18.粉末化
屋敷に戻ったあたしは、愕然とした。あれだけ焼け焦げていた屋敷が、何事もなかったように元通りだったからだ。
え? この世界の大工さん、ヤバくない?
「おかえりなさい、ぴかりん。ご不便をおかけしました」
そういって迎えてくれたのは、あたしの推しのエレーナ様だった。
うっひょ〜、尊みぃぃぃぃっ!
嫌なことも、全て忘れられる。それが推し活。そして、最高のご褒美が推しとの対面。
「不便なんて、一つもしてませんっ!」
マジで元気出た。それに、ミラちゃんのお母さんも、とても良くしてくれたしね。
「ふふ、そうですか。夕食の準備は出来ていますので、お待ちしています」
「はいっ! すぐ行きますっ!」
そして、この日は和やかに夕食を終え、部屋に戻る。お風呂はちゃんとタイミング見て毎日入ってるからね? 大きな浴槽のある木造のお風呂があって気持ちいいんだよ?
◇◇◇
翌日、朝食前。ベッドの上で、何気なく昨日貰った魔石が目に入る。サイズの割に出力が弱いんだよな〜。形も決まってるから、使い勝手も悪いし。精錬とかできないのかな?
あっ! あたしは閃いちゃった。
朝食を終え、エレーナ様を見送り、いつものようにミラちゃんの研究所に向かう。今日は、リネちゃんが一緒だ。こんなに心強い存在はないよね。
研究所に着くなり、あたしは自分の魔石をテーブルに置き、その辺にいつも落ちているトンカチを手にする。
「ぴかりんっ! あんた何する気やっ! あかんっ!」
止めようとするミラちゃんは間に合わず――
ガシャンッ! 派手な音を立てて、魔石がバラバラに砕ける。
「……気でも狂ったのですか?」
呆れた様子のリネちゃんを無視して、砕けた欠片を更に叩く。何度も砕く。
カシャンカシャン……
サラサラまでは行かないけど、いい感じに粉々になる。
「……どういうつもりやねん。魔石を砕くなんて勿体ないこと、何でしてんねん」
「ふっふ〜ん♪」
不思議そうな表情で見つめるミラちゃん。あたしには確信があった。
「……やはり気が狂ったのですか?」
「狂ってないよ、大丈夫、リネちゃん」
あたしは粉末を集める。そして、棚から適当な小瓶を取り出し、それを入れる。
「ミラちゃん、これに魔力を込めて」
「ええけど、粉々やんか…… 暗雲の轟よ―― って、魔力なんて込められへ…… 嘘やろ嘘やろ嘘やろっ!」
魔石の粉末はそれぞれが雷を纏い、白く眩く輝いて見せた。
「やった、予想通りっ♪」
「考えもせんかったで。まさか、魔石を砕くなんて」
「これなら、色々な形に出来て、これまでの無駄な厚みや高さがいらなくなるから、より機能的な物を作れると思うよ?」
あたしの言葉を聞き流すミラちゃんは、目を真ん丸にしている。
「そんな阿呆なことあるかいな」
「どうしたの? 何か問題があった?」
「ないで。問題はないんや。逆や」
「逆?」
目をキラキラさせたミラちゃんが、鼻息荒くあたしに告げる。
「何倍か分からへんけど、砕いた魔石のサイズで吸収できる魔力の量より増えてるんや」
「マジで?」
思わぬ副産物に、あたしは思考を巡らせた。何で吸収量が増えたの? 表面積が広がったから? そうだとしたら、砕けば砕くほど魔力を吸収できるよね?
物は試しと、先ほど瓶に入れた粉末を更に砕く。砕く。砕く。そして、再び瓶に詰めて、ミラちゃんに渡す。
「また吸収量、増えたか試したいから、魔法をお願い」
「ええで」
ミラちゃんは魔法を唱える。顔が青ざめているのが分かる。そして、あたしを見つめる。
「ぴかりん…… えらいことやで。特大魔石くらいの吸収量になっとる」
「……特大、ですか。領地が持てますね」
黙って聞いていたリネちゃんも、特大という単語に目を見開いていた。
「そんなに凄いの? あたしには実感が湧かないよ」
「そらそうや、特大なんて目にしたことがある方が珍しいんやからな。ちなみにや、この一瓶で、うちの魔力は空っぽや」
「え、ミラちゃんってエレーナ様以上の魔力だったよね?」
「せやで」
「え、その瓶、何が出来るのようになっちゃったわけっ!?」
「分からへんけど、とんでもない雷の魔力が込められてるで」
「……ヤバいね」
「せや、ヤバいで」
あたしはミラちゃんとしばらくの間、わざとらしくお互い目をパチクリしながら、見つめ合った。
「……粉末化は体系化されていないので、売却できなそうですね。領地は難しそうです」
リネちゃんが、ボソッとそんなことを呟くので、あたしとミラちゃんは大笑いした。
「ケラケラケラ、リネット、あんた、領地に興味あるんかいな」
「あははは、リネちゃんも意外と現金なんだね〜」
チャキッという音が首元に聞こえる。あたしの首だけじゃない。ミラちゃんの首にもナイフが当たっている。ヒィッ!
「……領地があれば、エレーナ様を守りやすいじゃないですか。違いますか?」
「違わへん」
「違いません」
◇◇◇
あれから、持ってる魔石は全部砕いて瓶詰めにした。あたしの持ってた魔石でも、10日くらい暮らせる価値があるそうで、それだけ貴重だから、砕くなんて発想は誰も持たなかったみたい。
この技法は3人だけの秘密ということになり、その後はドライヤー製作に着手していた。魔石の並列接続で、構造はほぼ完成していたけど、魔石が邪魔で使い物にならなかった。
だけど、今日の発見で製品化へ更に一歩近付いた。それと、次の課題はもう決まってる。
スイッチを付けること。




