15.勇者セス
あたしは、尻に付いた砂を払い終えると、顔を上げて改めて謝罪した。
「あたしの方こそ、よそ見してました。ごめんなさい」
「いえ、お怪我はありませんか?」
「ありません。ありがとうございます」
それにしても、目の保養すぎる…… キラキラというより、全身から光を放ってるレベルだ。エレーナ様で免疫がついてなければ、危うく昇天するところだった。
「何あの女。わざとらしい」
ついイケメンを拝んでいたら、後ろから女性の声がする。
「絶対わざとぶつかったのよ」
「いやね〜、握手がしたいからってわざわざぶつかるなんて、節操のない」
え。デマが拡散されてるんですけどっ!
「……えっと、わざとじゃないですよ?」
あたしは、恐る恐るイケメンを見る。キランッ! うっは、何この笑顔。はい無理。寿命削れた。今ので三年は逝った。
「分かっています。今後は、気を付けてくださいね。では」
正統派なイケメンを見送っていると、刺さりまくる嫉妬の視線…… 痛い痛い痛い、早く逃げなきゃっ!
「ぴかりんではありませんか?」
急いで帰ろうと早足で歩いていると、後ろから聞き覚えのある声に呼び止められる。この女神の如きお声は――
「エレーナ様っ!」
振り向いた瞬間、尊みぃぃぃぃっ! さっきまでの嫌なことはすっかり吹き飛ぶ。イケメンも捨てがたいけど、エレーナ様の美貌には遠く及ばない。加えて、後ろを歩くリネちゃんもいつも通り美少女なので、エレーナ様側に軍配が上がる。
「聞いてくださいよ、エレーナ様――」
あたしはさっきぶつかったイケメンと、それに嫉妬する女たちの話をした。
「……ほんと、怖かったです」
「たぶん、それはセスですね」
「セス?」
「はい。勇者セスです。今は東部の魔物狩りに出ていると聞いていましたが、人員の補充でしょうか」
「……あれが噂の勇者、ですか〜」
あー出た、勇者。ミラちゃんが話してたやつ。エレーナ様を守ってくれない謎の勇者。正直、良い印象はないけど、あの爽やかさは悪い人ではなさそうだよね。
「大人気なんですね〜」
「ええ、彼の周りにいつも女性の取り巻きがいて、わたくしも酷い目に遭わされました……」
「え? 聖女様にそんなことするんですか?」
「彼はわたくしとは同郷でして、聖女になる前の話です。今思い出しても、ゾっとします」
エレーナ様…… 今だって酷いのに、何だかいつも不遇なポジションに置かれてて、可哀想。
……この人がまた泣くの、見たくない。
そして、いつも通りの夕食を迎えるはずだったけど――
「偽りの聖女めぇぇぇぇっ! お前のせいで俺の家族はぁぁぁぁっ!」
半狂乱した訪問者によって、ぶち壊しにされる。
もちろん、すぐにリネちゃんと執事が応戦しようとしたけど、厄介なことに魔法を巧みに操るため、接近できずにいた。
トイレ帰りの民・あたし、完全に巻き込まれる。
そんなあたしを庇って、前に出れないでいるリネちゃんは悔しそうに歯を食いしばる。
一方、執事は、どうやら戦闘が得意ではないようで、避けるので手一杯だった。
防戦一方の最中、エレーナ様が合流した。
「……魔導士長、ヘイズ。何故、貴方が」
すかさず、エレーナ様が聖女の加護と唱えると、あたしたちは青白い結界に包まれる。火も水も雷も通さない。そのおかげで、やっと一呼吸おけた。
だけど、すでに屋敷は炎の中にあった。
「お前が召喚の儀を失敗したせいで、俺は責任を取らされ、一家処刑になったんだぁぁぁぁっ!」
ひぃっ! 無関係の家族まで巻き込む仕組みなのっ!
「俺はお前を道連れにしないと気が済まねぇぇぇぇっ!」
必死に様々な魔法を撃ち込んでいるが、結界の前に全て霧散する。
そんな中、エレーナ様に向けてリネちゃんが頷く。それを受けたエレーナ様は、深く息を吸った。
「ヘイズ…… あなたには同情いたします。ですが、わたくしは今ここで、死ぬわけにはいかないのです。リネット、お願いします」
「……畏まりました」
その返事と同時に駆け出したリネちゃんは、次の瞬間、ヘイズの懐にしゃがみ込んでいた。
そして、両手を首筋で大きくクロスさせると首が飛び、鮮血が噴き上げる。
気付いた時には、リネちゃんはあたしのそばにいた。
「……では、火を消しましょう」
エレーナ様は、慣れた手つきで聖なる雫を降り注がせ、鮮やかに消火していく。そして、あたしの元にやって来て頭を下げる。
「ぴかりん、ごめんなさい。こんなことに貴女を巻き込んでしまって……」
「い、いえ。エレーナ様のせいじゃありませんよ。逆恨みでしたし」
あたしが居なければ、もっと早く終わっていた。焼け落ちた屋敷を見て、拳を握る。
「ぴかりん、一緒に宿屋に泊まりましょう」
エレーナ様に連れられ、訪れた宿屋では、どこか見覚えのある目をした中年の女性が切り盛りしていた。誰だろう?
「あんたがぴかりんさんかい?」
名乗ってないのに名前を呼ばれ、少し驚いた。
「は、はい。あたしがぴかりです」
「いつも娘が世話になってるね。相手してくれてありがとう」
「え?」
娘? よくよく顔立ちを確認すると――
「あぁぁぁぁっ! ミラちゃんのお母さんっ!?」
「ふふ、そうです。ここはミラージュの家です。お母さん、わたくしとぴかりんの二人で、また数日、お願いいたします」
「リネットさんから聞いてるよ。エレーナ様も災難だったね、好きに使っていいよ」
「ありがとうございます」
今日は遅いということで、借りた部屋に入る。あ〜、疲れた。そう思ったら、グ〜…… お腹が鳴る。夕食まだだった。
すると、ミラちゃんお母さんが夕食を持って来てくれた。




