16.サンダーソード
翌朝。リネちゃんは、しばらくの間、屋敷の復旧作業にかかり切りで、そばにいない。すっかり身体に染み付いたリネットタイマーのお陰で、もう昼という時間、完全に寝過ぎた。
エレーナ様は、変わらず公務に出かけているんだろう。本当に勤勉だなぁ……
食堂に入ったあたしの目の前には、ミラちゃんのお母さんがとっておいてくれた朝食が置かれていた。
「いただきます」
パンにチーズとハムを挟んで焼いた、いわゆるクロックムッシュと、白く濃いミルクだ。食べながら、あたしは考えていた。
今のままでは、守るどころか、足を引っ張るだけで、居ないほうがマシだ。
食事を終えると足は自然に、ミラちゃんの研究所に向かっていた。エレーナ様から、屋敷の件は気にせず、自由にやるよう言われたし、行く場所が他にないからね……
「元気ないやんか、ぴかりん。聞いたで、襲撃があったんやってな」
「……うん」
ミラちゃんに促されるまま、テーブルにつく。そして、あたしは昨夜の出来事を話し、自分の無力さに腹が立っていることも伝えた。
「何の因果か、魔力ゼロやからな…… 無力になってまうのはしゃあないと思うで」
「……だけど、こんなに迷惑かけるくらいなら、あたしはエレーナ様のそばにいない方がいいと思う」
考えてみれば、初めから何もできなかった。いつか見たアニメのように、特別なスキルを持っていて、無双できる訳でもなければ、天才的な頭脳を持っていて、何でも解決できる訳でもない。何なら、その辺の町の人の方が、あたしより強いわけで――
「いつも明るいぴかりんが、ずいぶん弱っとるやないか」
ミラちゃんは立ち上がると、あたしの元へやってきて、バンと力強く背中を叩いた。
「あんたは、うちに翼を授けてくれた。今度はうちが、あんたに翼を授けたるで。要は一人で多少でも戦えればええんやろ?」
そう告げると、ミラちゃんは奥に向かった。そして、戻って来たその手を見て、あたしは驚いた。
「……な、何それ?」
「驚いたやろ? これはヘビーメイルっちゅー騎士がよく使う鎧に、魔石を付けた、通称、魔導アーマーや」
見た目は言葉にならないほど、ダサい。これでもかと、あちこちに魔石が埋め込んであるから、やたらとゴツゴツしてる。魔石の大きさによる性能や魔導具の説明を聞いた後だから、やりたいことは何となく分かるけど。
「……どんな効果なの?」
あたしの質問に、胸を張って鼻をフンフンと、興奮しながら言い放つ。
「力がなくても、ヘビーメイルが着れるんや、すごいやろ?」
凄いのかもしれないけど、まだよく分からない。
「着てみ」
「うん」
ガシャと重たい金属音がした後、着用すると身体に吸い付き、軽やかに動く。
あれ? 鎧の光具合から感じ取れた素材の重さに比べると――
「重さ感じへんやろ?」
「ない…… 何で?」
「風の魔力を込めてあるんや。せやから、風力で勝手に浮くっちゅー話や」
凄い。そんな気はしてたけど、ミラちゃんは天才だと思う。
「これで、多少は魔物の攻撃に耐えられるで。あとは、前回貸したこれや」
疾風の靴が渡される。使用感は分かってるので使いやすい。
「このセットがあれば、最前線でも多少は戦えるやろ。あとは、武器やな……」
そこに立てかけてあった、あたしの身長の半分ほどの剣を渡される。
「これは、その辺で手に入るロングソードにそこの魔石を埋め込んだだけのもん、名付けてサンダーソードや。見ててみ――」
表の岩肌まで案内される。
「ほな、行くでっ!」
ブンと振られた剣からは、雷が宙を走る。遅れて目の前にあった岩石は弾けた。
「……ヤバ過ぎでしょ」
驚くあたしに、剣は渡された。思ったより軽く、1、2回なら狙い通りに振れる自信はあった。
「自分で体験してみ、もっと驚くで」
あたしは向こうに見える岩石を狙って、剣を上から下へただ振った。
ミラちゃんのような鋭い風斬り音は出なかったけど、次の瞬間――
ビリビリビリビリィィィィィッ!
ドッカァァァァァッン!
岩石は砕け、地面は焦げる。
「……」
言葉にならなかった。無力なあたしが、自力で戦えるかもしれない力を手にした瞬間だった。そして、魔導具への、魔石への可能性を身を持って思い知った瞬間でもあった。
「どや? 凄いやろ?」
「うん、凄い。あたしもこんな凄いもの、作ってみたい」
「ええ顔になったな、安心したで。とりあえず、この3つはぴかりんに預けるから好きに使いや」
「ありがとう、大切に使わせてもらうね」
「無くさんといてな。うちも作り方がもう分からんのや」
「うん。気を付けるよ」
ミラちゃんにも、お世話になってばかりだなぁ。何か、プレゼントしようかな。それなら、リネちゃんにもしなきゃ……
それから、魔導具の初級編をいくつか組み上げていて、一つ気付いたことがあった。並列接続で、属性の混合が可能だったけど、直列接続だったら、弱い魔力が増幅されるのかな?
あたしは、早速、ジッポライターの魔石に直列でもう一つ繋ぎ合わせてみた。
カチッ―― ブホッ!
「何やねん、それ? どないなってんねん? うちの作った物とちゃうで?」
火力がざっと4倍くらいに膨れ上がっていた。危なかった、あと少しで、天井が燃えるところだった。
「ふっふーんっ♪ あたしのポンコツリケジョ時代の記憶でも、これは使えちゃうかも」




