14.初めての魔導具作り
翌朝。朝食に現れたエレーナ様は、いつも通りだった。にこやかに笑顔を浮かべ、まるで何事もなかったように気丈に振る舞っていた。だけど、腫れの引いていない瞼を見て、あたしの気は引き締まる。
エレーナ様を見送った後、今日はリネちゃんがエレーナ様の護衛でいないため、一人で秘密の研究所に向かった。約束はなかったけど、ミラちゃんはいるかな?
「ぴかりんやないか。一人か?」
「うん。今日はリネちゃんがエレーナ様の護衛で一緒に出かけてるんだ」
「何や、討伐の日かいな」
「討伐の日?」
「聖女の役割として、月に2、3回、王国兵団を引き連れた大討伐があるんや」
「へ〜、何か大変そうだね」
「まあ、大変やろな。勇者ほど大変やないやろけど、強い敵がぎょうさんおるところで、戦わなあかん」
「ひぇ〜。え? てか、勇者いるの?」
「当たり前や、おるで? 何ゆうとるん」
……その割にエレーナ様の置かれてる状況って深刻じゃない? 守ってあげてよ、勇者様。
「そういえば、ミラちゃん。昨日――」
あたしはかいつまんで昨日起きたことを説明した。
「……せや、ゴミクズどもなんや、上の連中は。許せんやろ?」
「うん。絶対、許せない。あたしも、エレーナ様を守るためにできることは何でもしたい」
「有難い言葉や。うちは、先日のぴかりんの閃き、魔石の並列でアイデアが湧き出て止まらないんや。せやから、ぴかりんが戦えるような魔導具も作ったるさかい」
「ありがとうっ! あと、お願いがあるんだけど…… あたしにも、魔導具の作り方、教えてくれないかな?」
「ええでっ! 技術は共有した方が進歩が速いっちゅーしな。二人でエレーナ守ったろやない」
「うんっ! 頑張るよっ!」
という訳で、さっそくこの日は魔導具の基礎から教えて貰うことになった。構造的にはほぼ電化製品で、前の世界で見覚えのある材料ばかりだった。バッテリーや電池に当たる部分が魔石になっている仕様だった。
ただし、魔石には属性を付与できるという点がある。これにより、配線の仕方や使う材料を変えず、銅線で魔石を繋ぐだけで済む。
ネックは、サイズの割に出力が低いのと、魔法が使えないと充電できないこと。加えて、あたしは魔力ゼロのため、道具は作れても単身では使うことができない。常に魔力を供給してくれる協力者が必要というわけ。
今は、ミラちゃんが魔石に魔力を込めてくれるから、問題ないけど……
先の心配をしながら、初級編の怪しい魔導具…… あの店で見たジッポライター製作を始める。まさかミラちゃん製だとは。苦笑いしつつ、真剣に説明を聞いた。
初めての自作魔導具。動作確認……
小さな火が灯る。やった。できた。
「嬉しいやろ? うちも初めてはほんまに嬉しかったで」
「うん、嬉しいね。ところで、ミラちゃんは誰に教わったの?」
「……」
普段、明快に話すミラちゃんなだけに、その沈黙がやけに重く感じた。聞いちゃいけない話だったかも――
「あ、いいんだよ、別にっ! 言いたくないことは誰でもあるし」
そう告げて、話を逸らすように魔導具の山に手を伸ばす。建物内をガシャガシャという音が包む。
「あたしもリネちゃんみたいにナイフ持ってババッと魔物をやっつけられたらいいんだけどね〜。ところで、これは何に使うの?」
「……ああ、すまんすまん。気を遣わせたようやな。そない重たい話やないんやけど、気にせんでくれると助かる」
「うんうん。気にしないよ、大丈夫っ!」
余計、気になるぅぅぅっ! けど、ここは我慢だよ、あたしっ!
「その道具は、ここから水が出るだけの代物や」
見た目通り、水鉄砲過ぎたぁぁぁぁっ!
「やってみていい?」
あたしの指がトリガーを引きかけたその時――
「あかんあかんあかんっ! 中で撃つのはマズイんや」
慌てて外に連れ出されたあたしは、指示されるがまま、目の前の岩を狙って撃つ。
凄まじい速度で発射された水は、岩を砕いた。え、水鉄砲って威力じゃないんですけどっ!
「え? 思ってたのと違うんだけど」
「うちも分からんのや。この魔石だけ、どういう訳か大魔石以上の魔力を込められるんや」
「これって、魔物倒せるんじゃない?」
「そうでもないんや。魔物は硬くて、弾かれてまうんや」
「そうなんだ」
初めての狩りで、リネちゃんとミラちゃんがあっさり倒していたから、水鉄砲で倒せる気がしたけど、どうやら難しいらしい。
「あ、そうだ。ミラちゃん、また狩りにも連れて行って欲しいんだけど」
「ええで。リネットがおる日ならいつでもええ」
「分かった。ありがとう」
魔力ゼロなんて、お荷物でしかないだろうに、快諾してくれるミラちゃんの面倒見の良さに感謝だね。
その日は、他に世間話をしてミラちゃんとは別れた。
夕暮れ時の帰り道。あたしは、あちこち注意散漫に歩いていた。何だか、いつもより、人が多い? 何かの行事でもあるのかな?
ドンッ! 何かにぶつかってあたしは尻もちをつく。
「あ痛たた…… ごめんなさいっ!」
誰かにぶつかってしまった。その人は、大きな剣を持ち、爽やかな茶色の短髪の男性だった。え、嘘。イケメン居たじゃんっ!
「いえ、こちらこそ、よそ見をしていました」
差し出された手を取り、あたしは立ち上がった。




