17.本物の実戦
屋敷が襲撃されてから、3日後。宿屋を出るあたしの前に、リネちゃんがやって来た。
「……屋敷の復旧作業は完了しました。よって、貴女の護衛に戻ります」
今日は、サンダーソードと魔導アーマーに、疾風の靴で、実際に魔物を狩ろうという日だった。これまで2日間、戦えるようにトレーニングしてきた。できるはず。
「……ミラージュの魔導具ですか? 本当に大丈夫ですか?」
「何やねん、リネット。大丈夫に決まっとるやろ? 不満でもあるんかいな?」
「……いえ、何でも」
「ほんまに大丈夫やて。あかんくなったら、うちがフォローに入るさかい。それに、あんたも加わってんやから、援護は問題ないやろ?」
「……はぁ」
再び東の森へやってきたあたしたちは、魔物の集団を発見する。
「思ったより数が多いやんか。リネット、少し削ったってや」
ミラちゃんのその言葉に、リネちゃんは不機嫌そうに返事をする。
「……仕方ありませんね」
次の瞬間、目の前にいた集団は飛び散り、1体だけとなった。なったんだけど、リネちゃん、激つよなんだけどっ!
「ほないこか、ぴかりん」
「う、うん……」
気まずいよー。リネちゃんのあんな鮮やかな姿を見た後に、あたしの拙い戦いを見せるなんて、罰ゲーム過ぎるんだけどっ!
でも、やらなきゃ……
あたしは疾風の靴を履き、サンダーソードを前に構える。この靴は、浮力のせいで、普段履くとまともに歩けないため、戦闘直前に履く。魔導アーマーはすでに装着済だから、準備は整った。
一歩踏み出す。風の魔力でそれは大きく前に出る。その瞬間、魔物が気付いた。
ぐぉぉぉぉぉぉっ!
雄叫びをあげる。もう一歩、踏み込む。攻撃範囲に入った。剣を振り上げ――
ガンッ! 鈍い金属音が響く。同時にあたしは後ろに吹き飛ばされる。
ガランガランガランガランッ!
転がるあたし。鎧と魔石がぶつかり合って、金属音が広がる。
「痛たたたた……」
立ち上がったあたしを、魔物は追ってくる。今なら剣を振れる――
フンッ! 弱く風を切ったサンダーソード。遅れて、電撃が迸る。
ズドォォォォォンッ! 大地を裂くような激しい炸裂音がする。
「倒せた?」
え? まだ生きている。何で?
「……見ていられませんね」
その声と共に、魔物は霧散する。そこに佇んでいるリネちゃんは、ミラちゃんに告げる。
「……ミラージュ、戦闘訓練が甘いんじゃないですか? これでは、すぐ死にますよ?」
「せやな、少し甘かったかもしれへんな。うちのせいや、反省しとる」
二人の会話を耳にしながら、自分の動けなさ加減…… 一撃貰った後の恐怖心からの焦り。それで、練習通りの距離感で動けなかったことを猛省する。鼓動がまだバクバク言っている。
これが、実戦。
「……ぴかりん? 聞こえとるか、ぴかりん?」
しばらく放心していたようで、心配そうなミラちゃんが覗き込んでいた。
「……ごめん、うん、大丈夫」
王立暗殺学校なんて、テンプレ設定だなとか思ってたけど、とんでもない。リネちゃんは本当に凄いんだ。知らないから分からなかったんだ。あたしは戦闘を知ることで、リネちゃんはもちろん、エレーナ様やミラちゃんが凄いことも痛感した。
「ごめんなさい、二人ともっ! あたし、分かったつもりで分かってなかったっ! 二人は本当に凄いんだねっ! 尊敬するよっ!」
心から謝罪した。命のやり取りを当然としながら、あたしみたいな無能力者を守るんだから、尊敬しかなかった。
「……」
照れくさそうに視線をそらし、頬をポリポリかくリネちゃん。
「せやでっ! うちらは凄いんやっ! せやからぴかりん、あんたも凄くなるんやでっ!」
格好は奇抜なのに、言うことはいつも頼りになるミラちゃん。
「うんっ! あたし、もっと頑張るよっ!」
あたしは決意を新たに、次の狩りに向かう。すぐに魔物を見つけ、単体になるようリネちゃんが調整してくれる。
今度こそ。
疾風の靴を履き、一歩踏み込む。その移動中に剣を振りかぶる。やらなきゃやられるんだ。
そして、着地した時、距離を見る――
イケるっ!
弱々しい風斬り音だったが、確かに振り抜いた。次の瞬間、雷が宙を走り、目標の魔物めがけて突き刺さる。空が裂けるような轟音の後、魔物が霧散した。
「ぴかりんっ! できたやないかっ!」
あたしの頭をわしゃわしゃと撫でるミラちゃん。一応、年上なんだけど、貫禄負けしてるから甘えちゃお。
「……辛うじて及第点、と言ったところでしょうか」
リネちゃんもきっと褒めてくれてるんだと思う。アニメとかで無敵の強キャラみたいなリネちゃんに、戦闘を褒められるのは素直に嬉しい。
この日は町に戻ることになった。素材組合に立ち寄り、倒した魔物から取れた素材を換金してもらう。40,000ロストになった。
換金額が多いのは、リネちゃんが数の調整でたくさん倒してくれたからだった。魔石も2つ貰えた。
そして、今日はここで解散となり、あたしは屋敷に帰ることになった。
それにしても、何から何までお世話になりっぱなしで、本当に心苦しい。
そうだ、2人にはやっぱり何かプレゼントしようっ! ちょうどロストも手に入ったし。あの雑貨屋に寄って帰ろうっと。




