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13.あたしにできること

「どこ行った?」

「あいつ、逃げ足だけは速いよな」

「逃げ足ポケメン、ぴかり、ぎゃはははっ!」

「いたぞーっ!」


 草陰に隠れていたあたしは、6人の男の子に囲まれた。毎日毎日、彼らはあたしのところへ押し寄せる。そして、誰かに見られにくい場所に連れて行かれ――


「ぴかりなんて、ポケメンみたいな名前してるのが悪いんだよ、あははは」

「よーし、戦いごっこな? ぴかりがポケメン、俺がトレーナーっ!」

「あ、ズルいぞっ! じゃ、俺はカメリオ」

「んじゃ俺は――」


 何でもいいよ、そんなの…… どうせ、あたしだけがぶたれて、蹴られるんでしょ。


「よーし、それじゃ、カメリオいけー!」


 必死で自分を庇う。ランドセルがドンと音を立てて、勢いであたしは膝をつく。次に、他の子が脇を蹴った。痛い。今度は顔に砂がかかる。やめて。次は、肩を殴られた。助けて。助けて。助けて。


こんな世界、消えてしまえばいいんだ――


◇◇◇


 ハッ!


「エレーナ姐さん、肩を貸しんしょう……」


 気付けばあたしは、観月に変わっていた。さっきまでのエレーナ様の状況から、あたしがイジメられた頃の記憶がフラッシュバックしちゃったみたいで少し意識が飛んでたかも。髪ゴムもちゃんと外れている。

 そんな場合じゃないっ! エレーナ様を助けなきゃっ! でも、ヤバ、どうしようっ! 観月出ちゃったし。観月とあたしは別人だってことを、エレーナ様に説明し忘れてたぁぁぁぁぁっ!


 動揺するあたしをよそに、観月は静かな手つきでエレーナ様を支え、城を出ようと連れて歩く。しばらくして、人目のない場所まで来ると、エレーナ様は糸が切れたように膝から崩れ落ちた。


「うう、ぐすっぐすっ…… ごめんなさい、ぴかりん…… 貴女の力になれなくて…… こんな情けない聖女でごめんなさい……」


 ふわっ――


 観月は泣きじゃくるエレーナ様をそっと抱き締めた。

 ちょっとっ! 聖女様を抱き締めているところなんて見られたら、問題になっちゃうんじゃないのっ!?

 なんて一瞬思ったけど、あたしも抱き締めてあげたい。だから今は、観月に任せよう。


「辛かったでありんしょう…… 苦しかったでありんしょう……」


 寄り添うように言葉をかける観月を、抱き締め返して大声で泣くエレーナ様を見て、あたしは胸が締め付けられていた。

 今日のような扱いをずっとされていたのだとしたら…… あたしの味わったイジメなんてレベルじゃない、もっと大きい苦痛と悔しさを味わっていたに違いない。しかも、まだ16歳。多感な時期にそんな思いをしているなんて…… 考えただけで身の毛がよだつ。


「いくらでも、泣いてくれなんし。わっちの胸ならいくらでも貸しんす」


 優しく頭を撫でながら、そんな言葉をかける観月を見て、こういう時は、あたしよりも、観月の方が向いているかもと思えた。


 しばらく、エレーナ様は観月の胸の中で泣いていた。落ち着いた頃、涙を拭いて身体を離し、腫れてしまった目で観月を見つめる。


「ありがとうございます…… だいぶ、心が楽になりました」

「……エレーナ姐さん、一つだけ忘れないでくれなんし」


 そう告げた観月は、もう一度エレーナ様をギュッと抱き寄せる。


「どんな時でも、わっちは姐さんの味方でありんす」


 その言葉の直後、身体の主導権を観月はあたしに返す。観月は観月なりに、しっかりエレーナ様のことを考えてくれていたということか――


「ぴかりん、本当にありがとうございます。わたくしは救われました」


 エレーナ様はゆっくりと、あたしから身体を離して、そっと微笑んだ。


「いえ、あたしの方こそ、力になれなくてごめんなさい」


 あたしが謝ると、エレーナ様は少しだけ首を傾げ、不思議そうな表情を見せた。もしかして、観月とあたしの違いに違和感を抱いてるのかも? 今が説明できるチャンスっ!


「エレーナ様っ!」

「はい?」

「実はあたし、あたしの中にはもう一人、別人のあたしがいて、何かの拍子に入れ替わっちゃうんですけど……」


 自分で言ってて意味が分からなぁぁぁぁぁいっ! 上手く説明できてないかも……


「……なるほど。合点がいきました。先ほどまでいらっしゃったのが、もう一人のぴかりんですか?」


 ヤバい、通じてたぁぁぁぁぁっ! てか、実際に見てるから分かりやすかったのかな?


「はい、そうなんです! 記憶は共有してるんですけど、身体は動かせなくて……」

「ご自身を、わっち? と呼ばれるぴかりんですね。お酒の時もそうでした」

「あー、そうなんです。って、お酒の時のこと、覚えてるんですかっ!? ち、ちなみにあの子は、観月って言いまして」

「お名前もあるのですね。それでしたら、観月さんにお礼を伝えてください。お陰で立ち直れました、と」

「良かったです。観月も喜んでると思います」


 あたしは、この国のクソさを直に味わった。そして、エレーナ様の置かれている状況の深刻さもこの目で確認して、やっと理解した。だから、リネちゃんやミラちゃんが必死に守ろうとしている理由もよく分かった。


 あたしも戦わなきゃいけないと思った。戦いが怖いとか嫌とか言わず、自分にできることは何か。そして、エレーナ様やリネちゃん、ミラちゃんが少しでも幸せになることは何か。考えさせられる出来事になったのだった。


 それと、観月…… ありがとう。

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