていた。
「君、ぴかりんじゃないですか」
「あ、セスさん、こんにちは」
セスさんはあたしに近付くと、小声で尋ねて来た。
(エレーナ様は大丈夫ですか?)
(……はい。たぶん、大丈夫だと思います)
「何あの女っ! セス様に馴れ馴れしいっ!」
「キーッ! 許せないっ!」
ひぃ…… あたしは特に好意を寄せてる訳でもないのに、何この敵意の嵐。エレーナ様が言ってたのはこれか〜。
あまりの恐怖に、あたしはわざとらしく他人行儀に、大声で話す。
「えっと、勇者様。秘密厳守で魔力注入していただける方をご存じありませんか? お金はもちろんお支払いいたします」
「魔力注入ですか…… 僕の仲間に1人、魔導具に詳しい方がいますので、ご紹介します」
まさかの渡りに船だった。




